苺一会
今日は彼とお花見の約束をしたから、御弁当を作ってるの。
めっちゃ早起きして、私の全総力を結集して。
あさり入りの炊き込みご飯を、ちいさな俵型のおにぎりにしたりね。
たまごやきを花形で繰り抜きながら、切れ端を味見して、おいしいか確認。
そして、忘れちゃいけない。季節に合わせたフルーツも準備する。
早春には、やっぱりいちご。
そう、苺の季節に出逢って、恋に落ちたから。大切な果実。
弥生、三月。苺がだいすきな私はこう考える。
苺のことを想うなら、今、ここで季節が止まってもいいんだ。
いつまでも、このままいられたらしあわせ。
今あなたは、私のことをとってもすきでいてくれる。
「あまずっぱくて可愛い」って言ってくれる、この瞬間。
この先は、ずっと同じでいられないかもしれない。
100%すきなのは、きっと今だけだ。
こうしているうちにも、0.001%ずつ減っていってしまうんだよ。
ばかだなぁ。ってほっぺひっぱられるのわかってるけど。
あなたが「ずっとすきだよ」って言ってくれるの、知ってるけど。
でもね、今でも、あなたの周りには取り巻きがいて、心配なんだもん。
*
私のなまえは、
彼の苗字が「甘井」だから、より運命を感じたのは確かかな。
わたしは、
勝手に彼を知って遠くから見つめていたら、お誕生日サプライズ企画のウェブ広告が目に入って、応募しちゃった。
司令塔は彼のおばあさま。宇宙の未来を見据えてるスーパー魔法使いなの。指先からビームが出る系の。
そう。私の別の名は、いちご姫。
そばにいたくて、苺型ロボットになって、彼を近くで観察してた日々がなつかしい。
彼はいつもいちごのために、がんばってくれたなぁ。わがままばかり言ういちご集団だったのにね。
「その子は、大切なんだ」
あの時言ってくれた言葉に、きゅんとした。すごく真剣な目をして。
そして、そのあとこっそりささやいてくれた。
「姫のことを想うなら、今ここで全てが止まってもいいんだ」
君がぼくを愛しているなら、尚更。伝わってきた心の声。
別にね、あの苺には惚れ薬なんて、ほんとに入ってないよ。
「ここで一緒にフリーズしちゃおうか。ブリーズドライな、さくさく苺」
私の定位置は、ずっと胸ポケットの中。
一粒だけの特別ないちご。
どきどき鼓動が伝わる、あたたかい場所だった。
でも、あの時は! みみずくのクノイチゴが彼に近づいた時は、はらはらしちゃって、食事も喉を通らなかったわ。
ジェラシーのいちごスプーンで押しつぶされてしまいそうだった。
だってね、まさか、いきなり口に入れちゃうとか、びっくりでしょ?
みみずく、レロレロのメロメロだったじゃない!(羨ましいったら。)
だから、私は人間の女の子に戻ったの。圧倒的に優位に立つんだって。
勇気を出して、ちゃんと人として出逢って、こっちを向いてもらった。
やっと渡せたよ。何年間も渡したかった、チョコとプレゼント。
*
私には、あなたという新しい星が迎えてくれた。
ほんとうのお姫さまになりたくて、あなたの前に現れた。
「はじめて会う気がしないね」
彼は照れながら、そう言ったっけ。
その時の彼の心には、ぽっかり穴が空いていたの。
いきなり不在になった胸ポケットを、何度も手で確かめていた。
彼は苺を食べる時、まずなめる癖がついちゃってる。
かじってロボットだったら、可哀想だからだね。
私のことも恋人になった時、ちゅうより先にぺろってしたよね。
君はいちごの匂いがします、って。
苺型ロボットたちはね、気に入っちゃって、みんなまだ変身したまま楽しんでるの。
え、人間界で捜索願が出されてないのって?
不在中はみんなの記憶にぼんやり霞がかかる魔法がね、かけてあるから大丈夫。
来月は、第2回ストロベリーフェスティバルが開催されるんだよ。
イースターマゴたちとね、フォークダンスの競演があるの。最近、彼の部屋でみんな練習してるー。
私が苺ロボットたちが見えるのは、まだ彼には内緒。時々吹き出しそうになっちゃって困るんだけどね。
一晩中踊り明かすお祭り。きっとベリーたちも遊びに来る。
いいなぁ。私もあなたと手を取り合って一緒に踊りたい。どきどきしながら。
そろそろ、見えること、告白しちゃいましょうか。
そして、またいつか、あの頃の思い出話をしましょう。
チキチキチー。
いちご惑星 水菜月 @mutsuki-natsumi
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