第48話 50層へ
「ヴェーネ、左だ!」
俺のアドバイスでモンスターの攻撃を回避したヴェーネが、そのままモンスターの背後を取って大剣でとどめを刺す。
「ふう、ありがとアラド。教えてくれなかったらきついのをもらってるとこだったよ」
「交戦中も周囲の気配に気を配れよ」
戦闘が終わり、俺たちは再び歩き始める。
現在、俺たちは古の地下迷宮の48層にいる。
周囲の視界はより一層狭く、暗くなっている。
修羅場慣れしているはずのヴェーネですら、モンスターの動きを捉えきれていないようだ。
「それにしても、辛気臭くて嫌になる場所ね」
リディが周囲をきょろきょろ見回しながら、悪態をつく。
だが、やはり怖いのだろう。
さっきから俺の横にびったりくっついてきて、離れようとしない。
むしろ、非戦闘員のロッティの方が肝が座っているように見える。
「なあ、アラドよ」
「なんだ?」
先頭を歩いていたテレーゼが、いつの間にか俺の近くにきて声をかけてきた。
「本当にいいのか? シャンテのこと……」
「ああ、そのことか」
シャンテ、リュミヌーの姉代わりにしてハーフエルフの戦士。
テレーゼはおそらくシャンテという貴重な戦力を手放したことを不審がっているのだろう。
「師匠はもう十分戦った。ゆっくり休ませてやろう」
「そうか、アラドがそう言うなら」
納得した様子でテレーゼはまた先頭に戻った。
俺は今朝のことを思い出す。
あの後シャンテは2回目の究極奥義を俺に放った。
その結果、シャンテの両腕は完全に破壊されてしまったのだ。
元々負傷して無理をしていたところに、あれだけの大技を2回も使ったのだ。
身体に相当な負担がかかったに違いない。
もうこれ以上シャンテは戦えない。
そう判断した俺は、彼女を一足先に地上に帰らせた。
この迷宮の先は足手まといを抱えて突破できるほど甘くない。
確かにシャンテという戦力を失ったのは痛い。
だが、その穴は俺が埋める。
シャンテの最終特訓を受けてから、俺の強さはもう一段階上のステージに進んだという実感がある。
事実、ここまでほとんど苦戦もせず、最低限の消費でこれたのだ。
もちろんヴェーネやリディの成長や、テレーゼとヨアヒムの協力もあってのことだが。
そして俺たちは49層にたどり着く。
魔障の濃度が一層濃くなってきたのを感じる。
『奴』が近くにいる。
俺はほとんど無意識のうちにそう直感していた。
49層のモンスター、アーリマンバットは巨大な瞳を持つ飛行型のモンスターで、その瞳に睨まれたら石化してしまうと言われている。
だが俺は、ためらわずそいつに突進していく。
アーリマンバットは石化睨みをした。
……つもりだったんだろう。
だが遅い。
既にアーリマンバットは俺の剣閃で胴体を真っ二つにされていた。
「す、すごい……!」
後ろの方からヴェーネが駆けつけてきた。
「アラド、今のどうやったの? 私、アラドの動きが全然見えなかった」
「別に、普通にダッシュして斬っただけだよ」
「ふ、普通って……」
呆れたようにヴェーネが呟く。
「それより先を急ぐぞ」
リュミヌーがセリオスに捕まっているんだ。
一分一秒も惜しい。
それから何度もアーリマンバットに行く手を阻まれたが、すべて一刀両断していく。
そして50層に降りる。
予想通り、広いボス部屋になっている。
四角い正方形の広大な部屋の真ん中に、そいつはいた。
「よくここまで来たな、アラド」
「セリオス!」
俺は憎しみを込めた眼でそいつを睨み付けた。
セリオスの隣にはミロシュがいて、刀を構えている。
リュミヌーは、リュミヌーはどこだ!
視線をさまよわせ、セリオスの後方で気を失っているリュミヌーを見つける。
リュミヌー、今助けるからな。
俺は決意すると、二刀を構えた。
勇者パーティーを追放された不遇職の俺が最強の冒険者になるまでの軌跡 紅乃さくや @ansbach
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