第6話 竜の都マヤトラン

 アソテカ山は西大陸中央部にあり。カルデラを伴う大型の複成火山である。

 その外輪山の中のカルデラには数多の竜の眷属が住む都市が多くある。

 特に中心部にあるマヤトランは規模が大きく、アソテカの地に住む竜の眷属達の都である。

 マヤトランには巨大な竜王イツァムトリポカを祀る大神殿があり、多くの竜の眷属が参拝する。

 その神殿の中心部にて大祭司長ナゾロムは静かに瞑想をする。

 ナゾロムはマヤトランに住む竜人ドラゴニュート達の統率者だ。

 第2世代の竜人ドラゴニュートであり、普段は魔法の円盤に乗り、深く瞑想していて、ごく僅かな者としか会う事はない。

 今もこの祭壇には誰もおらず、ナゾロムは目を瞑り静かに思索するだけだ。

 だが、その瞑想はある者が近づいて来た事で中断する。

 入って来たのは頭に白い毛がトサカのように生えた竜人ドラゴニュートだ。

 ナゾロムと同じように法衣を纏っている。

 竜祭司のマ・ゾホーだ。

 マ・ゾホーは第5世代の竜人ドラゴニュートであり、力はそこまで強くない。

 しかし、竜人ドラゴニュートの数は少なく第1世代の竜人ドラゴニュートが全て滅び。

 第2世代と第3世代の竜人ドラゴニュートは蛇の女王達との戦いでほとんどが死んだ。生き残ったわずかな者も傷つき、ナゾロムを除き眠っている。

 現在、このアソテカの地を活動しているのは第4世代と第5世代の竜人ドラゴニュートである。

 マ・ゾホーは第5世代の中でも特に優秀で最近ナゾロムの弟子となった者である。


「マ・ゾホーか? どうであった?」


 ナゾロムは近づいて来た者を見て聞く。

 マ・ゾホーは最近起きている地震について調べていた。

 このアソテカでは地震は竜王の目覚めの予兆とされている。

 紅蓮の炎竜王の力は強大だ。

 目覚めれば大地が胎動し、山が火を吹く。

 だが、この地震は外部からもたらされたものであり、自然な目覚めではない。

 そこでナゾロムは腹心の部下であるマ・ゾホーに調査させていたのだ。


「オホホホホ。ナゾロム様、調べてきましたぞ。間違いありません。西の廃都パランケアに死の眷属が姿を現したようです。かの者が偉大なる竜王様を刺激したようですぞ」


 マ・ゾホーは頭を下げるとそう報告する。

 それを聞いてナゾロムは目を大きく開く。

 

「なるほど、我らが偉大なる竜王様に対する不届き者。これは捨て置けぬ……。しかし、あの場所からこの聖地に攻撃をしかけるとは只者ではない。もしや、かの黄金の蝙蝠が目を覚ましよったか……」


 ナゾロムは再び目を瞑る。

 思った通り、最近の地震は西のパランケアから何者かに起こされた。

 決して竜王が胎動したのではない。

 パランケアは外輪山の外にあり、あの場所から大地を震動させるのは並みの者にはできない。

 これほどの力を持つ者で考えられるのは遥か昔、神々の大戦の時に眠りについた黄金の蝙蝠神である。

 黄金の蝙蝠神は死神ザルキシスに匹敵する力を持っている。

 かの神ならばはるか西のパランケアからここまで地震を起こす事もできるだろう。

 これは自らが崇める主に対する挑戦である。

 捨て置くつもりはなかった。

 しかし、並みの戦士を送っても返り討ちにあうだけだ。 

 場合によってはナゾロム自身が動かなくてはいけないだろう。


「ナゾロム様。問題はそれだけではありません。竜王様が目覚めかけている事を察知した獣共や蛇共も動き出しているようですぞ」


 マ・ゾホーがさらに報告する。

 パランケアからの攻撃で実際に竜王は目覚めかけている。

 その胎動は西大陸全体で感じる事ができる。

 敵対する者達が騒ぎ出すのも当然であった。


「どうやら、これが狙いか……。我らが竜王様を無理やり目覚めさせるつもりか……。何を考えておる」


 ナゾロムは首を傾げる。

 

「それから、獣の地から強大な竜の力を感じますぞ。どういう事でしょうか?」


 そう言ってマ・ゾホーは首を傾げる。

 竜の眷属は竜の気配を感じる事ができる。

 最近になりこの大陸の西に強大な竜の気配を感じるようになったのだ。

 これはナゾロムも同じだ。


「わからぬ。他の竜王であるならばわかるのだが、そのどれでもない。我らが竜王様に敵対する者かどうか……。それを見極める。戦士達を召集せよ。何が起きるかわからぬ以上。この地に近づけさせてはいかん」


 竜の眷属は竜王に従う。だが、竜王同士は別だ。

 争いになる可能性もあった。

 だから、もしその竜が近づくのなら阻止しなければならなかった。


「わかりましたぞ」


 そう言ってマ・ゾホーは部屋から出て行く。

 ナゾロムは再び瞑想する。


「騒がしくなってきている。これは本当に目覚めの時なのか……」


 紅蓮の炎竜王はやがて目覚める。

 外部的な要因で目覚めようとしているが、もしかするとこれが運命なのかもしれない。

 ナゾロムはそう考えてしまう。

 もし、そうなれば世界を炎による輪廻が近づいた事を意味する。

 そうなればそれを阻止しようとする者達が動き出すだろう。

 戦いが始まろうとしていた。



 アソテカの地に住む竜の眷属は大別すると2つに分かれる。

 支配者である竜人ドラゴニュートとそれに奉仕する種族だ。

 奉仕種族のほとんどはリザードマンであり、さらに3つの階級に分かれる。

 呪術師、戦士、平民、奴隷である。

 呪術師はリザードマン達の指導者を務める。

 竜人ドラゴニュートは支配をしても統治はほぼしない。

 必要な時には指示をするが、奉仕種族の自治に任せている。

 呪術師はそんな竜人ドラゴニュートにかわりリザードマン達を指導するのである。

 戦士はその武力で竜人ドラゴニュートや呪術師を守るのが仕事だ。

 サウルスと呼ばれ、通常のリザードマンよりも一回り巨大な体躯を持つ。

 また、竜人ドラゴニュートや呪術師の指示で下位の階級を直接支配する。

 平民は呪術師と戦士以外のリザードマン達だ。

 戦士よりも小さく一般的にリザードマンと呼ばれるのが彼等である。

 奴隷は様々な労働に従事し、時には上位の存在の贄となる。

 奴隷は必ずしもリザードマンではなく、多種族も含まれ、コボルドやゲッコル、それに僅かだが竜を信仰する人間も含まれる。

 この階級は生まれた時に決まり、変化する事はない。

 もし変わる事を望むなら修行により輪廻転生して別の階級に生まれ変わらなければならない。

 リザードマンのヴァン・ホーはリザードマンの戦士階級に属する。

 ヴァン・ホーは西の都イツァの生まれであり、その優れた能力から、マヤトランに召集された。

 

「御主人様。行かれるのですか?」


 リローがヴァン・ホーに言う。 

 リローはヴァン・ホーの召使いだ。

 アソテカに住む人間ヤーフの少女であり、ヴァン・ホーの世話をするのが仕事だ。

 アソテカにはリザードマン以外の者も住み、リローもその一人だ。

 小さい頃に奴隷としてヴァン・ホーに捧げられ、今日まで一緒に暮して来た家族のようなものである。

 イツァからこのマヤトランに移動するときに連れて来た唯一の奴隷であった。


「ああ、偉大なる方々から召集があった。戦いが始まるらしい。留守にするのでこの家の事は任せたぞ」

「はい、御主人様」


 リローは頭を下げる。

 家を出ると石造りの街並みが広がる。

 コボルドの石工が作った街並みは見事であり、神殿前の広場へと足を運ぶ。

 仲間の戦士達も同じように向かっている。

 やがて、広場へと行くと多くの戦士達が既に集まっている。

 高い場所にある神殿の入り口には祭司マ・ゾホーがいて、両脇には竜人ドラゴニュートの戦士が控えている。

 かなり、緊迫した雰囲気であった。 


(何があったのか? やはり竜王様の胎動に関する事だろうか? それとも先日感じた西からの強大な竜の気配の事だろうか? いや、考える必要はない。戦士として武器を振るうだけだ)


 ヴァン・ホーは考えるのをやめる。

 ただ、おのれの役割を果たすために。

 

 

 


 

 

 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 先週は休んで申し訳なかったです。

 実はカドカワの謝恩会に行っていました。すごい作家の方がいっぱいでした。

 でも来年は呼ばれないでしょう。その理由は近況ノートに書いてます。


 今回は竜人とリザードマン。

 ナゾロムとマ・ゾホーの名前の由来は某昭和ヒーローの敵役ともう一つあります。

 ヴァン・ホーにも由来があったりします。

 ちなみに〇〇太と竜の騎士なんですけどね……。

 他に竜の騎士といえばダ〇の大冒険とか思い浮かべそうですが、強さの設定が難しいので使用できなかったりします。


 後コボルドですが、彼らも竜の眷属です。

 日本では犬っぽい姿で描かれます。D&Dだと蜥蜴でハースストーンだと鼠ぽい。どうしてこうなったのでしょうね?

 文献を調べても、特に姿形はわかりません。

 山中に住むのならモグラぽいのが良いのかな?

 どうしましょうか?


 

 

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