第2話

 一年が過ぎ、正月の祝い事を慎み、正月恒例の兄の家行きを断念した母と私は、春休み、甥と姪に会う為に櫻の舞う奈良に旅をした。


 父の亡くなった年の4月に入学式をした姪、澪は小学2年生になろうとしていた。

 私たちは、兄の家の近くの大きな公園にお花見に出かけた。

 用のある義姉は遠慮し、兄と、母、甥の直、姪の澪、そして私。というメンバーで。


 三重から奈良に来る途中の車窓から見えた、深い山の中の櫻樹はまだ2,3分咲きだったが、麗らかな春の日差しで公園は温かく、ボール遊びに興ずる兄と直、澪、母たちに花吹雪が舞う様を、私は数枚の写真に収めて青空を見上げた。

 一人、足りない。

 奈良と三重の家族が集まると、車の乗車制限人数をどうクリアするかで話し合いをしていたのがつい先日のようだ。今ではすんなり一台の車で収まってしまう。

その空虚感はまだ私から抜けない。



 帰路に着こうと、川べりを歩いているうち、野球で活躍する直と、兄、元々足の速い母はどんどん先に行き、少し体調が悪くて足の遅い私と、出店を覗いたり花びらを拾ったりして歩く澪は、しっかりと手を繋いで母の帽子の柄を目印に後方を歩いていた。

「澪ちゃん、凄い花吹雪やね。おじいちゃんと一緒に見たかったね」

と私が言うと、澪は前を向いたまま、

「あんな、澪はな、おじいちゃんのこと思い出さんようにしとんの。おじいちゃんのこと考えると、かわいそうやし、悲しくなるの」

と呟いて、繋いだ手に力を込めた。

 かえって辛い思いをさせてしまったか・・・と、少し反省した・・・その時。


 一人の老人が私たち二人の横を通り過ぎた。


 目の覚めるような緑色のカーディガンを纏い、ハンチングを被った、小洒落た老紳士であったが。


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