ふるさと。この言葉からは、山村や漁村の風景がイメージされやすいと思いますが、この作者さんのふるさとは東京の錦糸町。そこで育ち、何十年も街を見てきた人です。
歴史ある寺社。人工的な自然でありながら、長い歳月の中で街と一体化している木立や運河。庶民の暮らしが香る街並み。そういったものが描かれているだけでなく、猥雑さやがさつさ、外国人の多さ、都市の画一化の波を受けている面もあり……。
でも、そういう面も全部ひっくるめて、
錦糸町が好きだ
という思いがすごく伝わってくるエッセイです。
私は錦糸町に何の縁もありませんが、それでも、こんな風に自分の街を愛し、そこで育つ子供たちを見守っている大人がいることが嬉しい、と感じました。
終盤では、大人たち、子供たちが一体になって街(墨田区)をPRする映像作品をつくるプロジェクトが語られますが、これは実話に基づく話(『うまい棒が一万本〜』というタイトルはそこに関わっています)で、その映像作品はYoutubeで見ることができます。
このエッセイとともに映像作品(短いです)もぜひ見てください。
「さえずり時々スカイツリー」
錦糸町という街に、きっと行きたくなります。
タイトルの面白さに惹かれて読み始めた物語はとても人情味あふれる楽しいお話でした。錦糸町はもとより、付近の地区をも紹介する手慣れた手腕は読んでいて気持ちの良いものです。語りのテンポも良く、当てはめるなら新聞に連載されているコラム的な構成。「興味を引く」「分かりやすく解説する」という点ではコンテスト随一の秀逸さ。ただしスロースタートなのでタイトル回収へと行き着くまでには少し辛抱が必要。それも含めて「良いな」と思えたのは、明るく和気あいあいとした茶目っ気たっぷりな雰囲気の作風であるからこそでしょうか。「盛り」もなくここまで面白い作品なのは、これまで結んだ縁の賜物なのだろうと感慨にふけること暫し。
東京には用事があって出かけることもあるが、
博物館を除けば、ろくに観光した試しがない。
時代小説を読むから、地名は割と知っている。
昭和の下町の風情というのはよくわからない。
そんな「東京・下町の初心者」の私が読んで、
ふらっと飲み歩きに繰り出してみたいだとか、
うまい棒の巨大な看板を拝んでみたいだとか、
錦糸町というまちにあれこれと興味を持った。
錦糸町に馴染みの深い作者が思い出をまじえ、
愛すべき下町の変遷と現在を語る前半部分と、
タイトルにある「うまい棒が一万本」を巡り、
地元で実際に起こったイイ話である後半部分。
次に東京に行くときは錦糸町も歩いてみよう。
スカイツリーも結局まだ行ったことがないし。
「東京の下町って?」
そんな質問をされると、地方の住民は十中八九「葛飾柴又」と答えてしまうでしょう。それは間違いなくあの国民的映画が脳裏に残した爪痕です。
しかし、下町はそれだけではなく、江戸っ子にとっての下町とは日本橋、京橋、神田、下谷、浅草、本所、深川……などなど、地名で上げれば数多くあるのでしょうが、ここで取り上げられているのは錦糸町です。
私の中では錦糸町と言えばWINSくらいなんですが、それ以外にも魅力的な場所が数多くあって、そのいずれもが「行ってみたい!」と思わせる場所として紹介されています。
これは偏に、作者様が読者の心のくすぐり方を心得ているに他ありません。
……よし、錦糸町のWINSで一山当ててから、豪遊だ!(違うって
これぞ下町、昭和の香りとディープな魅力を残す街、それが錦糸町です。
今でこそスカイツリーの玄関口として、JR総武線に燦然と輝くターミナル駅として有名になりましたが、このすぐ傍で生まれ育った者にとっては、輝かしいばかりの歓楽の街でありました。
お洒落なファッションモールが建ちならぶ地区もあれば、競馬新聞を手に赤鉛筆を小耳のオヤジ達が闊歩できる飲み屋街も、美味しい世界の料理が揃っているのも錦糸町です!
江戸の風情が今でも残る亀戸から錦糸町の一帯を、作者は時に真面目に、お勧めのお店の情報を盛り込みながら、その歴史から産業までを詳しく懐かしく紹介してくれます。
地元の人はもとより、これから東京を訪れようという観光目的に。
ガイドブックは不要です。
スマホを片手に、この作品を見ながら錦糸町に訪れてみませんか。