第35話 救世軍

 件の公園は閑散として、つい前に起こった騒ぎが嘘の様に静かになっている。

 パーサーとマリアは公園に着くと早速、マリアとクラーディの姿を探して公園内を見て回った。


「マリアー!クラーディ!」

「マリアー!」


 しかし、暫く捜索しても一向に見つからずに日が陰って来た。


「居ない・・・。いったい、何処に言ったんだろ?」


 焦り出すパーサーだったが、リリスは冷静に付近の通行人に話を聞きましょうと提案した。

 そして、二人は別れて聞き込みを始めようとしたとき、公園の入り口から十人くらいの真っ白な時代遅れの甲冑を着た集団が入って来た。


「何でしょうか、あれは?」

「チッ、目を合わせちゃ駄目よ。ボンクラより達の悪い連中だから」


 険しい眼で集団が睨むリリスにパーサーも関わったら録でもない事になりそうだと感じた。

 しかし、関わりたくはないと思う程に勝手に関わって来るのは世の通りなのか甲冑の集団がパーサー達の方に近付いてきた。


「もし、そこのシスターと学生」


 甲冑集団の先頭に立つリーダーらしき人物が話掛けて来た。


「はい。何でしょうか、ブラザー?」


 明らかに作り笑いを浮かべたリリスが対応する。


「この近辺で狂暴なゴーレムが我らの兄弟を襲っていると通報を受けたのだが、何か情報はないか?」

「さあ?知りませんわ、ブラザー」


 一言だけ言うとパーサーに行きましょうと声を掛けて甲冑から離れ出した。

 しかし、待ちたまえと呼び止められて甲冑はパーサーへと近付いた。


「君は今は何学年かね?」

「僕ですか?僕は二年になりますが、何か?」

「そうか!では、来年には進路を決めなければならないな!君はどんな進路に進むか決めているか?」


 嬉々として話掛けてくる甲冑の迫力に押されてパーサーはいえ、まだ何もと答えると甲冑はそのゴーレムの様な鉄の手でパーサーの肩を叩いてきた。

 痛みに若干、顔を歪めるパーサーだったが、相手はそんな様子にちっとも気付かずに親しげに話し掛けてくる。


「何も決めていないか!それならば、我ら『救世軍』に入れば良い!我らは主の御心を尊び、主へと反旗を翻す悪魔どもに神罰を下す剣!我らと共に悪魔どもを征伐しようではないか!どうかね?」

「いや、僕は」

「私の生徒に参加を強要しないで頂けますか、ブラザー?」


 パーサーの肩に乗った手を払いのけてリリスが間に入ってきた。

 流石の甲冑も気分を害したのか若干、声を落としてリリスに話掛ける。


「シスター、いくら貴女の生徒だろうと貴女の出る幕では無い。男同士の会話に女が入って来るのは無粋というモノだ」

「それはごめん遊ばせ。でも、学生を導く教師としての義務があるのよ。それを無視して女は黙れ、何て非常識というモノよ」

「ほぉ、女にしては中々言いますな。シスター、貴女の名を教えて頂こうか?あと、貴女の直属の上級司祭もな」

「あら?口では勝てないから、上に文句を言いなさるの?」

「良いから、答えろ!」


 激高して怒鳴り出す甲冑を余所にリリスはどこ吹く風と言うように腕を組み甲冑を冷めた目で見返す。


「まぁ、良いわ。私はシスター・リリスよ」

「なんと、シスター・リリス!!こっ、これは知らぬ事とはいえ、失礼を!」

「私の上級司祭も教えた方が良いかしら?まぁ、その様子なら貴方は知ってるわね。そうだ、この後で私自らが上に話してあげようかしら、今の態度を私に対して救世軍がとった事をね」

「いえ、とんでもない!」


 リリスが名乗っただけで甲冑は恐縮し出した。

 パーサーは痛む肩を擦りながら、不思議そうにそのやり取りを見ていた。


「隊長!」


 そこに別の甲冑が表れて隊長と呼ばれた甲冑に報告し出した。


「件の神学生とゴーレムの目撃情報を得られました」

「報告したまえ」

「はっ!何でも我らが兄弟に仇なしたゴーレムはやせ形の男性に連れられて西地区へと逃走したそうです。今、第二分隊を派遣して更に調査を続けています!」

「へぇ、そうなの。隊長さん、貴方達の調査の報告を私にも教えて貰えるかしら?私はこの先のシスター派教会に居るから」

「何だ、貴様!シスターの分際で命令するか!」

「黙れ!シスター、ご無礼を申し訳ありません。貴女の良い様に取り計らいます」


 部下を叱責してリリスから逃げる様に二人は離れて行く。

 そして、暫く捜索をすると甲冑の集団は公園から出ていった。

 パーサーはその間、リリスを呆然と見ていた。


「リリス先生って、とても偉い人だったんですか?」

「さあ、どうかしら?女は秘密があった方が魅力的なのよ」


 つまりは何も聞くなと言う事かと思い、パーサーはそれ以上は聞かなかった。


「さて、今日はもう暗くなってきているし、捜索は彼らに任せて戻りましょう」

「彼らって、あの時代錯誤の人達ですか?彼らは何者ですか?自分達を救世軍なんて言ってましたが」


 パーサーが聞くとマリアは嫌そうな顔をして救世軍の事を話始めた。


 救世軍


 中世の頃、教会がゴーレム討伐の為、諸公の騎士団を召集して編成した『十字軍』が元になっている。

 当時、たかが泥人形だと油断していた騎士団は戦場で5メートル位まで成長させたゴーレムの軍団により壊滅させられて更には敗走を重ねていたそうで、ラビと教会が停戦協定を結ぶまでに、もはや軍の体をなしてなかった。

 それから教会は教会の為に戦った彼ら敗残兵を見捨てることは出来ずに僧籍を与えて手厚く保護して教会の独自戦力として救世軍と名を変えて現在まで至っている。


「上層部の馬鹿が手厚く遇してるせいで貴族制も無くなかった今でも貴族気分で騎士団ごっこに励む過激派集団になってしまっているのよ。しかも、戦争の為の機械ばかりを研究し、実際に機械兵器を独自で作ったりして最近は特に手がつけられないわ」


 まぁ、それでもこんな場合はそこそこ使える連中だけどねとリリスの話は終わる。


「そんな人達にマリアはともかく、クラーディの捜索を頼んで良かったんですか?見つけた瞬間、クラーディが八つ裂きなんてごめんですよ!」

「心配ないわよ。後で私が釘を刺しておくから」


 何でもない様に言ってリリスは公園を出て行く。

 パーサーはマリアとクラーディが無事であるように柄に無く、神に祈ってリリスの後について公園を去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

The Golem (旧パーサーとゴーレム) @wair2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ