きっとこういうのが「小説を読む面白さ」なのだと思う

 関係性っていうのは目に見えないし、機械で測定することもできないわけじゃないですか。
 一応、言葉にはできます。おおよそなら。親子、友人、恋人同士。などなど。でもそれだとまだまだ不足で、だって人と人の組み合わせの数だけ関係はある。そのどれひとつとして同じ形をしているものはなくて、きっと言葉を重ねたらそのぶん正解には近づくのだけれど、でもどこまで行っても結局曖昧なまま。当人でもなければ正確にはわからない。あるいは当人にさえ。
 そういうものを、視覚や数値ではなかなか表しにくいであろうなにかを、正解かどうかはともかく想像させてくれる。それが物語の、特に小説のいいところで、そういう「いいところ」に出会うことのできるこのお話は、つまるところ関係性の物語なのだと思います。

 主人公はふたり。修一くん、という男の人と、夏織さん、という女の人。そのふたりのお話。ふたりの間には修一くんの甥っ子である怜くんがいて、場所はどこかの本屋さん。つまりは本屋デートのお話、と、あらすじとしてはそんな感じになると思います。現代ドラマです。
 現代ドラマなので敵と戦ったりしません。謎を解いたりもしませんし、走ったり叫んだりすることもありません。恋のお話なのに熱くせつない愛の告白みたいなのもなくて、要はデートをしています。普通に。普通にデートしてるくせに甘いいちゃいちゃ的なものもなくて、つまりなにもしてません。たぶん。客観的にはほとんど。

 なにもしていない。きっとそのはずなのに、でも全然そんな気がしない。
 しっかりと存在するストーリー、きっと最初からふたりの間に内在していたのであろうドラマ性は、お話の流れに沿って綺麗に展開して、そのありようや変遷を文章から読み取って想像する、その「読む」行為がとても楽しいです。もっと言えば「読み進む」行為というか、お話がしっかり流れていくことの面白さ。それも、客観的には何か大きな動きがあるわけでもないのに。
 全体的に、ものすごく丁寧に描かれています。滑らかで饒舌な地の文の語り口は、でも核心や答えをただそのまま吐き出すようなことはなく、目の前の風景や会話の節々に仮託されるような形で細やかに、理性ではなく心情にゆっくりと染み込んできます。

 うまく説明できません。ともすればただの独白になりかねないはずのこのお話は、でもこれ以上ないくらいしっかりと物語として成立していて、つまり読んでいて面白くて、でもそれがどうしてなのか、どう言ったものか悩みます。
 ただどうしても触れずにおれないのは、甥っ子の怜くんの存在。修一くんの夏織さんの関係性、色恋の物語であったはずのその中間に、しっかりと存在している一人の男の子。彼は「何」なのか? これはふたりのお話でなく三人の関係性の物語なのか? いずれにせよ言えるのは、彼がいたからこそのこのお話なのだと、そこは間違いないと思います。

 短編から中編くらいの長さでさくっと読めて、特に難しいところもなく読みやすいです。
 読後、「うおー小説読んだー!」って感じになります。好き。だってこういうのが欲しくて小説読んでる。おすすめです。