第4話 竜の大陸
西大陸は中央大陸の西側にある大陸だ。
西大陸の中央にアソテカ山を中心とした巨大カルデラがあり、そのカルデラの北は灼熱の砂漠地帯。南側は熱帯雨林となっている。
北側の砂漠地帯にはほとんど生物がすんでおらず、沿岸のセアードの内海に面した場所にはわずかに人間が国を作っている。
巨大カルデラの中には竜人やリザードマン達が文明を築き、南の熱帯雨林に住む、蛇の眷属や獣人と争っている。
そんな西大陸へとクロキ達は向かう。
ジプシールから出発した空船は3隻。
その一番最後の船にクロキ達は乗っていた。
「あれが、西大陸か」
クロキはセイジュを抱っこした状態で空船から西大陸を見る。
多くの木が茂り、続いている。
これから西大陸の南東の海岸へと着陸する予定である。
そこが、プルケア達の本拠地だからだ。
「ふん、暗黒騎士よ。まさか貴様が来るとはな。うん、何だ、その小さいのは? これから戦いに行くのに役に立たなさそうな者を連れて来るとはな。呑気なものだ」
突然上空から声がかけられる。
上空を飛んでいるのはハルセスだ。
実は彼がジプシールの援軍の総指揮官である。
ハルセスは西大陸に住む鷲人から光の神として信仰されている。
西大陸の獣人達は連合してリザードマン達に対抗しており、ジャガーの戦士頂点に鷲の戦士やコヨーテの戦士等がいる。
鷲人と深い関りがあるハルセスが西大陸へと派遣されたのだ。
ハルセスはクロキが乗る船とは別の空船へと乗っていた。
クロキと話す気がなかったらしい。
一応西大陸が近づいたので話す気にでもなったのかもしれない。
ハルセスが近づくとセイジュは隠れる。
どうやらハルセスはセイジュの事を知らないらしい。
おそらくトトナが秘密にしているのだろう。
「ええと、この子はセイジュ。とても良い子だよ。自分が責任を持ってこの子の面倒を見る。迷惑はかけないよ」
クロキはセイジュを紹介する。
確かにこれから戦いに連れて行くのだからセイジュを連れて行くのは良くないだろう。
だから、素直にクロキは謝る。
「ふん、貴様の力など最初からあてにしてはおらぬわ。それよりも、トトナ殿はどこにいる?」
ハルセスは空船にいるはずのトトナを探そうとする。
どうやらクロキではなくトトナを探しに来たようだ。
「セイジュ? どこにいるの? あれ? ハルセス殿下……? 来ていたの?」
甲板に出て来たトトナがハルセスを見て眉を顰める。
「おお、トトナ殿!! 相変わらず美しい!! このハルセスを助けるために来てくれて礼を言うぞ!!」
ハルセスはトトナの側に行こうとする。
しかし、その間を遮る者が現れる。
「ハル君。またトトナんに言い寄っているのかにゃ? そんなんだから、トトナんがアルナックに寄り付かなくなったのにゃ。いい加減諦めるにゃあ」
遮ったのはネルフィティである。
ネルフィティはトトナを守るかのようにハルセスを睨む。
ハルセスはネルフィティを見て嫌そうな顔をする。
「ぐっ! ネルよ! なぜ、ここにいる!! 義母上は承知しているのか!!?」
「トトナんが心配だから勝手に来たにゃあ。危なくなったら暗黒騎士のお兄さんに守ってもらうから心配する必要ないにゃあ。ハル君より頼りになるにゃあ」
ネルフィティは挑発するようにクロキに手を振る。
「なんだと!!? ぐっ!! クソっ!! 戻らせてもらう!!」
ハルセスはネルフィティを殴ろうとして止めると、自身の乗って来た船へと戻る。
ネルフィティはセクメトラの娘であり、ハルセスも頭の上がらない相手なのである。
そのため、ハルセスもトトナには手が出せないようだ。
ネルフィティはハルセスに舌を出して手を振って見送る。
「助かった、ネル。ありがとう」
「良いにゃあ。ハル君はジプシールにいっぱい奥さんがいるのにトトナんに言い寄るのはおかしいにゃあ」
ネルフィティは首を振って言う。
ジプシールにはハルセスの妻となった女神が複数いて正妻の座を争っている。
それもあってトトナはアルナックにいずらいようだ。
ネルフィティがハルセスの妻になれば正妻は確定だが、今はそうではない。
そのため、争いは激化している。
トトナはその争いから逃れるためにハルセスと距離を取っている。
「それよりも、もう着陸みたいだにゃあ。用意するにゃあ」
ネルは甲板から下を見て言う。
空船がゆっくりと降下する。
降りる先は西大陸南東ヒュウガムルの地にある都市イトゥ。
ジャガーの女神プルケアの本拠地である。
クロキ達はイトゥへと辿り着くのだった。
◆
イトゥはジャガー
石作りの街は多くの者が暮らしている。
中心にあるのはピラミッド型の四角錐の建造物を中心に街が形成されている。
クロキ達を乗せた空船はそのピラミッドへと降りる。
ピラミッドは祭壇であり、周囲には
彼らは踊り、プルケアの帰還を出迎える。
そして、一緒に来たハルセスが来るとプルケアの時と同様の歓声が上がる。
ハルセスはここではプルケアの次ぐらいに人気があるようだ。
クロキ達も降りるが特に反応はない。
まあ、これは仕方のない事だろう。
クロキやトトナはこの地に縁はない。
しかし、宴に参加はさせてもらえるだろう。
西大陸に戻ったのは夜であるが、篝火や星の光で周囲は明るい。
もっとも、闇視の力があるクロキならどんな暗闇でも見る事ができたりする。
女神プルケア中心にして宴が始まる。
マヤウェルから作られた酒にトウモロコシのパンに豆類や肉が提供される。
肉はトカゲにネズミが多く、珍しかった。
味付けは塩に唐辛子等。
そして、驚くべきことにショコラトルと呼ばれるチョコレートに似た飲み物がある事だ。
クロキは末席で左右にネルフィティとトトナと共に座る。
セイジュはクロキの膝の上に座り、宴に参加する。
気に入ったのかセイジュは蜂蜜入りのショコラトルを沢山飲み、少し上機嫌である。
ハルセスは多くのイトゥの民に囲まれて、トトナの所に来る事が出来ない。
そのため、クロキ達は純粋に食事を楽しむ事が出来る。
(この地の雰囲気はジプシールに似ているな……)
クロキは楽しそうに踊るジャガー
ジャガー
竜の眷属が支配する地は西大陸の中央であり、既に異変が起きているようだ。
明日からその地を探索する。
とりあえず今は宴を楽しもうと思うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
ハルセスも一緒だったりします。
鷲の神を出そうかと思っていたのですが、登場する神を少しでも減らそうと思い、ハル君に登場してもらう事にしました。
実はこれからさらにキャラが増えます。黄金の蝙蝠神や竜人の司祭。無駄に登場キャラがどんどん増えます。自分の悪い癖ですね。
ジャガーマンにジャガーの戦士に鷲の戦士。
古代メキシコに獣人が住んでいた事は明白ですね。
実はもっと食文化について書きたいのですが、描写が上手く行かない。
文字数ももっと増やしたいのです。
最後に次回は竜側の話です。
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