いわくつきの品々を――
寺に帰ったほとりは、真面目に庭先の掃除をしていた。
今日も松の木では首吊り男が揺れているし。
冷蔵庫の陰では殺された男が膝を抱えているし。
結局、ついて帰ってきたノブナガ様は物干しの下にちょこんと咲いている赤い花に向かって、剣を振り回し。
神様はまったく聞いていないノブナガ様に向かって、笑って話しかけている。
平和だ……。
冷蔵庫の中の男が腐りつつあるのが気になるところだが。
勝手に埋めたら死体遺棄だしな。
まあ、犯罪のひとつやふたつ、増えてももう関係ない気もしているが、と思ったところで、ほとりは、環的な危険思想だな、と気づいた。
洗脳されている。
此処に来るまで、普通のOLだったり、主婦だったりしたのに。
そんなことを思い
寺から戻ってきた環は、ほとりが集めた落ち葉を見、
「それ、焼いてみたらどうだ」
と言い出した。
「ああ、焚き火、懐かしいわね」
昔、祖父母の家でやったことがある、と思いながら、
「焚き火して怒られない?」
と訊くと、
「町中じゃないんだぞ。
芋でも入れとけば、芋焼いてますって言えるし」
と環は言う。
「さつま芋あったっけ?」
と言うと、環は少し考え、台所に行った。
人参と玉ねぎを手に戻ってくると、落ち葉の中に、そのままポイッと投げ入れる。
いや、さつま芋はっ?
そして、アルミホイルはっ!?
うーむ。
細かいかと思いきや、雑。
あいかわらず、よくわからない人だ、と思いながら、火のついたマッチを落ち葉に放り込む環を見ていた。
やがて、火の手が上がり、
「あー、あったかいねー」
とほとりが手のひらをかざして、ほっこりしていると、環は納屋の冷蔵庫の横に積んである風呂用の
振り返り、なにか話していると思ったら。
どうやら、冷蔵庫の裏のヤクザ屋さんを、一緒にどうかと誘っていたようだった。
ヤクザ屋さんは、まだ出てくる元気はないようだったが。
……しかし、なんかキャンプファイヤーっぽくなってきたな、と大きくなった火を見ながら、ほとりが苦笑いしていると、後ろで、ワンッ、と犬が吠えた。
昔、繭が飼っていたシロだ。
尻尾をふりふり、なにかくわえてくる。
微笑ましく見下ろしたのだが、
ん? と気づいた。
こいつにくわえられるということは、普通のモノではない?
そう思ったとき、シロはそれをポイッと環がしたように、火にくべた。
あーっ!
とほとりが叫んだとき、横で誰かが、同じように、
あーっ!
と叫ぶ。
「なにしてんのよっ。
出してよっ。
熱いじゃないのよっ」
横に、短いスカートの制服を着たミワちゃんそっくりの女が立っていた。
そこは全裸じゃないんだ……と思いながら、初めて、幽体で現れたミワを見る。
火に放り込まれたので、驚いて、人形から飛び出してきたのだろう。
「なにやってんのよっ。
拾ってよっ」
「諦めろ、ミワ。
もうかなり溶けている。
この姿で出てこられたら、本当の幽霊寺になってしまう」
と環が冷静に言いながら、
確かに……。
髪は焼け焦げて縮れ、皮膚は溶け
ほとりは焚き火から少し離れて言う。
「環、離れた方がいいよ。
変な臭いとか煙とか出るかもよ。
身体に悪いよ」
「あんた、なに人を産業廃棄物みたいに言ってんのよっ。
なんだかあんたが一番タチが悪いわよっ。
繭とキスまでしかけたしさっ」
今度は、あんたを用水路に突っ込んでやるわっ、と叫んでいるが、いやいや、あれ、未來が勝手に落ちたんだよね、と思いながら、ほとりも薪を取りに行き、火にくべた。
「あんたたち、なに火力強くしてんのよっ。
祟ってやるからーっ」
「こら、娘」
叫ぶミワに神様が横から余計な口を挟んでくる。
「祟るのは私の専門だ。
お前はせいぜい呪っておけ」
二人が揉めるのを聞きながら、ほとりは蔵を見ながら、環に訊いた。
「ねえ、もうあれ、成仏させていいんじゃない?」
環は振り返り見ていたが。
「……まあ、いいだろう」
と言う。
いいんだ……?
どいつもこいつも犯罪者は野放しだし、呪いも祟りもそのままだが。
まあ、なんだかそれが許される町のような気もしてきている。
「あー、今日もいい天気ねー」
と段々香ばしい感じになってきた野菜の匂いを嗅ぎながら、ほとりは空を見上げた。
完
ユーレイ寺の嫁 ~このお坊さん、成仏させないんですけどっ~ 櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん) @akito1
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