カクテルの登場する小説というと、大人の男女がバーでカッコ良く飲んでいる、いかにも大人の恋愛物だったり、あるいは、中高年男性の人生の重要な場面にかかわっていたり……
市販の小説や漫画に、私はそんなイメージを抱いていました。
良い話ではあっても、知らないリキュールや材料を使う奇をてらった新しいカクテルが要となる話ではまったく味の想像が出来ず、話に入り込めずに残念がることもありました。
ですが、こちらは、大学生たちのお話です。
これなら、読み手が学生やお酒に詳しくない大人であっても取っつきやすいでしょう。
カクテルは、決して大人だけのものではなく、強いお酒が飲める人だけのものでもなく、アルコール度数の低いカクテルにも、ノンアルコールカクテルにも、謂れやロマンがあります。
特別なものとしても、特別でもなくただ楽しく飲んでも、最近はやりの家飲みでもいい。もっとずっと身近に感じられていいものなのです。
そんなことを思い起こさせていただきました。
大学生たちの想いが交差する杏のカクテル「アプリコットフィズ」は、どんなお味なのでしょう?
この素敵な物語で、ほろ酔い気分に浸ってみませんか?
大学時代がありありと思い出されました。
まあ、こんなロマンチックなことは起こりませんでしたが(笑)
距離の縮まらなかった主人公と冴えない男子学生。それが、主人公が彼の思わぬ文才を発見することで、ぐっと近づきます。
憎いことをしますね、寺本くんも(^^)
さらに、単なるヒューマンドラマではなく、寺本くんの作品を抜粋する、という形でファンタジックな色彩を帯びており、その作中作を想像するだけでも楽しいです。
ヒューマンドラマにこうしてファンタジー性を持たせるとは、目から鱗状態でした……。
『なるほど、こういう展開もアリか!』ということで、大いに勉強させていただきました<(_ _)>
本作は、さり気なく散りばめられた、幾つかの対比で構成された恋物語です。
ある携帯小説を巡って対立する主人公と同期の男。無精髭の男が紡ぎ出した夢のような小説。そして、どことなくカクテルの似合わない初々しい二人。
ラストで相入れなかった二人のカクテル言葉を借りたやり取りは、また格別です。
カクテルというと、大人のしっとりとした恋愛が思い浮かびますが、本作は、背伸びしないありのままの大学生が生き生きと描かれているところも魅力です。
個人的には、主人公が最後に注文した『シンデレラ』というカクテルに込められている意味について、作者様が応援コメントで返信されている内容に一番酔いました。