第3話




「拝啓から始まったのに、敬具がねぇなんて……あいつ本当に馬鹿だな」


 小学生でも知っている手紙の定型表現だろ。

 というか遺書と手紙の区別も最後までつけてねえし、どっちなのかもわからねえし。


 ……全く、最後まで意味わかんねえな。


 いや、もしかしたら僕の指摘は違うかもしれない。

 実はこの手紙には続きがあって、敬具はその続きの後に書いてあるのかもしれない。


 僕は手紙を裏返してみる。


「……ふふ」


 思わず笑みがこぼれる。

 僕は中身がふやけたボロボロの手紙を綺麗にたたんでポケットに仕舞った。

 桜が舞っている。

 四月なったばかりであるから桜が咲いているのは当然なのだが、僕はその存在に今日まで気づかなかった。そこにずっとあったのに気づかなかったのだ。


「さくら、綺麗になったな」


 僕はそう一言だけつぶやいた。

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あなたのことを愛してました 西井ゆん @shun13146

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