最終話 とても素敵なもの
「じーじ!これ!」
マンガを見せてくる孫。
コマ割りが
それは息子夫婦がプレゼントしたのだろう、私にはよくわからないマンガだが、どうやら孫が笑顔だ。
面白いらしい―――私の孫が面白いと言っているんだから、とんでもなく面白いのだろう、うん。
そうに違いない。
言い忘れたが、家くんよ。
素敵なものを見つけた男子生徒よ。
私も私で、とても素敵なものを持っている―――それが自宅にあるんだ。
私はその、宝ものの後頭部を見ているだけで、いつだって幸せになれるんだ。
この子はこれから、何にでもなれる未来を持つ。
すごい人間になれるかどうかは―――わからない。
有名人、芸能人になれるかなんてわからない。
そして、どうせ、大切な理解者に出会うことが出来る。
人と、出会ってもいいんだ。
そんな宝ものだ。
ふふふ、キミには見せなかったがね家くん。
別に隠すつもりはなかった。
キミが偶然それを見つけたように、どんな生徒も教師も、見つけてしまうものなんだよ。
全てではないけどね、全てを好きになれない―――だからいいんじゃないかな?
だからその一つを大切にしていたんだろう、キミは?
どんな生徒だろうと、幸せになってよい。
また、教師もだ、幸せになってよい。
それがこの世界の真実だ。
たとえ、今この瞬間がどうであっても。
幸福に近づくこと、それは罪ではない。
私は家くんの話を聞いて、たったそれだけで、いくらか幸せになれた。
私は今日も教卓に立つ。
いつも笑顔を意識しているが、最近はそんな意識をする必要もない―――
なぜだろう。
家くんが、そして今までの色んな生徒が、世界のどこかで笑顔だからだろうか。
私は選択科目のうちの、音楽を受け持っている。
とても捉えどころのない教科に思えるが、パターンや決まりごとはたくさんある。
人間の耳、という条件下では聴いて好感を覚えるものは限定されていくのだ。
自由なようでいて、たくさんの用語で定義されている。
「さあ、今日
私は老いた。
定年が見えている存在だ。
つまり、まだ、私の教員生活はまだ終わっていないということである。
まだまだ、やって見せるさ。
「荒野先生の授業が受けられるのは、音楽の授業だけ!」
「えっ、なんですかいきなり」
ひとりの生徒が唇を中途半端に開く。
苦笑いした。
「なんだろうねぇ」
私は音楽室を見回し、笑んだ。
―――――――———
これは『コンビニおとこ』についての余談になるが、彼の小説の読者に、ペンネーム『もちもち』と名乗る有名人がやってきた。
近ごろ頭角を現しつつある、神絵師さんだそうな。
コンビニおとこのファンだ。
ファンの内の一人、ただそれだけだと名乗っていた。
『もちもち』さんは、謙虚で礼儀正しかった。
……いや、違う。
彼女は、コンビニおとこに対してだけ、あまりにも砕けた態度を取っていた。
そんな態度でいることが、出来た。
彼女はイラストを同サイトの別部門でいくつも公開しており、女性であることだけを明かしていた。
そんな彼女は―――『コンビニおとこ』の好きな作品を、すべて知っているかのようなふるまいを見せた。
そして『コンビニおとこ』もまた、同じような芸当をやってのけた。
その二人は愛し合ったりなどは、しなかった。
ただ、二人は同じものを見ている、ずっと見ている。
ずっと追いかけている。
あまりにも簡単な関係だった。
それがそのあとどんな物語になるかは、私の
やれやれ、面白い物語っていうやつは―――どうも、年寄りの知らない場所で生まれてくるものらしい。
これにて、おしまい。
コンビニでマンガ談議してただけ 時流話説 @46377677
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