第3話

「ねえ、澪ちゃん、3分くらい前、きれいな緑色の服来たおじいさんとすれ違ったよね。覚えてる?」

「うん」

「あの人・・・・・・私の気のせいかもしれへんけど、おじいちゃんに似てなかった?」


 澪がパッと瞳を輝かせた。

「澪も!そう思った!!! 『おじいちゃん!』って呼びそうになって、慌てて我慢したん」


 二人があまりの出来事に顔を見合わせている間に、先行組の母が心配して戻ってきた。

「どうしたん?あんまり遅いで心配してさあ」

「お母さん、凄く目立つ緑色の服着たおじいさん、先にすれ違わへんだ?」

「そう言えば・・・っていう程度やけど・・・何?」

「お父さんそっくりやった。・・・な?澪。」

「うん。」

「ええっ? 顔までは見やんだけど・・・あんたら二人霊感持ちやでなあ・・・」

 母は、少し切なげに微笑んだ。

 思えば、義姉には申し訳ないが、父の血や縁の濃いメンバーが、花見に興じる姿を見て、父が仲間に入りたくて、神様の粋な計らいがあって、下界に降りてきていた、と考えられて・・・。

感受性の強い私と澪に(じいちゃんも来てるからな)と挨拶していったとしても不思議はない。

そう納得させられるだけの、優しく激しく降り注ぐ大量の花吹雪の中。

「遅いよー」と戻ってきた直と兄に、母が

「霊感少女さんたちが、おじいちゃんのそっくりさんに会ったって」

と笑いながら説明している。


 その後、川べりの一番大きな櫻の前で記念写真を撮ったが、さすがに父の姿は写らなかったけど。

 写真より鮮明に。

 私の瞼には、櫻花の薄紅に映える鮮やかな緑の服を纏った、老人の笑顔が今も焼きついて離れない。


 櫻花が見せた春の昼下がりの奇跡。

<終>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

櫻と姪と父と。 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ