最後に根拠と言いますか、信憑性ってヤツでも語ってみましょうか。


 まあでも、今思い返すと、私でないといけなかったのかもしれない理由には、一つ思い当たります。


 彼女がギターを鳴らすのとほぼ同時にやって来た、あの異常な不快感。あれ私、過去に経験した事があったんです。


 当時の私は、十七歳か十八歳。高校三年生です。信じて頂けるかは全く自信が無いのですが、私この二年前の、高校一年生の夏頃、部室付近で幽霊に遭ってるんです。

 私は全く見えない人なんですけれど、偶然見える人と一緒にいた際に遭遇してしまいまして、その際に感じた寒気と彼女の放つ不快感の種類が、同じだったんですよ。得体の知れないものに近付いた時の、独特の感覚と言いますか。その感覚だけは夢だと疑うには余りに生々しくて、こんな曖昧な記憶のくせに、気の所為だとは思えませんで。この不快感だけが、特別に印象強く覚えていると言いますか。まあその一年生の頃の話は、また別の機会にでもお話ししましょう。


 お腹の冷え方が本当に嫌だったんですよ……。ブラウスの下に手を入れられたみたいに、生々しくて。お互い両手塞がってるし、ブラウスは勿論の事、ブレザーは前を開けずにきっちりボタンを締めて着てるって分かってたんですけれど、思わず彼女の方を見ましたもん。触られたと錯覚して。てめえ、幾ら女同士でもなあって、半分もうキレ気味で。


 ……誰だったんでしょうねえあの女。つかそもそもちゃんと、本当にそこにいたのか。でもいたんならどっかのバンドにいて演奏披露してますし、その瞬間にうわ気持ち悪って、絶対分かってたんですけれど。気色悪いですけれど上手いのはめちゃくちゃ上手くて事実ですから、知名度もっとあってもおかしくありませんし、あんな上手い奴、覚えてます。なんですけれど……。ねえ? 普通の人間に出せるんでしょうか? あそこまでの不快感。


 ――ユーレーなんじゃねーのーって、今更思い出して、背中が冷たくなっております。何校も何バンドもわらわら集まっていた中で、わざわざ私が選ばれたのも、幽霊と遭った経験が、あった人間だからなんじゃないのかなって。ううん洒落にならん……。ただの変わった女の子……? やっぱり夢……? でも、他のベーシストと私を差別化出来る物差しって、それぐらいしか思い付かなくて。


 以来彼女とは、一度も会っていません。会っていたとしてもギターを鳴らされないと、分からないってのもあるんですけどね。顔全く覚えてないんだから。


 まあでも、この夢だか記憶違いだか現実なのか分からないお話は、悪い事ばかりじゃありませんでした。得られたものもありまして、ただいま活用させて貰っている最中です。


 こうして話の種になっているから? まあそれもありますけれど、私はこういう、嫌な女キャラクターを書くのは苦手でして、大変参考にさせて貰っています。これがあるから書けているのかなあと思いますよ。私が書いている『鬼討おにうち』って小説に登場する、豊住とよずみ志織しおり。まあこいつには他に、勝手にモデルにしてる友人がいますから、影響は半分ずつって所なんですけれど。


 似てますよ豊住。ふうん。そう。乗るんだ? 私がそういう奴って分かった上で? って、ギターの音を変えてきた時の彼女の、あの煽るような薄い笑みとか本当に。



 ……これも、何で顔は覚えてないのに、笑ったのは憶えてんのって、話なんですけどね。



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熱しやすい私と、水っぽい彼女について。 木元宗 @go-rudennbatto

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