とにかく全てが高レベルでした。使われている言葉、内容のリアリティ、そして筆致のどれも。ただ、頭に入ってこないような難しい物語という意味ではありません。それどころか、ワンランク上という感じの情景描写も素晴らしくて、作品世界を見事に演出されていました(それでいて時々コミカルなのが面白いです)。
ストーリーの中心は、草原の朽ち果てた集落で見つかった百年前のあるものです。それは、間違いなく紳士だけれど、どこか子供のような上官と、そんな彼に不満たらたらかと思いきや、心底慕っている部下との、意図せず始まった交換日記。
記録でありながら見えるように生き生きと描かれたそれの、なんと魅力的なこと。確かに、一般的には耳慣れないだろう言葉や熟語があっさり登場するのですが、ほかはただただ丁寧なだけで、実はスッと入れるあまりに美しい世界に酔いしれてしまいました。
でも・・・。
ラストはあえて何も語りません。ただ、とても素敵なお話をありがとうございました。
「民俗学」をテーマにした短編です。民俗学となると、対象となる人々の生活や習俗について詳細に描かねばならないから長くなる?とか勝手に思い込んでいたのですが、短く、メリハリのある、しかし「生活」が見えてくる、もう、大当たりとしか言いようのない短編でした。
二つのパートが交互に出てきます。一つは調査に当たる現代人、もう一つは調査される側の約100年前の人々です。この世界自体、現実のものとは違うのですが、現実世界においても、考えねばならない問題を含んでいると思いました。
このお話の魅力は、やはり、調査される側の人々が「日記」を残しており、自らの言葉で語っているところです。交換日記のようになっていて、ここに出てくる「エルディオス様」のかわいいことと言ったらもう!何の話であれ、人物に魅力があることは話の面白さの絶対条件だと思います。「観察対象」ではなく、生きた人間なんだという当たり前のこと。短い場面ながら、雪の中に消えていった彼らの姿が克明に浮かび、とても愛着が湧きました。
しかし、現実社会の民俗学においては、文字がない、記録がないなどの理由から、彼らのように「自ら語る」ことができない場合が多いです。自らのあり方を、自らの言葉で語ることができないと、結局「発見者」の側がステレオタイプを押しつけていくということになりがちです。
私がこのお話を読んで、切ないながらも救われた気持ちになったのは、「彼ら」が自分たちの言葉で語っていたからです。これは、現実の民俗学ではなく、「異世界の民俗学」だからこそできた、素敵な奇跡ではないでしょうか。
異世界ファンタジーですが、現代に近い世界観の人間だと思われる学者が古びた日記を発見するところから始まる、どこかの世界で本当にあったかのような物語です。
日記につづられているのは、軍属の調査官である女性がかつてその地に生きていた人々の生活や思想ですが、100年前のこととは思えないほど生き生きとしていて、最初は緻密に練られた世界観にただただ圧倒されるばかりでした。建材について、光の神と闇の神について、婚姻について、圧倒的な情報量で彼らの生きる世界が表現されています。
その、まるでそこに実在したかのような、けれどどこかノスタルジックでファンタジックな世界を、軍靴の足音が踏み荒らす時――文明が押し寄せてきた時、日記の著者は――。
最後は驚きの展開でした。
その文化に生きるひとびとの文化を踏みにじるということはどういうことか――。
世界は優しいばかりでないのですね。文明の衝突です。
いろいろと考えさせられる物語でした。
日記を見つけた人物と、過去にその日記を記した人物が交差する物語。日記を見つけるのは現在の登場人物。日記には、北の草原の民とのやり取りや、その土地の独特な風習や神話が記されていた。
作者様が民族的なものがお好きということが、よく反映されていて、日記の中に記されている民族の風習がとても興味深かった。例えば光の神と闇の神では、光の神の方が厳しく、闇の神の方が温厚である。そして題名にもなった「風牙」の存在。さらには民族内の結婚の様子など。
そして、現在の静的な様子と日記の中の動的な様子の対比。この対比で緩慢になりそうなところを締めているところが、さすがだと思う。
小生を含め、民族的なものが好きな方にはたまらない一作。
是非、ご一読ください。