Ⅳ
「太田課長、私が何で室長か判ってます?」
まだ、へらへらしている太田に向かって、私は厳しい口調で言った。
「ん~?優秀だからに決まってるでしょ?じゃなきゃ室長になんかなれないよ~!」
この人は、私が室長になった経緯を知っている数少ない人間。嫌みとしか思えないその言い回しに、私はある理由から、反論できなかった。
「解剖の、結果は出たんですか?」
できるだけ、 話をマトモな方向に持っていきたかった。課長に少しでも合わせてしまえば話が脱線しかねない。脱線すれば、意図しない、あまりお薦めしたくない話も出るかもしれない。
「それなんだけどね、やっぱり、今回ばかりは……だよ。地面の表面温度は決して火傷……人間の背中を焼くほど熱くはなかった。なのに、彼女の背中の表皮は完全に地面に張り付いていた。背中の黒色部分は、Ⅳ度の熱傷。でも、死因は焼死じゃない。死因は……」
そう言うと、課長は私の顔をじーっと覗き込んだ。何、その勿体ぶった 態度。
「死因は、凍死。でも他殺。」
課長は、私の顔を覗き込んだまま、言った。
「凍死なのに、他殺って……あっ!」
朝早く呼び出されて不機嫌だった事と、実はチラッとしか遺体を見ていなかった事とで、忘れかけていた特徴。
彼女の、指先は全て無くなっていた。自分で、仮に片方の手の指を全て落とせたとしても、反対側の指は落とせない。まぁ、口で噛みちぎったりすれば別だが。そんな事を考えているのを見透かしたように、課長が
「噛み千切ったりしてないよ。綺麗なもんだったよ。切断面。」
かなり、グロテスクな事をさらりと言った。
「背中の熱傷……指の欠損……」
私は、ぶつぶつと呟いていた。無意識に。すると、バンッと背中を叩かれ
「だからね?君の出番なんだよ!人外被害対策室の!」
……判ってて、言ってるんですよね?私が何も出来ない事を。
struggle-ストラグル- もやし @moyashi524
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