苺一会


 今日は彼とお花見の約束をしたから、御弁当を作ってるの。

 めっちゃ早起きして、私の全総力を結集して。


 あさり入りの炊き込みご飯を、ちいさな俵型のおにぎりにしたりね。

 たまごやきを花形で繰り抜きながら、切れ端を味見して、おいしいか確認。


 そして、忘れちゃいけない。季節に合わせたフルーツも準備する。

 早春には、やっぱりいちご。

 そう、苺の季節に出逢って、恋に落ちたから。大切な果実。


 弥生、三月。苺がだいすきな私はこう考える。

 苺のことを想うなら、今、ここで季節が止まってもいいんだ。

 いつまでも、このままいられたらしあわせ。


 今あなたは、私のことをとってもすきでいてくれる。

「あまずっぱくて可愛い」って言ってくれる、この瞬間。

 この先は、ずっと同じでいられないかもしれない。

 100%すきなのは、きっと今だけだ。

 こうしているうちにも、0.001%ずつ減っていってしまうんだよ。


 ばかだなぁ。ってほっぺひっぱられるのわかってるけど。

 あなたが「ずっとすきだよ」って言ってくれるの、知ってるけど。

 

 でもね、今でも、あなたの周りには取り巻きがいて、心配なんだもん。



 私のなまえは、一子いちこ。彼は私を「いちご」と呼ぶ。

 彼の苗字が「甘井」だから、より運命を感じたのは確かかな。

 わたしは、甘井一子あまいいちこになりたい、いちご。


 勝手に彼を知って遠くから見つめていたら、お誕生日サプライズ企画のウェブ広告が目に入って、応募しちゃった。

 司令塔は彼のおばあさま。宇宙の未来を見据えてるスーパー魔法使いなの。指先からビームが出る系の。


 そう。私の別の名は、いちご姫。

 そばにいたくて、苺型ロボットになって、彼を近くで観察してた日々がなつかしい。

 彼はいつもいちごのために、がんばってくれたなぁ。わがままばかり言ういちご集団だったのにね。


「その子は、大切なんだ」

 あの時言ってくれた言葉に、きゅんとした。すごく真剣な目をして。

 そして、そのあとこっそりささやいてくれた。

「姫のことを想うなら、今ここで全てが止まってもいいんだ」

 君がぼくを愛しているなら、尚更。伝わってきた心の声。

 

 別にね、あの苺には惚れ薬なんて、ほんとに入ってないよ。

「ここで一緒にフリーズしちゃおうか。ブリーズドライな、さくさく苺」

 私の定位置は、ずっと胸ポケットの中。

 一粒だけの特別ないちご。

 どきどき鼓動が伝わる、あたたかい場所だった。


 でも、あの時は! みみずくのクノイチゴが彼に近づいた時は、はらはらしちゃって、食事も喉を通らなかったわ。

 ジェラシーのいちごスプーンで押しつぶされてしまいそうだった。


 だってね、まさか、いきなり口に入れちゃうとか、びっくりでしょ? 

 みみずく、レロレロのメロメロだったじゃない!(羨ましいったら。)


 だから、私は人間の女の子に戻ったの。圧倒的に優位に立つんだって。

 勇気を出して、ちゃんと人として出逢って、こっちを向いてもらった。

 

 やっと渡せたよ。何年間も渡したかった、チョコとプレゼント。



 苺一会いちごいちえは、いちご惑星界の言葉。

 私には、あなたという新しい星が迎えてくれた。

 ほんとうのお姫さまになりたくて、あなたの前に現れた。

「はじめて会う気がしないね」

 彼は照れながら、そう言ったっけ。


 その時の彼の心には、ぽっかり穴が空いていたの。

 いきなり不在になった胸ポケットを、何度も手で確かめていた。


 彼は苺を食べる時、まずなめる癖がついちゃってる。

 かじってロボットだったら、可哀想だからだね。

 私のことも恋人になった時、ちゅうより先にぺろってしたよね。

 君はいちごの匂いがします、って。


 苺型ロボットたちはね、気に入っちゃって、みんなまだ変身したまま楽しんでるの。

 え、人間界で捜索願が出されてないのって? 

 不在中はみんなの記憶にぼんやり霞がかかる魔法がね、かけてあるから大丈夫。


 来月は、第2回ストロベリーフェスティバルが開催されるんだよ。

 イースターマゴたちとね、フォークダンスの競演があるの。最近、彼の部屋でみんな練習してるー。

 私が苺ロボットたちが見えるのは、まだ彼には内緒。時々吹き出しそうになっちゃって困るんだけどね。


 一晩中踊り明かすお祭り。きっとベリーたちも遊びに来る。

 いいなぁ。私もあなたと手を取り合って一緒に踊りたい。どきどきしながら。

 そろそろ、見えること、告白しちゃいましょうか。


 そして、またいつか、あの頃の思い出話をしましょう。


 チキチキチー。








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いちご惑星 水菜月 @mutsuki-natsumi

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