寿命パチンコに挑戦してみるぜぇぇ!!

ちびまるフォイ

寿命は取扱注意

「ああっ、クソ。またかよ……」


今日も開店時から並んで打ったというのに、

出玉操作されているのではと疑うほどの渋いパチンコ結果。


「なんか……どんどん出なくなってきてるなぁ……」


銀玉に財布の中身を食われつくして帰ろうとしたとき、

ふと誰も打っていない台が目に入った。



回転数:000



「……なんだこれ?」


台には『お金がなくても打てます!』と書かれている。

練習用の台だろうか。ボタンを押してみると、台の受け口に銀玉がじゃらりと流れてきた。


台の上に表示される電子カウンターが表示される。



寿命:5000日



「えっ?」


ぎょっとしたがすでに手は台に触れていた。

勢いよく銀玉が発射されると、寿命カウンターが減っていく。


寿命:4990日


「うそだろ!? この銀玉ひとつひとつが、俺の寿命の1日かよ!?」


慌てて打つのを止めようとするも手が離れない。

空いている片手を上げて店員を呼んだ。


「すみません! この台なんとかしてくれ!」


「ああ、こちらですね。このボタンを押すと……ほら、手が外れたでしょう」


「あ、ほんとだ」


あっさり解決。焦ると判断力が失われてしまうと痛感した。


「こちら、寿命を玉に変える台となっています。

 5000日があなたの残り寿命約15年ぶんくらいです」


「間違って打ってしまったんで、戻していいですか?」


「ええ、もちろん」


「パチンコの景品欲しさに寿命まで削る事じゃないよ……。

 それに、寿命を削って、寿命を手に入れるとか意味わからないし」


「あれ? 寿命パチンコは景品交換じゃないですよ?」

「へ?」


店員は持っていた寿命パチンコの結果表を見せた。


「寿命パチンコは命を削ってパチンコをしますから、

 出玉に応じてこの先の人生の充実度を変化させられますよ」


「こ、ここに書いてある美女との永久ハーレム生活ってマジですか!?」


「ええもちろん」


「やっぱり打ちます!!」


たかだか15年くらい失ってもいい。

どうせ老後の15年なんて、夢も希望もないし、体も動かないんだ。

老後の自由の利かない人生送るくらいなら、15年つぶして幸せをもぎとる。


それこそ、ギャンブラー精神というもの。


「うおおお!! 当たれぇぇぇ!!」


寿命を乗せた銀玉が飛び出して台をにぎやかせる。

ディスプレイには何度も何度も大当たり前の演出が出てくるも――


「どちくしょーー!!」


思わず台に頭突きをするほど出なかった。


「なんでだ……なんでだ……なんで出ないんだぁ!!」


5000日もあった寿命玉もすでに失いかけている。

今思えば、今日は普通のパチンコですら負け続けていた厄日。

こんな日に限って人生をかけた大勝負に挑むべきじゃなかった。


「気分を変えよう……」


いったんトイレに行って、顔を洗いつつ作戦を練る。


といっても、思いついた作戦らしい作戦と言えば願掛けくらいで

トイレの個室に必死に神頼みを繰り返した。

トイレから願われたんじゃ神様も困っているだろう。


すっきりしたところで台に戻ろうとすると、知らないおっさんが打っていた。


「うおおおおい!! なに俺の台を打ってんだコラ――!!」


「うるせぇ、向こう行ってな。運が逃げるやろ」


台にはすでに俺の寿命玉が打ち尽くされていた。

男は俺の寿命を使い切るや、迷わず自分の寿命を銀玉に変えていた。


その迷いのない動作を見て気が付いた。


(こいつ、もしかして、寿命パチンコだと気付いていない……?)


自分の寿命15年分が銀玉に変えられると知っていれば

あんなにほいほい賭けてられなくなる。どうしても慎重になる。


あのカウンターの気付かれる前に、やらなかくては――。


「おっしゃ! やったで! これはアツい!!」


男は待ちに待った大当たり演出に胸を熱くさせた。

息をのみ、食い入るように画面を見ている。


演出のときに画面が暗転した瞬間、画面に映る男と目が合った。


「な、なんや!?」


男も気付いたのだろう。でも遅かった。

後ろから思い切り男を殴ると、男はそのまま力なく倒れた。


意識を失った男の体でパチンコ台に手をかけて、

残り寿命で出せるだけ寿命を出玉に変えてやった。


「あははは。俺の台を奪うからいけないんだ。

 まぁ、このまま寿命を余らせて死ぬくらいなら

 寿命パチンコの出玉として有効活用されるだけましだよな」


人の寿命だと安心して打てる。

容赦なく寿命パチンコを打っていくも、大当たりは出ない。


「くそ! ここまで来て負けられるか!!」


これだけ手を汚し寿命を削って「負けました」とさがれない。

寿命をどんどん出玉に変えて何度も何度も挑戦する。


最後の1玉。


「ああ……もうこれで……」


最後の寿命玉が発射されると釘で軌道を変えながら当たりのポケットに滑り込む。

大当たりの演出が入ると、ディスプレイの前で手を合わせた。


「お願いしますお願いしますお願いします……」


出れば勝ち。負ければ死。

最後の寿命を賭けた抽選が行われる。



777



「へっ?」


画面にはギラギラ光る文字で「大当たり」と表示されていた。

理解するよりも早く台からはとめどない寿命玉が排出されていく。


「うおおおお! やった!! やったぁぁぁ!!」


最後の最後で大当たりの大逆転。これだからやめられない。

最初の寿命以上のドル箱を抱えて交換所へと向かった。


「あの、誰かいませんか?」


店員はフロアに出て入るのか不在だった。

出玉計算機に銀玉を入れて店員を待っていると、忙しそうに店員が慌てて戻ってきた。


「すみません、フロアで倒れている人がいましたので、対応をしておりました」


「そうですか。大変ですね。いったい誰が殴ったんでしょう」


「それで、なにか御用ですか?」


「ええ、寿命パチンコをやって大当たりが出たんです。

 美女とのハーレム生活への交換をお願いします」


「かしこまりました。ところで、寿命玉はどこですか?」


「え? どこって……」




「寿命玉はドル箱から出すと寿命を失ってしまいます。

 お客様が死んでしまうので、寿命交換の時にはドル箱の重さに応じて交換しています。


 台に入れるのはもちろん、機械に入れてしまうと

 寿命が失われてしまいますから」



その日、店内で2人目の死亡者が搬送された。

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