第24話
わたしやお父さんは、友達になりたいんだけどな――単なるお金で雇い入れた指導員と雇い主じゃなくて。
そんなことを考えながら再び溜め息をついたときに膝を曲げた拍子に丸太が動いたからだろう、ライが丸太の上に平衡を取って寝かせていた弓が傾いて地面に落ち、カシャンと音を立てた。メルヴィアの体を支えているから迂闊にかがめないライの代わりに、上体をかがめて弓を拾い上げる。
「すまない」 受け取ろうと左手を伸ばすライにすぐに得物を渡さずに、しばし弓を観察する――彼がこんぱうんど・ぼうと呼ぶ異形の弓は
「これはなんですか?」 弦の一ヶ所にそこだけ弦が二重になっている場所を見つけて、リーシャ・エルフィはそう尋ねた。
弦の中央附近、おそらく矢をつがえたときに筈を引っかけるあたりに、そこだけ本来の弓の弦とは別に二重になっているのだ。
「のっきんぐぽいんとだ」 ライはそう答えて、言葉を選んでいるのか少し考えた。
「つまり、矢をつがえるときに筈をかける場所だ――が、まあそれはわかってるだろうけど」
「ええ、この二重になっているのは?」
「りりーさーをかけるところなんだけど、たぶんなんなのかわからないだろうな」 ライがそう言って左手を伸ばし、やりにくそうにしながら二重になった部分を親指と人差し指でつまむ。
「この弓は本来、こっちの射手がやる様な弓の引き方をしないんだ――この二重になった部分に、りりーさーという補助的な器具を引っかけて引くんだよ。で、そのりりーさーを操作すると、」 そこで二重になった部分を横からつまんでいた指を離し、
「こうして弦を放して矢が発射される」
「それは便利なものなのですか?」 そう聞くと、ライはかぶりを振った。
「わからない。はじめての大会で壊して以降、使ったことが無いんだ――それにじっくり狙いを定めて撃てる競技弓術なら別にいいんだが、実戦を考えると連射に時間がかかるから」
だから俺にとっては便利なものじゃない――そう続けるライの返事になるほどとうなずいて、リーシャ・エルフィはこんぱうんど・ぼうを持ち主に返した。この弓でりりーさーを使って射撃をしようとすれば、りりーさーを弦に掛けるぶん一手間増える――ライが言っている時間がかかるというのはそれのことだろう。
「それと、りりーさーは機械的な要素――つまり動く部分があるからな。りりーさーも含めた補助部品に限った話じゃなくて弓本体もそうなんだが、こっちだと壊れたら修理したり交換したり出来ない。壊れたりこの弓を失くして普通の弓に切り替えないといけなくなったときに、補助器具に頼ってると途端に技量が落ちる――そういう意味でも、無いほうがいい」
そう付け加えてから、ライは弓弭の部分の滑車の状態を確認した――おそらく砂や土などの異物がついていないかを確認したのだろう。
「持ってきたのはこの弓だけなのですか?」
「一応もう一張りある。でも、同じものじゃない」 ライが言うには、もう一張りの弓はべあ・ぼう――こちらの世界にあるものと同じ様な弓を彼の世界の技術と素材で再現したものらしい。
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