第2話犬猿
さらさらと葉と葉が擦れる音が心地よく、また、木漏れ日が草に反射しキラキラとした光が眩しい。深呼吸をして瞳を閉じ、森の中で気配を消した。虫が一生懸命羽ばたく羽と羽が微かに擦る。鳴らす音を耳ではなく自然と一体化した体全体で感じ、不規則に飛ぶ虫の行動を感じ取っていた。
五郎吉は、朝の修行のあとに森に残り一人瞑想するのが日課になっていた。体を酷使し、仲間と暮らす家に戻ると毎回、身体に震えが起こり、眠ろうと目を瞑ると父である石川左衛門尉秀門が目の前で串刺しにされる光景が、閉じて暗いはずの目蓋の裏に映し出されるのであった。
この伊賀の国に来て出会った百地三太夫の元で忍術を学び、瞑想を勧められて、行うようになったところ、身体の震えがなくなったのだ。父が串刺しにされる光景は、まだたまに夢で見るものの、今ではこの夢を見た翌日には周りに不幸が起こる前兆として、伊賀流忍者の仲間たちから断るごとに夢の話を聞かれるようになった。
「犬。今日は、銀杏が諏訪に行く。昨夜はどんな夢を見た?」
石川五郎吉は、この伊賀の里では、犬というあざなで呼ばれていた。この伊賀の里で暮らすものは、皆訳ありで元いた里から辿り着いたものばかり。なので、過去を捨て頭領の百地三太夫からあざなをつけられて暮らしているのだ。
「いや、今日は嫌な夢を見た。しかし、旅立つ銀杏ではなく、何か違うことのように思える夢を見たのだ。」
犬の目の前に座って話を聞いていた銀杏は、浮かない顔をしているものの、安堵のため息を漏らし、目を閉じた。周りにいた仲間たちは、犬が言うことが理解できず、ぽかんとしてその場を動けずにいた。
「嫌な夢とは、どんな夢だ?そんで、銀杏ではなく、何か違うとはどういうことだ?」銀杏を妹のように可愛がっていた虎が犬に問い詰めた。
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