第5話 黄金の蝙蝠神(イラストへのリンクあり)
鮮血の姫ザファラーダは死の都モードガルから西大陸へと来ていた。
場所は西大陸西部、竜の眷属アステカの地のすぐ西にある赤の都パレンケアである。
父であるザルキシスからある密命を得て、それを果たすためだ。
パランケアはかつてモードガルと並ぶ死の都であり、ここでザファラーダは赤の女王と呼ばれ、崇拝されていた。
だが、今は数々の戦乱により、ほぼ廃墟である。
ザファラーダは曇天の空の下、石造りの街を歩く。
つい先程までザシュススが負けたと聞いて少し様子を見に行っていたのだ。
この地においての事は既に別の者に任せてある。
よって、ザファラーダが留守にしても問題はないはずだった。
ザファラーダは最も大きな建造物に入る。
ここから地下に行けるはずであった。
地下には巨大な空間があり、地表と同じように都市が広がっている。
高い天井には無数の蝙蝠がいて、ザファラーダを見下ろしている。
やがて、巨大な石造りの館の前まで来る。
「カマルバー。どこにいるの? 出て来なさい!!!」
ザファラーダは館を見て叫ぶ。
その時だった。
「ワッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
高笑いが地下に鳴り響く。
ザファラーダが天井を見上げると、すぐ近くに巨大な黄金の蝙蝠が飛んでいるのに気付く。
黄金の蝙蝠はザファラーダの前に来ると姿を変える。
現れたのは襟の高い黒い外套を着た黄金の身体を持つ男だ。
男は黄金の髑髏の仮面を被っていて、表情がわからない。
この黄金髑髏の仮面を被った者こそ黄金の蝙蝠神カマルバーである。
カマルバーはかつてザルキシスに従属していた男神である。
だが、神々の大戦の時に天父神オルギスとも仲が良かったので、中立を守り、ザルキシスとは袂を分かった。
ザルキシスは怒り、カマルバーを黄金の棺に封印することにしたのである。
負い目があったカマルバーはそれを受け入れ、廃墟となったパレンケアの地下にある蝙蝠の館にて眠る事になった。
そのカマルバーをザファラーダは目覚めさせたのである。
「本当にどこから来るのかわからないわね……。カマルバー」
全く気配を感じさせずに突然現れる、カマルバーの能力にザファラーダは眉を顰める。
かつては自身の婚約者であった神だ。
正直に言って苦手である。
しかし、戦力が低下している現状において、苦手とは言っていられない。
だから、ザファラーダはこの蝙蝠神を目覚めさせる事を了承したのである。
「ハハハハハハハハハハ。それを知るのは蝙蝠だけと言ったところですぞ。ザファラーダ姫よ」
「そう、ところでお願いしていた件はどうなの?」
「フフ、上手くいっていますよ。吾輩の力で件の竜王は少しだけ目を覚ましましたぞ」
カマルバーは自身の持つ銀色の杖を掲げて言う。
銀月の魔杖。
カマルバーの持つ魔法の杖だ。
カマルバーはこの杖を使い様々な魔法を使う事ができる。
その中に地面を割り、そこに相手を落とした後に元に戻して潰したりすることができる。
カマルバーはその魔法を応用して、この地から振動を起こし遠いアソテカ山の地下で眠っている紅蓮の炎竜王を攻撃したのだ。
さすがに遠いから威力は落ちている。
それでも紅蓮の炎竜王を僅かでも目覚めさせることが出来たようである。
「そう、良くやってくれたわ、カマルバー。御父様も喜びになるでしょう」
ザファラーダは笑う。
紅蓮の炎竜王を目覚めさせ、蛇の女王と戦わせる。
これはザルキシスの考えた仕返しだ。
蛇の女王はザシュススを蘇らせ、ザルキシス達を滅ぼそうとしていた。
そこでザルキシスは蛇の女王と因縁のある紅蓮の炎竜王を目覚めさせることにしたのである。
ディアドナを滅ぼすために。
「ハハハハハ、吾輩にお任せあれ!! 暴竜を目覚めるとは思い切った事をしますな!! かの暴竜が目覚めれば大変な事になりましょうに!!」
カマルバーは笑いながら顎に手を当てて言う。
ザファラーダはその高笑いに頭が痛くなる。
「確かにそうでしょうね……。相打ちが一番良いのだけど……。まあ、蛇の女王の奮闘を祈りましょう」
「だが、その前に竜人共がこちらに来るかもしれぬぞ。姫。自らの崇める神を無理やり起こされて怒っているでしょうからな」
「その時はカマルバー。貴方が何とかしなさい。貴方の実力ならできるでしょう」
ザファラーダはカマルバーを見る。
カマルバーの強い、本当に強い。不死身に近い力を持っている。
全盛期のザルキシスと互角の力を持つ蝙蝠神ならあのアルフォスや光の勇者とて勝てないだろう。
「ハハハハハ!!! 吾輩にお任せあれ、姫よ!!」
カマルバーは笑う。
そんな時だった何者かが近づいて来る。
「お姉様……。戻って来ていたのですか」
ザファラーダが振り返ると長い髪で顔を隠した女性らしき者が近くに来ていた。
「ザシュタム。ええ、今戻ってきたばかりよ。ザシュススの兄上は敗れた。そして、父上はしばらく姿を隠すみたいよ。私達はここで蛇の女王を痛い目に会わせるわ。貴方には南の様子を見に行ってもらっていたけど、どうしたの? 何かあったの?」
ザファラーダは髪で顔を隠した女に言う。
首吊りの女神ザシュタム。
ザファラーダの妹であり、この死の女神でもある。
ザシュタムはザファラーダの命令で南の蛇の眷属と南東の獣の眷属達の様子を見に行かせていた。
「御姉様。それなのですが、プルケアの所にジプシールから援軍が来たようです」
ザシュタムはそう報告する。
「ジプシールから援軍が? まあ、かの暴竜が目覚めるとなれば、セクメトラも心配するのは当然ね。でも、よいわ。ぜひかの竜王と戦ってもらいましょう」
ザファラーダは笑う。
紅蓮の炎竜王はディアドナだけでなく、ジャガーの女神プルケアとも敵対していた。
ザファラーダにとって死の世界を広げる邪魔になる獣神達も滅ぼす対象である。
竜王には獣神達も滅ぼしてもらいたいとザファラーダは思う。
だが、上手くいくとは限らない。
両者が共倒れになってもらわなくてはいけないのだ。
ザファラーダは上手く立ち回る必要がある。
そのためにはカマルバーの力が必要になるだろう。
「カマルバー。貴方を頼りします。手を貸しなさい」
「ハハハハハハ!!!!! お任せあれ姫よ!!!!」
カマルバーの高笑いが地下に鳴り響くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
本当は竜人サイドも書く予定でしたが、書けませんでした……。
前回の予告と違ってごめんなさい。
そして、黄金の蝙蝠神カマルバー登場。
実はこのカマルバーのイラストを作るのに時間がかかり、執筆時間が短くなりました。何をやっているのでしょうね。
でも作るのは楽しく、良く出来たので見てやってください。
元ネタは某昭和ヒーロー。
https://kakuyomu.jp/users/nezaki-take6/news/16818093089193652436
カマソッソとマヤの死の世界シバルバーが名前の由来。
銀月の魔杖はシル〇ーバトンと呼んではいけません。
最後にお知らせです。
来週の更新は休みます。
実は11月29日から東京に旅行に行きます。
帰って来るのは日曜日なので、更新が難しいです。
帰ったら近況ノートに書きますね。
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