第3話 ジャガーの女神 (セイジュのイラストへのリンクあり)
クロキはトトナ達と共に黄金の都アルナックへと行く。
その道中の間、舟の中でずっとセイジュにお願いされて遊んでいた。
トトナはそれを微笑ましく見守る。
キマイラは空舟の横で飛び、共にいた。
傍目から見て、穏やかな雰囲気で旅をしていたように見えるだろう。
だが、クロキの心中は穏やかではなかった。
(これ、レーナやクーナにバレたら大変な事になるよね……)
クロキはその事を考えると背筋が震える。
特にレーナは本当に怖い。
おそらく、クロキの方が強い。
しかし、勝てる気が全くしない。
そんな相手がレーナである。
悔しいがレーナの魅力に捕らわれているのをクロキは感じていた。
幸いトトナはセイジュの事を秘密にするつもりのようだから、レーナに伝わる可能性は低い。
トトナはエリオスの女神であり、敵であるナルゴルの者と子どもを作っている事が判明したら大変な事になるからだ。
だから、このジプシールにいる間だけ夫婦でいようとしている。
セイジュはクロキの膝に座り、トトナは寄り添う。
トトナは蠱惑的な瞳でクロキを見ている。
クロキはトトナに対して、どこか怖い何かを感じる事がある。
クロキを不審者と見ていた猫の侍女バスタはいつの間にか敬うような態度になっている。
基本的にトトナは魔術師協会支部にいる事が多く、セイジュも一緒に付いて行っていた。バスタはそんなセイジュを世話するためにいた。
仕えるべきセイジュの父に恭しくするのも当然である。
よそに愛人を抱えているクズ男のような状況にクロキは罪悪感を抱く
そんな感じでクロキ達はアルナックへと辿り着くのだった。
◆
「おお、良く来たのにゃあ!! クロキん!!」
アルナックに来ると猫の王女ネルフィティが出迎えてくれる。
以前はお兄さんと呼ばれていたが、名前で呼んでくれるようだ。
「ええ、久しぶりです、ネル王女」
クロキは頭を下げて挨拶をする。
「さっそくだけど、プルケア叔母様がお待ちにゃあ。来てにゃあ」
ネルフィティはそう言ってクロキを案内する。
トトナとセイジュも一緒だ。
ちなみにバスタと船頭のドワーフは残ったままである。
クロキはネルフィティに連れられてアルナックの宮殿を歩く。
案内されたのは女王の間とは違う場所である。
案内された部屋に入ると、涼しい風を感じる。
中庭に面しており、広い庭池が見えて鳥達が休んでいるのが見える。
「良く来たな。暗黒騎士よ。待ちかねておったぞ」
部屋に入ると獅子の女王セクメトラが出迎える。
前に会った時と変わらない。
蛇の女王ディアドナに匹敵する力を持つ女神であり、ジプシールの神々の盟主である。
彼女を前にするとさすがのクロキも緊張する。
「お久しぶりです。獅子の女王殿」
クロキは恭しく頭を下げて答える。
「堅苦しいのは抜きじゃぞ、暗黒騎士。そのあたりは光の勇者を見習うのじゃな。さあこちらに来い。紹介しよう。我が義妹のプルケアじゃ」
セクメトラは奥に来るように促すと隣にいた獣人の女性を紹介する。
クロキはその獣人の女性を見る。
豹に似た獣人だ。
だが、斑紋の形が違う。
彼女こそジャガーの女神プルケアであり、西大陸の獣人に信仰される女神である。
彼女はクロキを見て立ち上がる。
「わらわはプルケア。初めて会うわね、暗黒騎士。貴方の事は知っているわ」
プルケアは立ち上がって挨拶する。
セクメトラよりも一回り小さいが、しなやかな肢体は素早そうであり、おそらくかなり強い事が伺えた。
「暗黒騎士のクロキです。初めましてプルケア殿」
クロキも挨拶をする。
「暗黒騎士。トトナよ。しばらく、暗黒騎士を借りるぞ。ネルよトトナと共に下がっておれ」
「わかったにゃあ。トトナん、行くにゃあ」
「ええ、また後で、クロキ」
ネルがトトナとセイジュを連れて部屋を出て行く。
「さあ、座れ。暗黒騎士。プルケアが持ってきた、酒をついでやろう」
セクメトラは酒をクロキに勧める。
クロキはそこで困る。
酒は出来れば飲みたくない。しかし、勧めてくれる酒を飲まないのは失礼にあたる。
だから、杯を受け取る。
「ありがとうございます。獅子の女王殿」
クロキは酒に口を付ける。
濃厚な酒の味がする。
「どうだ、暗黒騎士よ。マヤウェルから作った蒸留酒は美味いであろう」
プルケアは笑って言う。
マヤウェルとはリュウゼツランに似た植物である。
西大陸ではマヤウェルから作った酒が広く飲まれるらしいと聞いている。
酒精が弱いのから、蒸留した強い酒と色々だ。
「はい、とても美味しいです」
クロキは笑って言う。
美味しいが、正直に言うとこんな強い酒を飲んでしまうと理性が飛んでしまいそうであった。
「さて、本題に入ろうか。暗黒騎士よ、どこまで聞いている?」
セクメトラはクロキを見て言う。
「聞いているのは紅蓮の炎竜王が復活した事ぐらいです。正直に言うと自分は紅蓮の炎竜王の事を良く知りません。かなり危険な存在のようですが……」
クロキは本当の事を言う。
「あやつの事を知らぬか……。まあ、無理もない。かなりの昔の話じゃからな」
セクメトラはそう言うと説明する。
紅蓮の炎竜王はかなり暴竜である。
世界の支配者を名乗り、多くの神々を敵に回した。
この竜が目覚めれば再び世界は火に包まれるだろうと説明する。
「奴はかなり強い。何でも奴は始まりの竜皇となる事を目論んでいるとの事だ。まあ、本当かどうかはわからないがな」
プルケアは首を振って言う。
「そうですか、まあ実際に会ってみないとわかりませんね……。蛇の女王も彼の竜王と争っていると聞いています。その様子見のために行こうと思います」
クロキはそう締めくくる。
始まりの竜皇の事も知らないし、紅蓮の炎竜王がどれほど危険かわからない。
だから、実際に行ってみるしかない。
「そうか、動いてくれるか、暗黒騎士よ。もちろんジプシールも加勢するぞ」
セクメトラはそう言って酒をごくごくと飲み干す。
かなり強い酒だがセクメトラにとっては水のようなもののようだ。
「礼を言うぞ、暗黒騎士。さあ、つまみも食べてくれ」
プルケアが皿に入っている酒のつまみを差し出す。
それは焼かれた芋虫であった。
マヤウェルを食べる芋虫で、酒と一緒に良く食べられるものである。
「ありがとうございます」
クロキは芋虫を取ると食べる、
美味しい。
最初は昆虫食に慣れていなかったクロキも、最近では食べるようになった。
見た目は悪いが、味は悪くない。
もし、元の世界に帰る事があったら試してみようと思うのだった。
◆
翌日になりクロキは西大陸に向かう事にする。
西大陸はアルナックから空船に乗り、数日の距離である。
同行するのはトトナとジプシール軍勢である。
空船は雲の上を飛び良い天気だ。
「ふわ~」
クロキは甲板で欠伸をする。
昨晩は宴を催された。
酒を飲まされて、かなり羽目を外してしまった。
そのため、自己嫌悪に陥る。
(うう、昨晩の記憶がない……。ナニをしてたんだろう?)
朝、気が付くとトトナと一緒に寝ていた。
全裸で会ったすぐ近くにはネルフィティも寝ていたので、おそらく変な事はしていないだろうと信じたい。
子どもであったセイジュは別室で
普通の酒なら酔う事はない。
だが、神々が酔うために作られた神酒はクロキでも酔う。
何とか体を動かして酒精を抜かねばならなかった。
「クロキ。調子はどう?」
一緒の船に乗っているトトナが声をかける。
酒をあまり飲まなかったのかトトナの調子は悪くなさそうである。
むしろ、肌が艶々している。
そして、瞳が潤んでいる。
昨晩何をしたのか聞くのが怖くなってくる。
「まあ、ぼちぼちかな。身体を動かして、酒精を抜くよ。それよりも良いの、トトナ? セイジュを置いてきて?」
クロキは首を傾げて言う。
「それは大丈夫。ネルにお願いしてきたから、セイジュは猫達と仲が良いからきっと大人しくしている」
トトナは首を振って言う。
セイジュもネルフィティも一緒に行きたがったが、危険でありセイジュはトトナが、ネルフィティはセクメトラが行く事を禁じた。
そのため、両者とも留守番である。
大人しくしていれば良いとトトナは笑う。
「た、大変です!! トトナ様!!」
そんな事を話している時だった。
突然トトナを呼ぶ声がする。
振り向くとジャガー人の女性が駆け寄って来る。
彼女はプルケアの侍女だったはずだ。
何か慌てている。
「どうしたの? 慌てて?」
「はい、それが、密航者がいまして、トトナ様に急ぎ伝えに参ったのです」
ジャガー人の女性はそう言う。
「密航者? なぜ、それを私に?」
トトナは首を傾げる。
わざわざ密航者をトトナに伝える必要はない。
ここの船長が処分すれば良いのだ。
「それが、その密航者というのが……」
ジャガー人の女性は困った顔をする。
「にゃはははは。ごめんなのにゃあ。一緒に行きたくてこっそり乗り込んだにゃあ」
笑い声がする。
声がする方を見るとジャガー人の女性が出て来た扉から誰かが出て来る。
そこにいたのはネルフィティであった。
そして、もう一人ネルフィティの後ろに誰かがいる。
かなり小さい人物だ。
トトナはその顔を見て驚く。
「セイジュ!! 貴方一緒に付いて来たの!?」
ネルフィティの後ろにいたのはセイジュであった。
セイジュはネルフィティと違い、おどおどとしている。
悪い事をしたという自覚があるのだろう。
「ごめんなさい。母様。父様達と一緒にいたくて……」
セイジュはまっすぐにクロキを見る。
その顔を見てクロキは何も言えなくなるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
プルケアの名前の由来はお酒のプルケ。
テキーラの原料にもなるリュウゼツランから作られるお酒です。
そして、マヤウェルはリュウゼツランの女神だったりします。
食べているイモムシはグサーノというメキシコで食べられる珍味をモチーフにしています。
また当然セイジュも西大陸に付いて行きます。
次回からようやく西大陸です。
小説を書いていると頭が痛くなる事に悩まされています。
前は頭痛の原因がわかりませんでしたが、執筆をするときに痛くなるようですね。
どうやら小説を書く行為は脳をかなり使うみたいです。
それを考えるとストーリーも考えて、絵も描くマンガ家ってすごいと思いました。
最後に誤字脱字を報告してくださるとうれしいです。
そして、ギフトを下さった方。本当にありがとうございますm(_ _)m
※セイジュの立ち絵
https://kakuyomu.jp/users/nezaki-take6/news/16818093088341440800
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます