26.それは蛹の灰だった(完結)
それから少し経ったある日の放課後のこと。クロは首の折れたスコップが突き刺さったままの花壇を横目に、校舎裏を歩いていた。特に用事があったわけでもなく、少し頭の中を整理するための散歩だった。やはり兄弟というか、あるいは同じ身体に生まれた人格でしかないためか、困った時にやることはお互い似ている。
あの日以来、彼は香織を殺せなくなっていた。本物の綾宮クロが現れてなお、彼の存在は揺らぐものがあるわけでもなく元のまま、ただ殺意だけを見失っていた。たまに殴打魔として活動する以外では瑠璃華との関係も変わらない。こうしてぼくとたまに入れ替わるのも相変わらず。いつまでもそのまま悩み続けてくれていれば平穏は保たれたままだったろうに。
「……」
されどその日、とうとう彼は校庭の片隅の葉に黒い塊がこびり着いているのに気付いてしまう。それは蛹の灰だった。この学校でライターを常備している人間は二人しかいなくて、その片方は口先ではいくら言おうと、実際にこんな行為ができもしないということを考えれば、本当にやってしまったのは恐らくもう一人だろう。
クロはその光景を想像した。少女は自分を焼き切るかのように、蛹に火を近づけて何度も燃やしたのだろう。焼かれ悶える内側の幼虫が身をくねらせて火影に揺れて、少女はその声なき悲鳴に笑ったのか、泣いたのか。
「やっぱり殺しておいた方が良かったかな」
クロは無表情に、しかしよく見れば気付けるはずの仄かな悲しさを滲ませて囁いた。
灰翅 言無人夢 @nidosina
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