巨乳幼馴染とクローズドサークルで入れ替わる話



「……数値的には安定しているが、気分はどうだい?」



 目を開けると、僕の姿と声で。先輩がこちらを見下ろしていた。



「……なんか、気持ち悪いですね。ふらふらする感じです」


「バイタルは安定している筈だけど?」



 周囲を見渡すと白い部屋、なんというか研究室というか、極限まで防音にこだわりましたみたいな雰囲気で満たされた。そんな感じのザ・実験室な部屋の中に2つのベッドとタワー型のコンピューターが1台。


 そして背が低く、口をへの字に曲げた18歳男性としてはまぁ小柄な、ありていに言って僕が、ベッドに寝転んだ僕を見下ろしている。患者服を着ているのはまぁいいとして。頭にネコミミヘッドホンを付けているのはなんかこう恥ずかしい。



「そういう事じゃ無くて、入れ替わった違和感というか?」


「ううむ、データ的には安定…… いや、ちゃんと私の体は動くか?」



 そういわれてようやく、僕は"先輩"の腕を持ち上げる。いや、正確には入れ替わっているわけではなく。頭に着けた脳波を読み書きする機械で、互いの感覚を入れ替えているというのが正解なのだけれど。


 昔から先輩は訳の分からない事をしていたけれど、本格的に科学の最先端を突っ走るようになっていて。割とついていくのが辛い次元に入って来た。



「ああ、はい動きます」



 手を動かすついでに、豊満な胸が視界に入りさっと目を逸らす。その様子を見ていた先輩が、僕の顔でニヤリと笑みを浮かべた。



「揉みたいのなら、許可するが?」


「じゃあ折角なので」



 まぁ、ここまで無茶に付き合ったのだから。これ位の役得はアリだと僕は先輩の胸に手を伸ばす。指でそっと触れるとその圧倒的質量にドキリとするが。あまり興奮度は高くない。


 もっと先輩と、先輩の胸が小さかったころ。事故で触ったしまった幼き日の方が余程興奮度が高かった気すらする。



「ほ、本当に揉む奴がいるか! こちらにも考えがあるぞ!」


「おっと、下半身を攻めるならこっちも同じことをしますよ?」


「ふ、不平等だ! 男性の胸を触って何が――」



 目の前で僕の姿をした先輩が、僕の胸を摩り始める。いや正確には互いの体の操作と感覚が入れ替わっているだけで。こうして思考している自分の脳味噌は向こうにあるのだけれど。だんだんよく分からなくなって来た。



「……これはこれで、なかなか?」


「なんか変な感じに開眼してません? 力こぶを作って触って楽しいんですか?」


「楽しいぞ、うん。普段と違った感覚はとても楽しい。背が低いのも新鮮だ」



 先輩の言葉にムッとするが。彼女も彼女で小さい時から背の高さで虐められていたのだからと考え直す。ガリ勉電柱なんてあだ名で呼んだ馬鹿も居たし、それこそトラウマになっていてもおかしくない。


 しっかりと全員に鉄拳制裁をかましてけじめをつけた結果、切れチビなんて不名誉なあだ名で僕が呼ばれることになったが。それに対しては甘んじて受けたのだから多分許される。



「君としてはどうだ? 背が高いのはそれはそれで面白いか?」


「どうですかね、ちょっと立ち上がってみます」



 ひょい、と立ち上がった瞬間。余りに視界が高くてクラクラしてしまう。


 身長180cmは、いや、公称178.4cmなんて背の高さは、普段158.3cmで生活している僕から見て余りにも高すぎた。



「大丈夫か、脳波に乱れがあったが?」


「いやぁ、まぁ想像よりこう自分と先輩が入れ替わっているってのがキますね」



 そう僕と先輩ならそれこそ入れ替わっても大丈夫かと思っていたのだけど。どうにも自分の姿をした他人が目の前で動いているのは自意識がゲシュタルト崩壊を起こしそうになって結構辛い。



「ふむ、じゃあこっちに用意してある鏡を見てくれ」


「確か自分の姿を確認することでそういう違和感を減らすでしたっけ?」



 そのまま僕の姿をした先輩は、部屋の隅から鏡を持ってくる。


 そこに映ったのは、患者服を着た先輩の姿。長い黒髪、赤い眼鏡、そして巨乳。普段のぽややんとした雰囲気と比べて緊張しているのは中身が僕だからか。いや正確には入れ替わっているわけではないのだけれど。


 手を振ると鏡の中で先輩が手を振って、今自分はこっちなんだなと実感する。



「あー、ましになったというか。ゲシュタルト崩壊が進んだというか?」


「大丈夫か? データの為にあと2時間位はこの状態を維持したいのだが」



 それが大丈夫か、だいぶ怪しい。というか15年の付き合いがある先輩となら入れ替わっても平気だと思っていたけれど。想像以上に辛い、何か気を紛らわせるために使えるものがあればいいのだけれど。そんなものも無さそうだ。



「まぁ、頑張りますけど。調子が良ければ追加の試験をやろうってのは無しで」


「ふむ、そうか…… では、仕方ない。可能な限り実験は早く終わらせよう」



 まぁ、その後2時間ほど。なんか知能テストの真似事や、あっち向いてホイ、あるいは卓球的なことをやらされてデータを取られたのは。なんというか大変だったのだけれども。


 今後も僕は、この年上の幼馴染に付き合うんだろうなぁと内心で笑う。


 なんだかんだで惚れた弱みがあるのだから、この程度の無茶には付き合うし。自分以外の他人が彼女の体を好き放題するのもなんか嫌だ。


 それに、なんだかんだで脳波交換機という名のネコミミを付けた先輩は、とても可愛かったのだから。それでチャラにしてしまっても良い。


 そんな不埒なことを考えながら、僕は彼女の研究に付き合っていくのであった。

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