お手本のようなライトノベル

ストーリーも文章もthe・ライトノベル。気軽に読めて面白い作品を探しているなら最適。ライトノベルと言うと、通常の小説と比べ劣っていると思う人が一定数います。勿論、文章の造りなど、いくつかの点では否めませんが、ライトノベルの良さはその読みやすさにあり、コンビニのチョコチップクッキーをパティシエのケーキと比較するようなものです。需要が異なっています。

さて、そんなスナック菓子はカクヨムのようなネット小説投稿サイトにより供給過多になっています。はっきり言って、平均的なレベルは低いです。ライトノベルとは本来、小さな子にも分かりやすく、大人が読んでも面白い作品のことです。(この理屈に沿うなら、最も完成されたライトノベルはハリーポッターです。ハリーポッターをラノベと一緒にするなという人もいると思いますが、これはラノベが目指すべき先がハリーポッターのような作品ということでありハリポタがラノベだと言っている訳ではありません)ところが近年のライトノベルはオタクがオタク向けに作ったオタクの妄想で、味覚音痴のデブが味覚音痴のデブのために作った砂糖まみれのクッキーのようなものです。はっきり言って食えたものではない作品も多くあります。

そんな中、この小説はまさに安く美味い手頃で理想的なクッキーです。当然、まだまだ惜しいところはあるものの、雑多な作品と比べいい点が幾つかあります。
・設定
設定の薄い作品は世界観がちゃちくなります。特にゲームのようにレベルだのステータスだのと言った作品はもうたくさん。面白くない。しかし、設定をこりすぎても良くないです。ただただ説明し続ける地の文と会話。作った設定を全て書かないといけないとでも思っているのでしょうか。読みにくく、面白くない。その点この小説は適度に世界観を構築しています。
・話の展開
最近のラノベは魔王倒す!勇者倒す!なんか事件起こって黒幕倒す!これもゲームのし過ぎです。若しかすると最近のラノベ作家はゲームばかりして小説を読んだことなく書いているのかもしれないと真剣に考えるほどです。なんか敵がいて倒したらいいなんてことがありましょうか。そんな単純なストーリー幼稚園児が書く絵本、或いは小学生が授業中にする妄想と同類です。設定は作り込めるのに話は作り込めないのでしょうか。また、勿論複雑すぎてわかりにくいのも良くないです。デュラララ!!程度が限界だと思われます。(限界を超えている説もありますが)ライトノベルにちょうどいい、単純すぎず複雑すぎないラインはこの小説がひとつの目安になるかと。

・テーマ性
ライトノベルが見下されている最も大きな理由がこれです。かく言う私もあまりライトノベルは好みません。その理由もこれです。テーマ性がない、或いは薄い作品が多すぎます。以前、ある小説家が小説家志望の若者のプロットを見せてもらいアドバイスをするという講義の記事を見ました。その小説家は多くのプロットが設定だけで具体的にどういう終着点で終わるのかという言及がないことに驚いていました。記事ではジャンプやライトノベルのような人気さえあれば永遠と続く悪い形式の影響だろうとしていました。このように、最近の作品はテーマ性がない、或いは薄いのです。小説は、「こんな設定思いついた!」だの「こんな展開エモいやろ!」だのといった妄想の落書きではありません。「私はこの小説を通してこうした思いを伝えたかった」という、メッセージなのです。別に崇高なメッセージを残せという訳ではありません。小学生がわかるようなものでいいし、あやふやでもいい。例えばハリーポッターのテーマは紛れもなく「愛」です。後は各人が解釈をする。ただし、しっかりと考えた上で書かなければならない。でなければ量があっても薄いものになります。
この小説のテーマのひとつは「人との繋がり」だと思われます。主人公は特別な力もない、ただの奴隷だった。最新話まで読んでも、彼は特別財力がある訳でも、権力があるわけでも、武力に長けているわけでもない。人脈でのし上がっている。時折、主人公の周りの人物もそうしたことについて触れています。理想的なテーマ性の織り込み方です。


長々と書きましたが、まとめるなら、この作品は雑多に溢れるネット小説の中で、本来あるべきライトノベルの形に近く、今後の成長が期待できる作品です。