この上なく鮮やかな「斬られた感」。読んだ後、絶対に真似したくなります。

「……斬られたね」
―斬られた、ものの見事に。読み終わった後、背筋が伸びました。

「けどさあ、まさか『斬られる』なんて思ってなかったじゃん。このタイトルで、この文体で」
―あれだね、『なんとか武闘会』みたいな大会でこの作者と一回戦で当たった奴は、間違いなく一刀両断にされるパターンだね」

「だね。開始早々に会場騒然。『一体何が?』」みたいな」
―まあ、皆さんも騙されたと思って読んで下さい。そして同じように斬られてみて下さい。

「しかし何だろうね、この鮮やかな『斬られた感』は」
―ネタバレになるから詳しく言えないけど。読み終わった瞬間に、作者の名前から登場人物の描写、はては応募しているコンテストにいたるまで、すべてがミスリードさせるための布石だとしか思えなくなってくるのがすごい。
「ある意味、斬新だよね。読む以前に作品の外側から布石を打ってくるんだから」

―斬新といえばね、このあいだ劇場で見たコントがすごく斬新だったんですけど。
「へえ、どんなふうに斬新だったの」

―(声をひそめて)出てくる人がね、バナナの皮を踏んづけて滑るんですよ!
「どこが斬新だ、それの」

―ビックリした~!
「ビックリしねえよ。つうかバナナの皮で滑るコントを見てビックリするお前にビックリだわ。
……あのさあ、今どき誰もやらないよ。そんなありがちなネタなんて」

―やりませんか?
「やらないよ。バナナの皮のネタで滑るレビューなら今ここでやってるけどよ……
 だいたいさ、ありがちなんだよ、お前の言うことはいつも」

―ありがちと言えば、このあいだ新しいコントを考えていたんですけど、すんごいありがちな出会いをするカップルの話なんですけど」
「へえ、どんなの?」

―図書館でね、同じ本に伸ばした手が触れあって。
「あー、はいはい。そこから」

―さげすみあいになって。
「見下すのかよ、同じ本取ろうとした相手を。それがきっかけでお付き合いが始まるんじゃないのかよ」

―この『実録!浦島太郎外伝』を読もうとするゲスな輩がアタイ以外にもいるってのかい?みたいな。
「いびつだなあ、セリフもタイトルも……いや、同じものを選んだり欲しがったりする相手とは、たいがいウマが合うもんだよ」

―そうなんですか?
「実はおれが今つきあってる相手も、そんな感じで知り合ったんだから」

―え、あの人と?
「ええ、そうなんですよ。思い出すなあ、あれは三年前」

―銭湯の脱衣所で同じロッカーに伸ばした手が触れ合って。
「……‥いや、俺のパートナーは女だから」

―ええー!そうだったんですか?
「失礼だな、てめえは。多種多様な意味あいで……きっかけは、あれだよ、ほら」

―ザクに襲撃されたコロニーで、偶然見つけた新型モビルスーツに同時に乗り込もうとして。
「男の子限定だろ、それは。つうか俺も彼女も地球はおろか国内から一歩も出たことありませんから」

―じゃあ、いじめっ子にバカにされて未来から来たネコ型ロボットに同時に助けを求めようとして。
「男の子限定だよ、それも。だから俺の彼女は女だって」

―じゃあ、子供にいじめられているカメを助けようとして同時に手を差し伸べて。
「それも男の子限定だって。つうか浦島何人いるんだよ。近頃の幼稚園の発表会か」

―で、最後は同じ玉手箱を開けようとして手を伸ばして眼と眼が合うと。
「だから浦島太郎はもういいっての」

―で、モクモクって煙が出て、じいさんになった浦島太郎が何十年ぶりに家に帰るんだ。
『今帰ったぞー』って。こう、折詰めの土産をぶら下げて。
「また、ありがちに戻っちゃった。古いなあ、折詰めぶら下げて帰ってくるオヤジとか」

―『おみやげのバナナの皮だぞー』
「それは斬新だな。もうういいよ」


<了>