第7話 アソテカへの道
西大陸はアソテカの地を中心に北は砂漠が広がり、南には密林が広がっている。
乾きと潤いの落差が激しい大陸と言えるだろう。
北の砂漠地帯は過酷な土地であり、ほとんど生物が住んでいない。
それに対して南の密林には多種多様な生物が住んでいる。
クロキはヒュウガムルの地を歩く。
ジャガー
獣人なら
そして、わずかだが
ただ、人間が信仰しているのはエリオスの神々ではない。
女神プルケア等のこの地の神だ。
この西大陸南部はエリオスの神々の勢力圏外であり、天使達も近寄らない。
つまりはエリオスの眷属にとって神に見捨てられた地と言える。
今回トトナが来ているのはかなり例外といえるだろう。
これからクロキはアソテカの地を目指す事になる。
紅蓮の炎竜王が完全に目覚めたかどうかはわからない。
しかし、かの竜王の目覚めの気配は観測されている。
もし、目覚めようとしているのなら再び眠らせなければいけない。
クロキはここに来る前にヘルカートの作った特殊な眠りの香を渡されている。
竜は老齢になる頃から頻繁に眠るようになり、長い年月を生きるとさらによく眠るようになる。
古代から生きている竜王なら起きている時の方が少ないくらいだ。
そのためか、眠りの魔法が良く効くのである。
起きたばかりであり、魔女の大母と呼ばれる女神ヘルカートの作った魔法の香なら効果は抜群だろう。
だが、問題がある。
どうやって、アソテカの地に行くかである。
アソテカの地には竜の眷属が多く住んでおり、入れば争いになる可能性が高かった。
出来れば気付かれずに入りたいが、難しいだろう。
だが、それでも出来る限りは努力すべきである。
その事でクロキ達は会議をするのだった。
◆
アガトゥンの街は西大陸東海岸にある獣人の集落だ。
ヒュウガムルの地の北にあり、ここから西に行くとアソテカの地へと入る事ができる。
ここにもプルケアを祀る祭壇があり、クロキ達はそこに集まる。
会議の内容はもちろんどうやってアソテカの地へ入るかである。
側にはトトナとセイジュ、そして光の鳥神ハルセスにプルケアの息子トラクルがいる。
トラクルは雷鳴と降雨の神として崇められていて、プルケアに代わりジャガーの戦士を率いているのが彼だ。
この祭壇はアガトゥンに住む者の寄合の場でもあり、会議をするには良い場所である。
戦士以外にもジャガー
「ええと……。蜥蜴の巣に行くんじゃけど、このまま進んで良いんやろか? みなの意見ば聞きたいがや」
トラクルが集まった者達を見て言う。
実はトラクルが今回の指令官である。
この地の獣人にとっての最高神であるプルケアは付いて来ておらず、トラクルに指揮を任せたのだ。
そして、クロキもハルセスも表向きは客としての扱いだったりする。
(何だろう? 結構訛りがあるな)
クロキはトラクルの話を聞いてそう思う。
彼の言葉は訛りがある。
クロキは魔法でどのような言語でも意味が理解できるようになっているが、それでも聞き取りにくい。
プルケアが普通に喋っていたので、ちょっと驚きだ。
「正面から行くがは危険やと思っちょります。何か策ば、考えるべきやねえかと」
とあるジャガーの戦士が言う。
「そやろな、だけど良い案はあるか?」
トラクルが聞くとその戦士は黙る。
何も考えがないのだろうか他の戦士達も喋らない。
トラクルは少し残念そうな顔をするとクロキとハルセスを見る。
「方々は何か妙案はありますか?」
問われてクロキは困る。
そんな事を言われても、この地の事を良く知らない。
策など思い付かない。
「一応あるぞ。囮だ。誰かが囮になり、そちらに目が向いている間に侵入する。どうだ?」
ハルセスが得意気に言う。
クロキはそれを聞いて溜息を吐きそうになる。
確かに良い案かもしれない。
だけど、この案には問題がある。
(誰を囮役にさせるつもりなんだろう……)
クロキは疑問に思う。
相手の注意を引きつけるにはそれ相応の能力が必要だ。
ハルセスはそれを誰にやらせるつもりなのだろうか?
「たしかに良い案です。しかし、その囮を誰がやったら良かですか?」
トラクルはハルセスに聞く。
「決まっている。ここにいる暗黒騎士なら竜の眷属共がどれほどかかって来ても問題なく勝てるだろう。この者にやらせるべきだ」
ハルセスはそれをどうどうと言う。
しかし、トラクルは首を振る。
「いや、それは出来んです。おそらく、そこの暗黒騎士はんはこの中で一番強い。かの竜王に近づくにはこん方の力が必要かと思う。だから、囮は違う者がやるべきたい」
トラクルはそう言うと暗黒騎士を見る。
「トラクル王子。つまり、クロキにアソテカの中心部に行けという事なのですか?」
クロキの後ろで聞いていたトトナが眉を顰めて言う。
一番危険なのは囮ではない。
アソテカ山に入り竜王に近づく者だ。
クロキに代わりトトナが抗議をしようとする。
「わかっちょります。一番危険やと……。しかし、この中で一番竜王を眠らせる事ができそうなんは暗黒騎士殿や。どうかお願いします」
トラクルはそう言ってクロキにお願いする。
まあ、実際にそうなるだろうとクロキは思っていた。
だから、この件は引き受けるしかないだろう。
「わかりました。行きましょう……。トラクル王子。そのために自分は来たのですから」
抗議しようとするトトナを止めるとクロキは了承する。
「感謝しわす。暗黒騎士殿。囮はこっちが引き受けます。東タカチョルから攻めて、注意を引きますばい」
トラクルはお礼を言う。
タカチョルとは今いるアガトゥンから西に行ったところにある獣人の街だ。
アソテカの地に近く、ここを拠点に攻め込むつもりらしい。
「いえ、礼は上手く行った時にしてもらいます。ですが問題があります。自分はこの地に詳しくありません。案内役が必要です。用意していただけますか?」
「わかっちょります。おいの詳しい者を連れてきます。そいが案内してくれるでしょう」
トラクルはそう言って頷く。
「ふん、ならばこのハルセスも同行してやる。お前にばかり頼らなくても良いと事を教えてやろう」
ハルセスが面白くなさそうに言う。
クロキはそれを聞いて少し感心する。
対抗心であっても危険な場所に同行してくれるのだから、クロキとしてはありがたい。
もっとも、上手く協力できるかはわからないのだが。
「そうですか……。礼ば言います、ハルセス殿。ハルセス殿と暗黒騎士殿が協力したら間違いないですたい」
トラクルは嬉しそうに言う。
「はい、間違いないでしょう。ハルセス殿や暗黒騎士殿が問題はどうやってアソテカの地に入るかですな」
ジャガーの戦士が言う。
アソテカの地へ入るには3つの方法がある。
空から入る方法、陸から入る方法、そして地下から行く方法である。
実は西大陸の地下には大空洞があり、そこからアソテカの地へ入る事が出来る。
ただし、地下にはコボルドの王国がいくつもあり、彼らに見つからずに進むのは困難だ。
空はもっと難しいだろう。
空は遮蔽物がほとんどなく、すぐに見つかる。
残りは陸地から入るである。
これも、困難だ。
アソテカの地はカルデラであり、険しい外輪山が天然の防壁になっていて簡単に入れないのだ。
比較的出入りがしやすいのは東西に2か所あるが、どちらも入り口近くには竜の眷属が造った街があり、素通りするのは難しい。
また、東の入り口でトラクル達が囮になるので結局西から入る事になる。
西には廃都パランケアがあり、まずはそこへ行かねばならないだろう。
この3つの方法のどれを選んでも見つかる可能性がある。
だが、選ばなければならないのであった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
筆が進まず、こんな時間になりました。明日仕事なのに起きれるでしょうか?
ちょっとキツいかも(>_<)。
日曜の10時半からギアを上げて急いで書きました。
文章で変な所があったら報告お願いします。
ちなみにトラクルの名前はアステカの神トラロックとお酒のメスカルからだったりします。
あんまり外見の描写は少ないですがプルケアと同じジャガーの神だったりします。
そういえばカマルバーを出した時に年齢がバレますねという話がありましたが、さすがにその世代ではないですよ(^.^;)
昔のアニメを放送していたのを、どこかで見た記憶があり、そこからです。
御菓子買って紙芝居を見る世代だとしたら自分はいくつになるのでしょうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます