第5話「木霊と黒」
言葉と
けれど息苦しさが
【
少年とそっくりの
「……」
ゆっくりと、
指先が冷えていく。気温が低いのではなく、内側から体温を
そして少年は――。
「よくわかったね」
それは
「ああ、でも困るな」
指先は空をかいたが、それでも少年の
何度も、指を動かす。万に一つでも
「それは
【……】
「だって、そんなの、どうせ」
言葉の勢いが弱くなっていく。
木霊の黒い
「俺を苦しめる」
この世全てを
全てが黒い
そう考える
「だから」
少年の
「ここでぶっちゃけようかな」
【……ん?】
「俺の本音を引きずり出したこと、
【んんん?】
笑顔の質が変わった。歪さは消えたが、黒い
ミカは改めて地面の上に
「別にこの国を
(ミカ!?)
「俺はどうしてもここで生まれたかったわけじゃないし、物心ついた時から好き勝手言われるし……最悪」
【え、あ、うん。知ってる……けど】
「兄弟は
延々と続く
三十分近く
「――でもさ」
一時間近く
「嫌いになりきれないんだよなぁ」
真っ黒な雨雲から、ぽつりと落ちた
【……うん、知ってる】
黒い
人間の本心を口に出して、本人へと返す存在。
少し声は大きくて、響いてしまうかもしれないけれど。
木霊に
【本当に
気負った様子もなく、ごく自然に出てくる気持ち。
【好きなんだもんね】
胸中は
最後に
それも割れ
どうしても
「……うん」
幼い
痛いとか、怖いではなかった。悲しいくらいに、知っている。
ほんの少し残った――綺麗なもの。
「ヤー
この世にはまだ信じていいものがあるのだと、
「会いたいなぁ」
ほんの数時間の別れであるのに、こんなにも心細い。
灰色の森、
それを
【
「ん?」
【遠い昔の話さ。あれは――】
声が
黒い首が一直線に切られ、影絵のような体が
空も地面も灰色の森で、
「
黒い鋼の
顔にかかった
真っ黒な毛皮の
「コルニクス……」
「ご
美しい少女の姿をしているが、
しかしミカの目に映るのは、外見だけではない。内側――魂まで視る。
「……そっちだって本音じゃないくせに」
「ワタシのことなどお構いなく。
「その口調も演技なのに?」
「
子犬の二世を抱え、じりじりと
「この森はいかがです? 楽しんでおられますか?」
「……」
「ああ、安心してください。この森の歪さに魔人も
「森があること自体がおかしいのですから」
美しい魔人の視点がわずかに移動した。追いかけるように、金色の瞳も動く。
灰に
異常な
「ていっ」
(な、なにを……っ!?)
転がりながらも地面に四つ足で立ったレオは、目の前で
口元の毛を
もふもふ毛玉が
(ぎゃあああああああ!!)
「犬の
けらけらと笑っていたコルニクスだが、言葉の
少年の顔色は青白く、呼吸は浅い。目は
「……はぁ。新人は
(み、ミカをどうする気だ!?)
「教える義理はありませんね。アナタはこれからゆっくりと消えるのですから、気にしても
(はぁ!?)
木の皮に
下では子犬が困ったようにぐるぐると回っているが、気にしていられる
「意識って、魂からどれだけ
弧を描く
前世の意識を
精神で繋がっているのか。それとも別の要因か。目に見えない繋がりというのは、不安を
「死ぬよりも
(……)
「愛しき友よ、今度こそ永遠の別れをアナタに
少年の体を両腕で抱え、
【
木霊の
かち、こち……と時計の音が静かな森に
「アナタは……」
【星の目覚まし時計】
簡潔な
ゆらりと揺れる影絵は不安定で、今にも消えそうなほど
子犬はまるで置物のように静止し、ぴくりとも反応しなくなっていた。
【
感情はあまり
「……また消すのですか?」
【必要とあらば。まあ君が星の
影絵が
それと同調するように子犬の耳がぴくぴくと動き、静止から
【時間切れか。まあこの森にいる間は、何度か機会はあるだろう……】
(ま、待て! ミカを助けにきたのではないか!?)
【
機械的な返事は、説明書の文言をそのまま読んだような
そしてレオの目の前で影絵は
起きた子犬は静かだったのが嘘のように、またもや木の上にいるレオを見つめてぐるぐると走り回る。
「ちっ。時間
展開に頭が追いつかないレオだったが、少女が零した悪態には覚えがあった。
わざとらしい言葉遣い。けれどそれは素の口調を隠すのではなく、まるで親鳥の鳴き方を
(その口の悪さ……お前、まさか!)
レオの言葉を待たずに、少女が走り出す。それは自分より
馬よりも少し
(こ、こうなったら)
もふん、と子犬の毛並みに
(ミカの匂いを追いかけろ! 飼い主のために
犬用の言語を使って話しかけるレオだが、子犬は赤子のような返事をするだけで走る様子がない。
上下に大きく揺れる視界に気持ち悪さを覚えながら、レオは何度も子犬に
どこまで離れたら消えるのかわからない。それよりも恐ろしいのは「魔人がミカをなにかに仕立て上げようとしている」ことだ。
魔王。
人間に
その単語に
(
焦るレオが
そして視界から黒い少女の姿は消え、灰色の光景が無情に広がっていた。
精霊と瘴気の
あと数分早ければ森の外まで
「この森は来るたびに
ぶつくさと文句を
灰色のベッドシーツのような
「野外が初体験というのもいいかもしれませんね」
意識を失う寸前のミカは、
女性が服を脱ぎ出したら警戒しろ。
それはハクタが気まずそうに教えてくれた内容で、細かい意味をミカは知らない。
しかし王族として問題が起きないための防衛みたいなもの、というのは
震える指先で
「おや。瘴気で弱らせたはずなんですが、中々しぶといようで」
それだけでまたもや仰向けに
星空のような漆黒のドレスに、白骨に似た肌。体全体が細いのに、
「まあ安心してください。前も後ろも、アナタの初めてを全部奪うだけですから」
唇を赤い舌で
体を
「
言葉の意味を
銀色の筋。光が残像となるほどの、綺麗な
薄い
いまだ視界がぼやけるミカの目前に、黒い
背中を向けて立つのは男のようで、視線を敵に
その姿には
「……ハクタ?」
北にいるはずがない。
それでも一番安心できる名前を、少年は呼んでいた。
ミカミカミ 文丸くじら @kujiramaru000
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