第25話
「それはどうしてお使いにならないのですか?」
「この弓は――」 こんぱうんど・ぼうを掲げて、ライがリーシャ・エルフィの問いにそう返事をする。
「弦がはずせない構造なんだよ。はずす必要が無いってことなんだが」
「……つまり?」
「エルンにある一般的な弓と同じ様に、べあ・ぼうも弦を張りっぱなしだと弱くなる――だから使ってないときははずしておかないといけない。でもこんぱうんど・ぼうは構造上弱まらないから――つまり使わないときでもこのまま持ち歩けるから、突発事態に対応しやすいのさ。代わりにこのまま持ち歩くしかないから嵩張るんだが、まあそれを利点と取るか不利点と取るかは人それぞれだろうな」
俺にとっては利点だな――とライが付け加える。たしかにそれは、ライにとっては大きな利点だろう――撃ちたいときにすぐ撃てるというのは、いきなり獲物が目の前に現れたときから敵に襲われたときまであらゆる状況で役に立つ。
「なるほど」
納得してうなずいたとき、再び身じろぎして崩れ落ちかけたメルヴィアが目を醒ましたらしく上体を起こして周囲を見回した。
「……あえ? ここは――」 まだ寝惚けているらしいメルヴィアに、ライが小さく息を吐く。
「まだ樹海の中だ。残念だがな」 焚き火の炎の中に薪を投げ込みながら、彼はそう返事をした。
「んー……」 メルヴィアが眠い目をこすりつつ、
「なんだかこの服着て眠るの落ち着かないんだけど……脱いじゃ駄目?」 普段はどんな格好で眠っているのやら、お仕着せられたライの胴衣の胸元をつまんでそんなことを口にする。
「駄目」 ある意味きわどい発言にも慣れっこになっているのか、ライはまったく動揺することなく一言で切り棄てた。
「また虫に喰われるぞ」
「ううう」 ぼやくメルヴィアに、ライは悩ましげにこめかみを親指で揉みながら、
「今まで眠れてたんだから大丈夫だろ――いい子だから帰るまではその服でいてくれ」
「そんな子供に言うみたいに……」 意識が半分眠ったままなのだろう、メルヴィアが眠そうなゆっくりとした口調で不平を漏らす。ライは小さく溜め息をついて、彼女の肩を軽く引き寄せた。
「むー……」 文句を言いながらも振りほどこうとはせずに、メルヴィアがされるがままに弓遣いの腕の中に身を寄せる。小さな欠伸を漏らしながら心底信頼しきった様子でライの肩に体重を預け、そのまま寝息を立て始めるメルヴィアに視線を向けて小さく笑い、リーシャ・エルフィは立ち上がった。
「仲睦まじくて結構なことですね――お蔭様で眠くなってきましたから、休ませていただきますね」
「ああ、おやすみ」 リーシャ・エルフィの言葉に、ライがそう返事をして適当に手を振る。その返答を背中越しに聞きながら、リーシャ・エルフィは竹小屋の中に足を踏み入れた。
修学旅行の最中にバスで事故に遭ったと思ったらクラス全員で異世界に転移してたけど、特に勇者として召喚されたとかではなかったでござるの巻~勇者でもなんでもない偶発的転移者の彼が、異世界で貴族になるまで~ ボルヴェルク @Boverkr
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