罰ゲーム作品

四つ目

酷い女

「おはよう、里奈ちゃん」

「ん、おはよう果林」


教室で窓の外をぼーっと眺めていると、私の顔を覗き込む様に果林が挨拶をして来た。

唇が付きそうな程近いが、いつもの事なので特に動じずに返事をする。


「里奈ちゃん今日も可愛いねー。パンツちょうだい」

「死ね。いつも言動に脈絡がねえんだよ」

「ごふっ」


ドン引きする言動を平気でしてくる果林を睨みつけ、腹にワンパンを入れる。

だが果林は一瞬怯んだだけで、私のスカートを掴んで来た。

そして縋りつく様に私を見上げて口を開く。


「ちょっとだけだから! 真ん中の部分だけで良いから! ほら、ハサミあるよ!」

「何の譲歩にもなってない」

「やーだー、一日一回里奈ちゃんのパンツ食べないと私死んじゃうー」

「いつも食ってるみたいに言うんじゃねえよ!」


スカートを放さないどころか、脱がそうとする果林の顔面を蹴る。

殆ど加減なく蹴ったので盛大に後頭部をぶつける音が聞こえた。


「ちぇー、良いもん良いもん。今日は体育があるし、チャンスは他にもあるもんねー」


だが堪えた様子もなく起き上がり、私の背中にもたれかかって来る果林。

そのまま胸元に手を入れて来たので、裏拳を鼻の頭に叩き込む。


「がふっ・・・ちょ、あんまり何回も真正面はやめて・・・」

「お前がそういう事しなきゃいいんだろうが」

「ちょっと成長加減確かめただけじゃない。可愛いピンクをこうコリッ―――」


言い切る前に鞄を振りかぶって、顔面に叩き込む。

どうやら今度は呻き声すらあげる余裕がなかった様だ。

鼻血をぼたぼたとたらしながら蹲っている。


「ああ、里奈ちゃんの愛が私を赤く染めて行く」

「お前本当に気持ち悪い」

「そんな褒められたら濡れちゃう」

「褒めてねぇよ変態」


こいつは私が何をしようが、どういう反応をしようが最終的には喜ぶ。

殴ろうが蹴ろうが無視しようが反応しようが、どう足掻いてもポジティブに受け止める奴だ。


「あ、そうそう、里奈ちゃんに渡すものがあったんだった」


ぼたぼたと垂れる鼻血を気にせず鞄から包みを取り出す。

女子としてそれで良いのかお前。


「昨日お菓子作ったんだー。ホラー、クッキー」

「何か変な物入れてねぇだろうな?」

「失礼な! そういう物は直接飲ませるもん! 私を甘く見ないでよね!」


変な物を摂取させる気が在るという事は否定しないのか、こいつ。

まあ良いか。変な物が入っていないならばと一つ手に取り、口にほうりこむ。


「美味いな」

「・・・えへへー、だから里奈ちゃん好きー」


果林は菓子を口にする私を見て、嬉しそうに抱き着いて来る。

ただしさっきの様なものではなく、純粋なハグだ。


「邪魔だ。食いにくいだろうが」

「じゃあ、ほら、食べさせてあげる。あーん」

「ん」


果林の手から渡される菓子を素直に口にする。

そのさい小さな欠片になった分を食べる際に、果林の指も舐めてしまう。


「ぴゃっ」

「あんだよ、散々変態みたいな事言っておきながら、この程度で驚くなよ」

「あ、う、うん、そ、そろそろ始業だから席に戻るね」

「ああ」


顔を赤くしながら席に戻る果林を眺めながら、次はどう揶揄ってやろうかと考える。

私に構って欲しくて、私の反応するであろう事をやり続け、私が何をしようと喜ぶ女。


あいつを私に執着させるために何年もかけた。

今や何をしようと私を肯定し、私の気を引く為だけに生きる女になっている。

殆ど洗脳に近い状態のアイツの思考誘導など、今更何の苦もない。


「可愛いよ、私の果林」


厭らしい笑みを浮かべている事を自覚しながら、彼女の背を見て呟く。

彼女はどこまで壊れてくれるだろうか。

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罰ゲーム作品 四つ目 @yotume

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