クエビコは知っている

 クエビコは海を越えた、日の沈む先の、四つ辻鳥居の向こう側にある、黄金が実る畑に突っ立ている。右腕だけを上げて突っ立っている。左腕は随分前になくしたと言っていた。

 クエビコと言うのは、大変物知りであった。

 そこから動いたことなどないだろうに、あらゆることを知っていた。天気の移り変わりから、その者が誰であるかさえ、なんでも知っていた。藁しか詰まっていないような頭のはずなのに、本当に不思議なくらいに様々なことを知っていた。

 けれど、そんなクエビコにも知らないことがある。

 それは未来のことだった。

 人々はクエビコが先見をできると信じているが、実際のところ、クエビコは己の中の数多ある知識からすべてを予想しているだけだった。そしてそれが、偶然にも的中するだけだった。

 ほら、硬く凍っていた足下が少し緩み始めている。

 きっと数日のうちにでも、青嵐告せいらんつげが「自分はいつ鳴けばいいだろうか」と相談しにくる頃だろう。


【終】

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クエビコは知っている 芝迅みずき @mzk-sbhy

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