Beautiful World

カント

本編

「今の世界は、六番目なんだって」


 虫の鳴き声が響く夜の森。焚火の前で、ふと彼女が呟いた。


「爺様が言ってた。旧世界は、洪水で流されたんだ、って」


「たかが洪水で? 泳げばいーじゃん」


「みんな泳げなかったとか? 爺様、今の常識で昔を考えるな、って」


「洪水で滅ぶ脆さじゃ、満足に狩りも出来なさそうだ」


 俺はごろりと横になった。彼女もまた。


「みんな、いつも腹ペコだったかもね」


「ヤな世界だな」


 彼女は笑った。俺は目を閉じる。今日も狩りは上々だった。程よい満腹感だ。


「明日も腹一杯食わせてやるよ。旧世界の奴らが羨むくらいに」


 俺は彼女を抱き寄せ、密かに思った。きっとこの充足感は、旧世界には無かったものに違いない――。

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