第8話 ネコネコ探検隊出発

 クロキ達はアソテカの地の西にある廃都パランケアへと向かう事にする。

 東からトラテル率いるジャガーの戦士達が攻め、そちらに気を取られている間にクロキ達が西から侵入する手はずになっている。

 期日は10日後であり、それまでにパランケアに行かなくてはいけない。

 ただ、パランケアに行くには西大陸を横断しなければならない。

 しかも、西大陸中央のアソテカの地を迂回してだ。

 距離を考えても南を回った方が良さそうなので、そちらから行く事にする。

 ハルセスは鷲の戦士を率いて空から迂回するとの事なので、それまで別行動だ。

 クロキはその事をネルフィティに伝える。


「なるほど、そういう事になったのにゃん」


 ネルフィティが欠伸しながら言う。

 ネルフィティは会議に参加せずにおやつを食べた後、お供の妖精猫ケットシー達と寝ていた。

 サボテンのような植物から採れる赤い果実は美味しかったらしく、かなり満足げに食べていたのを思い出す。


「そういうわけです。ネル王女。ここでトトナ、セイジュと待っていて下さい」

 

 クロキはネルに言う。

 はっきり言うとここから先は危険だ。

 ネルフィティにはここでセイジュと共に待って欲しかった。


「ぶううう。それは嫌にゃあ」


 ネルフィティは頬を膨らませて拒否する。

 

「クロキ、私も行く。私の魔法は役に立つ。それにネルやセイジュも一緒に行くべき……。置いていっても付いて来る」


 トトナは仕方がないという顔をする。

 確かにその通りだった。

 ここまで付いて来た事を考えるとこっそり付いて来そうである。


「さすがトトにゃ。わかっているにゃあ。セイジュも一緒にいきたいよにゃあ」


 ネルフィティが言うとセイジュはこくこくと可愛く頷く。


「御父様がナルゴルに帰ったら一緒にいられない……。だから、今だけでも一緒にいたい」


 セイジュが可愛い事を言う。

 

「うっ……、わかりました。一緒に行こう。だけど、危なくなったらちゃんと逃げるんだよ」


 クロキは観念して了承する。


(どっちみち付いて来るのなら、側にいた方がまだ安心だよね……)


 トトナ達がどっちみち付いて来るのなら、側にいた方が良い。

 その方が守る事ができる。

 これも了承した理由である。


「安心してくださいにゃあ。我々が姫様達を守ってみせましょうにゃあ」


 ネルフィティの親衛隊長であるダルタニャンが肉球で自身の胸を叩いて言う。

 ダルタニャンは優秀な妖精猫の軽戦士ニャンコフェンサーであり、ネルフィティの親衛隊を率いていて、今回も3匹の剣士を連れてお供をしている。

 ダルタニャン達がセイジュと遊んでいる様子はすごく可愛い。

 ただ、彼らは妖精猫ケットシーの中では強いが、妖精猫ケットシーという種族自体があまり強くないので、ちょっと不安だったりする。

 

「ああ、期待しているよ……。それじゃあ支度しようか。案内をしてくれる戦士が来る前にね」


 クロキは不安になりながら言うのだった。



 時刻は夕方。

 日が落ち始めているがアガトゥンの街は相変わらず熱い。

 篝火が焚かれた宿所でクロキ達は出発の準備をしていた。 

 宿所は石造りではなく、茅葺で屋根に土壁のこの地域で一般的な住居である。

 中央には火が焚かれ、部屋を照らす。


 「おいの名はハバネ・ロですたい。ハバネと呼んでくだすれ。暗黒騎士様を案内するために来たですたい」


 宿所で待つクロキの前にジャガー人の男が現れる。

 彼はジャガーの戦士であり、主に偵察スカウトを任務としているらしい。

 もしもの時は激辛の粉末を相手にぶつけて怯ませる戦い方をすると聞いている。

 今回クロキ達を案内するために来てくれた。

 

「よろしく、ハバネ。案内をよろしくお願いするよ」


 クロキは挨拶を返す。


「早速ですが、少々不味い事になっているですたい……。今密林が騒がしくなっているですたい」


 ハバネは説明する。

 最近西の密林が騒がしくなっている。

 理由はどうやら密林に住む蛇人イーグ蜥蜴人リザードマンの襲いが激しくなっているようだ。

 おそらく、紅蓮の炎竜王の目覚めが原因だろう。

 さらにその2つの種族の争いに触発されたのか他の種族も気が立っているらしい。

 そのため密林を抜けるのが少し難しくなってしまったとの事だった。

 

「そう。だけどそれは問題ないにゃあ。お兄さんなら突破できるにゃあよ」


 ネルフィティが当然のように言う。

 

「ネル。油断はしない方が良い。セイジュもいるから」


 トトナがネルに言う。

 トトナの側にはセイジュがいる。

 

「確かにそうにゃ。でもこの子達がいるから大丈夫だと思うにゃあが、油断はしない方が良いにゃあ。それじゃあ行くにゃあ」


 ネルフィティがダルタニャン達を見た後で頷く。

 あきらかに油断しそうだがクロキは黙っておく事にする。


「お待ちを姫様。姫様を歩かせるのは良くありません。何かお乗り物を用意した方が良いかと」


 ダルタニャンはそう言ってハバネを見る。

 その目は乗り物を用意しろと言っている。

 しかし、それは難しいだろう。

 西大陸の獣人の貴族の乗り物は輿ぐらいであり、それに乗って行くのはかえって時間がかかる。


「乗り物ですたいか? それは……」


 思った通りハバネは困った顔をする。


「ないのですかにゃ?」

「はい、そういう乗り物はなかです。……。申し訳なかです」


 ハバネは申し訳なさそうに言う。


「仕方がない。なら、私とクロキが用意する。ここの蜥蜴人リザードマンは乗り物にするために生き物を飼っていると聞いている。それと同じものを捕まえる」


 トトナがクロキを見て言う。

 トトナの支配ドミネイトの魔法なら生き物を操る事ができる。

 それを使って蜥蜴人リザードマンが飼っている生き物と同じものを支配すれば良い。

 ジプシールでキマイラを支配した時と同じ事をするつもりなのだ。


「確かに蜥蜴人リザードマンどもは鰐や竜蝸牛ドラゴンスネイル竜亀ドラゴンタートルに乗っとりますが……。あれを捕まえるんですたい?」


 ハバネは困惑した表情で言う。


「もちろん。案内して欲しい」


 トトナはハバネが困惑しているのを無視して言う。


(ええと……。期日に間に合うのかな……)


 ハバネが言った生き物は全部遅そうだ。

 クロキは期日に間に合うのか不安に思うのだった。 





 





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

ダルタニャンの部下の名前はアトニャン、アラニャン、ポルニャンだったりします。

今後名前が出る事があるかわかりません。


また竜王の名前の元ネタを考察されている方がいたので発表

●黄金の神竜王ラードゥン

ギリシア神話のラードーン。同じく黄金樹を守っているという設定、眷属は森竜フォレストドラゴンとも呼ばれる緑竜グリーンドラゴン。他の竜王と違って眷属と鱗の色が違う。でも森や木々を守るのは共通している。緑竜は古い森に住み、木々を枯らさない毒の吐息や赤竜ほどではないが火を吐く事ができる。人間が住む地域と生息している場所が近く、人間と接触する事がもっとも多いのが緑竜である。

●白銀の聖竜王フフル

果てしない物語の白い幸運の竜。映画だとファルコンですが、元の名前はフッフールだったはず。眷属は聖竜とも、雲竜クラウドドラゴンとも呼ばれる白竜ホワイトドラゴン。白竜は風を操り、レーザーのような雷を吐いたりします。

●漆黒の魔竜王ヴァルトラー

インド神話のヴリトラ。名前だけで類似性はあまりない。、過去にモデスに敗れて従っている。眷属は魔竜とも闇竜とも呼ばれる黒竜ブラックドラゴン

黒竜は爆裂の吐息や重力を操る事ができるという設定。

●紺碧の海竜王ヤーム

ウガリット神話のヤム。ヤムはリヴァイアサンの元ネタぽいです。同じく海の竜にしました。眷属は青竜ブルードラゴン。青竜は別に水竜や海竜や氷竜とも呼ばれる。青竜は水を操り、冷気を吐いて対象を凍らせる事が出来ます。

●紅蓮の炎竜王イツァムトリポカ

マヤ神話のイツァムナーとアステカ神話のテスカトリポカ。生贄を求める気性が荒い竜。眷属は火竜ファイヤードラゴンとも呼ばれる赤竜レッドドラゴン。赤竜は火山や砂漠や荒野に住み強烈な炎を吐く。


こういう設定を考えるのは大好きだったりします。フフルだけ神話じゃないですね。


最後に来週と再来週は休むかもしれません。年末年始で色々とやらないといけない事がありまして……、休む時は近況ノートとX(旧Twitter)で事前に告知します。

クリスマスイラストは作成済。明後日に近況ノートとXで公開予定です。

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