引用

〔フリードリヒ二世は〕子供たちがだれとも言葉をかわすことができないまま青年期をむかえたならばどんな国語や言葉を話すか、試してみようとおもった。そこで、養母や乳母たちに乳幼児に乳をあたえるのはよいが〔……〕、言葉は一言も発してはならないと命じた。人類の最初の言語であったヘブライ語か、あるいはまたギリシア語かラテン語かアラビア語を話すのか、それとも、やはり自分たちを生んだ両規の言語を話すのかどうかを知りたかったのである。しかし、このせっかくの試みも徒労におわってしまった。子供たちは全員乳幼児の段階で死んでしまったのだ。

               パルマのサリンベネ「年代記(一六六四番)」





 きみは本をつきつける。「この本、もうあと読みたくないよ。博士はきっと最後に死んでしまうんだもん」

「わたしを失いたくないか? 泣かせるね」

「最後に死ぬんでしょう、ねえ? あなたは火のなかで焼け死んで、ランサム船長はタラーを残して行ってしまうんだ」

 デス博士は微笑する。「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ。ゴロも、獣人も」

「ほんと?」

「ほんとうだとも」彼は立ちあがり、きみの髪をもみくしゃにする。「きみだってそうなんだ、タッキー。まだ小さいから理解できないかもしれないが、きみだって同じなんだよ」

               ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平坦な戦場でぼくらが生き延びること @wakefield

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ