第9話 密林の種族

 西大陸の南部には密林が広がり多種多様な種族が生息している。

 そして、その多くが獰猛であり、互いを食料として争っている。

 集団で獲物に襲い掛かる小柄な軍蟻人アーミーミュルミドン。色鮮やかで猛毒を体内に持っている蛙人トードマン。淡水に住み、水に入って来た者を襲う獰猛なピラニア人ピラニアン

 植物も食肉植物が多く生息しているので、警戒して進まなければならない。

 そんな密林で勢力が大きいのが獣人と蜥蜴人リザードマン蛇人イーグである。

 この獣人は密林東部、蜥蜴人リザードマンは密林西部、蛇人イーグは南部を支配している。

 パランケアは大陸の西側にあるので、クロキ達は蜥蜴人リザードマンがいる地域を通過しなければならなかった。

 

「おお、良く見つけ来たのにゃあ!!」


 ネルフィティが驚く声を出す。

 ネルフィティの目の前には巨大な竜亀ドラゴンタートルがいる。

 つい先程クロキとトトナで近くにいたものを見つけて来たのだ。

 カメゴンとも呼ばれる竜と亀が合わさったような生物だ。

 竜亀ドラゴンタートルには海亀型と陸亀型の2種類あり、クロキ達が連れて来たのは陸亀型で、陸上を行くのならこちらが良いだろう。

 

「これなら、私達全員を運べる。強さもあるから簡単にやられないはず」


 トトナがカメゴンを見て言う。

 竜亀ドラゴンタートルは象並みに大きく、小さな家なら乗せられそうだ。

 ここに屋根付きの家を設置して、パランケアに向かう事にする。

 出来るだけ急いで行くが、一応トラクル達には少し遅れる事を伝えた。 


「意外と簡単に見つかったね。むしろ、向こうから来てくれて助かったよ」

 

 クロキは竜亀ドラゴンタートルを見て言う。

 竜亀ドラゴンタートルはワイバーンやグレートリザートと同じく下位竜レッサードラゴンの一種である。

 下位竜レッサードラゴンは知能が低く、上位竜グレータードラゴンと違い真竜トゥルードラゴンとはみなされない。

 しかし、それでも凶悪な魔物であり、油断はできない。

 ただ、ワイバーンのように乗騎にする事もできる下位竜レッサードラゴンもいたりする。

 そして、竜亀ドラゴンタートルも乗騎として飼われていたりする。

 長い年月を生きたカメゴンはかなり大きくなり、多くの者を乗せる事ができる。

 中にはアスピドケロン程ではないがかなり大きくなる個体もいるようだ。

 竜亀ドラゴンタートルはクロキ達が近づくと特に嫌がる事はなく、従ってくれた。

 竜亀ドラゴンタートルを連れて来るとハバネはかなり驚いていた。

 しかし、何はともあれ乗騎は手に入れた。

 クロキ達はこれでパランケアに向かう事にするのであった。



 クロキ達は竜亀ドラゴンタートルに乗り、一路パランケアを目指す。

 トトナの迅速の魔法により竜亀ドラゴンタートルは速く動けるようになった。

 これで目的地に早く到着できるようになるだろう。

 密林には当然木々が茂っており、その中を巨体の竜亀ドラゴンタートルが進む。

 竜亀ドラゴンタートルの甲羅に作られた家でネルフィティが妖精猫ケットシーと寛いでいる。

 セイジュはトトナと共に外の景色を見ている。

 密林は他の大陸にはいない生き物が数多く存在している。

 珍しい物を見るのは確かに面白かったりする。


「暗黒騎士様……。取り囲まれてちょりますが、どげんしましょうか」


 ただ、1人緊張した面持ちのハバネが言う。


「そう、みたいだね。だけど、こちらを襲うつもりはないみたいだから、放っておこう」


 竜亀ドラゴンタートルの周囲を多くの蜥蜴人リザードマンが遠巻きに取り囲んでいる。

 こちらを襲う様子はない。

 様子を見ている

 その事にもちろんクロキは気付いていた。

 そもそも、蜥蜴人リザードマンの縄張りを通過するのだから、こうなる事はわかっていた。

 クロキは目を凝らし蜥蜴人リザードマン達を見る。

 少し離れているがクロキの目ならば彼らの姿をはっきりと見る事ができる。

 蜥蜴人リザードマンは自らが信仰する竜と同じ鱗になる事が多い。

 なぜなら、自らが信仰する竜と同じ環境で暮らす事が多いからだ。

 蜥蜴人リザードマンは住んでいる環境に合わせて鱗の色を変える。

 森に住めば緑色になり、海や水辺に住めば水色になる。

 紅蓮の炎竜王を信仰する蜥蜴人リザードマンは火山に荒野に砂漠に多く生息しているが、この密林に住む者もいる。

 密林に住む蜥蜴人リザードマンの色は緑か黒に近い緑だ。

 彼らは密林に溶け込み、クロキ達の様子を伺っている。

 襲ってくる様子はない。

 巨大な竜亀ドラゴンタートルを使役する者を警戒して襲って来ないのだろう。 

 それは他の種族も同じだ。

 蜥蜴人リザードマン以外にも様子を見ている者達がいる。

 蛙人に猿人。

 彼らもまたクロキ達を遠くから見ているだけだ。


「そげんですか。まあ、奴らも無謀ではなかでしょうからね……。ですが、頭が悪いんのもおります。気を付けた良かとですよ」


 ハバネは周囲を警戒して言う。


「ああ、わかっているよ。近づいて来ているね……」


 どうやらハバネも気付いたようだ。

 クロキも先程気付いた。 

 多くの者は見ているだけだが、その中で敵意を持っている者が近づいているのを感じていた。

 かなり大きい。

 狙っているのはおそらくセイジュである。

 ならば、少しわからせてやらねばならない。

 クロキは近づいて来ている者を見る。

 姿を隠す魔法が使えるのか森に溶け込んでいる。

 だが、鋭敏な感覚を持つクロキやハバネにはその存在を感じられた。

 クロキは剣を素早く取り出して振るう。そして、すぐに元に戻す。

 すると竜亀ドラゴンタートルのすぐ近くに毛むくじゃらの何かが突然現れて倒れる。

 急に何かが現れたがクロキ達で動じる者はいない。

 トトナもセイジュも平然としている。

 この竜亀ドラゴンタートルの上は安全だと安心ているようだ。


「剣が見えなかった……、さすが暗黒騎士様。ありゃ、アブフワですな」


 ハバネはクロキを見て笑うと説明してくれる。

 アブフワは森に住み、毛むくじゃらの猿に似た種族だ。

 頭に顔が2つあり、肉食で小さな子どもを狙う事が何よりも好きだ。

 木々に溶け込み、姿を隠す能力があるが、新月の時だけはその能力が使えないそうだ。

 かなり、手強い魔物のようだがクロキの敵ではない。

 セイジュを狙ったので、容赦をしなかった。

 アブフワが簡単に敗れたので取り囲んで付いて来ていた種族の何匹かが離れて行くを感じる。

 しばらくは誰も襲って来ないだろう。

 この竜亀ドラゴンタートルは先に進む、パランケアはまだまだ先だった。



「す、すごい……。大きな滝……」


 セイジュが竜亀ドラゴンタートルの上で驚く声を出す。

 密林を進んで4日目の事である。

 クロキ達は巨大な河へと辿り着く。

 河は巨大であり、向こう岸がはるか遠くにある。

 しかも、その大河で滝になっている所に出たのである。

 これだけ巨大な滝は他の地域では見られず、クロキ達は驚く。


「本当にすごいわね。こんな滝は他の地域では見られないわね」


 セイジュを膝に乗せたトトナも驚く。


「これはマチュン河と言います。そして、これはピチュアスの滝で言うちょです」


 ハバネが説明する。

 マチュ河はアソテカの外輪山を水源とし密林地帯を東西に分ける大河である。

 その大河の途中にあるピチュの滝は巨大であり、轟音と共に水しぶきが虹を作り、かなり綺麗な光景であった。


「綺麗な場所だな。それでどうやってここを渡るんだい? 橋はないみたいだけど。水上歩行の魔法を使うのかい? トトナなら使えるよね」


 クロキはトトナに聞く。

 クロキは水上歩行の魔法は使えないが、かなり多くの魔法を使えるトトナなら可能だろう。

 一応聞いてみる。


「大丈夫。この大きさの竜亀ドラゴンタートルぐらいなら浮かべる事ができる」


 トトナは頷いて言う。


「いえ、実はここから上流に行った場所に河の向こう側に行く方法があっちょりまして、そこを案内しようと思もっちょりました。どうしましょうか?」


 ハバネは苦笑いを浮かべて言う。

 そもそも、ハバネは魔法で水の上を歩く事を想定していなかった。

 そのためか本人も今後どう案内するか迷っているみたいだ。


「このまま河を渡るのと、その向こう岸に行くのはどちらが早い?」

「特に変わらんと思います。遠回りになるわけではないとです」


 クロキが聞くとハバネが答える。

 

「そう、どうしようか?」


 クロキはトトナ達を見て言う。


「ふふ、お魚がいっぱい採れる所が良いと思いますにゃん。この河はどんなお魚が取れるのにゃ? ちょっと行ってみるにゃあ」


 ダルタニャンは河を見て言うと竜亀ドラゴンタートルから飛び降りる。

 虹は綺麗だが、河は茶色く濁っていてどんな魚がいるのかわからない。

 食べるにしてもかなり泥抜きをしなければならないだろう。


「危ない!! 河に入っちゃなんねえ!!」


 ハバネが慌てて叫ぶ。

 クロキは瞬時に飛び降りるとダルタニャンを追う。


「危にゃい!! ダルタニャン!!」


 ネルフィティが叫ぶ。

 ダルタニャンが河に近づいたその時だった。

 巨大な魚の顔が水面から飛び出し、ダルタニャンに襲いかかる。

 魚の口には鋭い牙が生えていて、噛まれたら大変な事になりそうだった。


「にゃにゃ!!?」


 ダルタニャンは慌てて飛び下がるが、魚の方が早い。

 

「はっ!!」

 

 クロキは瞬時に距離を詰めるとダルタニャンを引っ張り抱き寄せる。

 間一髪でダルタニャンは魚の牙から逃れる。

 クロキはダルタニャンを抱きかかえて竜亀ドラゴンタートルの上に戻る。

 魚の頭はダルタニャンが逃げたのを見ると、すぐに河の中に戻る。


「何にゃ!? 今の?」


 ネルはハバネに聞く。


「あれはピラニア人です。あれに噛まれるとすぐに骨になってしまいまさあ」


 ハバネは説明する。

 河の中には獰猛な生き物が多数生息している。

 巨大な蛇に獰猛なカワウソ等である。

 そして、ピラニアやピラニア人もその1つでうかつに河に入らない方が良いらしかった。

 陸の上に吊り上げれば弱いので、食料にしたりする。

 だが、今回は道具を用意していないので捕らえるは無理だろうとハバネは笑う。


(ピラニアだけじゃなく、ピラニア人も食べるんだよね……。う~ん)


 クロキはハバネの言葉を聞いて少し驚く。

 ジャガー人はピラニアを食べるし、ピラニア人も食べる。

 また、それだけではなく蜥蜴人リザードマンもその飼っている大鰐も食べるそうだ。

 そして、蜥蜴人リザードマンもまたジャガーを含む獣人を食べるそうだ。

 この密林に住む種族は互いを食べるのである。

 ジャガー人を食った大鰐をジャガー人が食べる事もあるわけである。

 それは良いのだろうかとクロキは思ってしまう。


「あんなのが沢山……。姫様~。河を渡るのはやめにしますにゃあ」


 妖精猫ケットシーの1匹が言うと残りの者達も頷く。

 ピラニアは食べる事ができるが、襲われた直後ではさすがに取りたいとは思わないらしい。

 妖精猫ケットシーは違う道を行きたがる。


「仕方ないにゃあ。それじゃあ河を渡らない方で行くにゃあ。それで良いかにゃあ?」


 ネルはクロキを見て言う。


「まあ、仕方がないですね。そちらを案内してくれないか」

「はい、わかりました、暗黒騎士様」


 クロキ達は迂回路を進む事にするのだった。


 

 




  


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 あけましておめでとうございます。

 あけおめイラストを近況ノートにあげてますので良かったらどうぞ。

 

 今回登場の竜亀ドラゴンタートル。カメゴンという名称にしようか迷いました。

 しかし、オリジナルの名称は今後登場する時に読者がこれ何だっけ?なるかもしれず竜亀ドラゴンタートルのままです。

 じゃあヤモリ人のゲッコルとかはどうなのと思われそうですが……。このあたりブレブレですね。

 いつかこの世界のモンスター図鑑とかを作りたいです。

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暗黒騎士物語 根崎タケル @nezaki-take6

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