第2話 ジプシールの謎の少女
転移の魔法によりクロキは再びジプシールの地へとやって来る。
ここに来るのは久しぶりであった。
何度かここに来ようとは思っていたのだが、他にやる事が多かったので、来れなかったのだ。
クーナは付いて来たがったが、たまにはリウキの相手をするようにと言っておいて来た。
クーナは実の子なのにリウキにあまり構おうとしない。
まるで興味がないみたいだ。
何度も様子を見に行っているクロキとは大違いである。
だから、たまには相手をするべきであった。
ちなみにグロリアスはその巨体から転移門に入るのが難しいので連れて来る事ができなかった。
クロキは周囲を見る。
以前来た場所と同じだ。
ジプシールにあるプタハ王国、その魔術師協会支部である。
一応来ることは伝えたが、時間的に出迎えはないだろう。
なぜなら、直接ジプシールの神々の住まう黄金の都アルナックまで転移する事はできない。
セクメトラとトトナはアルナックにいるはずだからと言われたので、そこまで行かなければならないだろう。
「さて、ここからアルナックまで行かなきゃいけないのか……」
クロキは移動する事にする。
そして、転移の魔法陣がある部屋を出ようとした時だった。
一人の少女が部屋の入口に立っているのに気付く。
ジプシールには様々な種族が住んでいるが、立っているのは人間の女の子のようである。
魔術師のローブを着ているので魔術師なのだろう。
かなり幼く見えるので、魔導師の子どもなのかもしれない。
少女はじっとクロキを見上げている。
クロキは少女を見る。
澄んだ瞳をしていて、かなり綺麗な子だ。
トトナと同じ髪色をしていて、どこか似ている。
「ごめん。通してくれるかな?」
クロキは腰を曲げてお願いする。
少女は真ん中に立っている。
入り口は大きいから避けて出る事は可能だ。
しかし、このまま素通りするのも気が引けたのであえて声をかける事にする。
少女は何も言わず横に体を移動させる。
「ありがとう」
クロキは少女にお礼を言うとそのまま部屋を出て横を通りすぎようとする。
「ん?」
クロキは下を見る。
先程の少女がクロキの服を掴んでいる。
「ええと、何かな?」
クロキは身を屈めて少女の顔を見る。
「手」
少女は服から手を離し、そのまま、掴んでいた手を差しだす。
(何だろう? 手を握って欲しいのかな)
クロキはそう思い、少女の手を取る。
「これで良い?」
「うん。一緒に行く……」
少女は小さな声で言うと、そのままクロキを引っ張るように歩き出す。
(喋る事ができないわけじゃないみたいだな……。でも、一緒に行くってどういう事だろう?)
引っ張られながらクロキは首を傾げる。
少女は魔術師協会ジプシール支部の建物の廊下をそのまま歩く。
廊下には多くの魔術を学ぶ学生達がいて、クロキと少女を見る。
注目されているのを感じる。
クロキは普通の旅人の服だが、場所は魔術師協会だ。
魔術師のローブを着ていない者が歩いていたら注目を浴びるのは当然である。
少女も学生にしては幼い。
だが、多くの種族が住むジプシールだ。
成人しても人間の子どものように小さい種族もいるので、ローブを着る少女は特に注目されていない。
そんな時だった。
目の前に猫人の女性が立ちはだかる。
猫女は魔術師のローブを着ている所から、魔術師だろう。
その猫女の視線は少女に向けられている。
「姫様!? 何をしているのですか? うん、そちらの方は?」
猫女はクロキに不審者を見るような視線を向ける。
「ええと、自分はその……。そうだ、ケプラー殿はいらっしゃいますか? 会いに来たのですが」
クロキは何と言って良いかわからず、ここの支部長であるケプラーに助けを求める事にする。
黄金の賢者ケプラーは魔術師協会ジプシール協会支部の長であり、過去にクロキに色々と便宜を図ってくれた。
彼ならばクロキの助けになってくれるだろう。
「ケプラー様はサリアに行かれていて、不在ですが」
猫女は眉を顰めて言う。
魔術都市サリアは魔術師協会の本部がある場所だ。
どうやら不在らしい。
「ええと、そうなのですか……。ええと」
クロキは何と答えて良いかわからなくなる。
「ところで貴方は誰なのですか? どうして姫様と手を繋いでいるのですか?」
猫女はきつい口調で言う。
「それは、この子が手を繋いで欲しいみたいだったからで……。ええと……。あの、そろそろ手を離しても良いかな? 君を探している人が来ているみたいだし」
「や!!」
クロキは少女に言うが、少女は首を振って手を離さない。
無理やり引きはがす事もできるが、出来ればそれはしたくない。
「困ったな……。アルナックに行かなくちゃいけないのに」
「一緒に行く。バスタ。アルナックに行く用意して」
猫女の態度を無視して少女が言う。
この猫女はバスタという名前らしい。
バスタは少女の言葉を聞くと困った顔をする。
「ア、アルナックにですか? しかし、姫様……。勝手に行かれますと、その……。それにそこの不審な者も一緒にとなると」
バスタがそう言った時だった。
少女はものすごく不機嫌そうな様子をみせる。
「むううう」
少女は下から見上げるようにして唸る。
クロキを不審者と言った事にかなり怒っているようだ。
だが、その怒り方は可愛らしい。
「うう、わかりましたよ、姫様……。」
バスタは少女に睨まれ了承する。
どうやら、立場的にこの少女の方が強いようだ。
もっとも、姫様と呼ばれているので、簡単に推測できることであった。
(この子は何者なんだろう?)
クロキは不思議に思う。
トトナに似ている小さな女の子。
高い身分なようだが、謎の存在である。
「行こ」
少女はクロキを引っ張る。
クロキは少女に手を引かれ歩くのだった。
◆
(どうしてこうなった?)
クロキは膝の上にいる少女を見てそう思う。
クロキ達は
魔術師協会の導師でも簡単に使用は許されるはずはない。
もちろんトトナやケプラーなら使用を許されるだろう
そんな
クロキはこの少女の正体が気になる。
雨がほとんど降らないジプシールの砂漠には太陽の光が強く降り注いでいる。
しかし、乗っている
定員は10名程なので、余裕がある。
ドワーフはともかく少女とバスタまでが一緒にアルナックに向かうつもりのようだ。
結局この少女の正体を聞けずにいる。
少女は口数が少なく、自身の事を語らない。
バスタはクロキを不審者だと思っているので、質問に答えてくれないだろう。
そのため、少女の身元がわからないまま先へと進んでいる。
そんな時だった。
少女が急に立ち上がる。
そして、ある一点を指さす。
何かが空を飛んでいて、こちらに近づいて来る。
「あれは? キマイラ? 誰か乗っている? もしかして、トトナ?」
近づいているのは複数の獣の頭を持つ魔獣キマイラである。
その背に誰かが乗っている。
魔術師の帽子を被った者であるトトナに間違いなかった。
「えっ、トトナ様を呼び捨て? 貴方? 何者なんです?」
側で聞いていたバスタが驚きの声を出す。
トトナは神族であり、高位の存在だ。
バスタからしたら敬う対象であり、呼び捨ては許されない。
それを呼び捨てしたら驚くだろう。
クロキ達は
キマイラが
乗っているのは思った通りトトナだ。
「母様!!」
少女が声を出すとトトナに向かって駆けだす。
(えっ!? 母様!? どういう事?)
クロキは少女がトトナを母と呼んだことに驚く。
目の前で少女とトトナが抱き合う。
クロキは驚く感情を隠せないままトトナ達に近づく。
「セイジュ。貴方も一緒に来ていたのね。良い子にしてた?」
トトナは少女をセイジュと呼び、優しく微笑む。
すると少女は頷く。
「ええと……、トトナ。久しぶり……」
クロキはトトナに笑いかける。
だが、その笑顔は自身でもひきつっているのがわかる。
色々と聞きたい事があった。
「久しぶり、クロキ。もっと早く言ってくれたら、魔術師協会で待っていたのに……」
トトナは少女を抱っこしたままクロキに笑いかける。
伝えてから来るまでの時間が短かったのでトトナは魔術師協会で待っている事ができず、急いで向かって来たようであった。
「うん、ところでその子は……。その……、一緒にいたけど名前もまだ聞いてないのだけど」
クロキはおそるおそる訊ねる。
「えっ、そうなの? セイジュ、貴方まだ名前も言っていないの?」
トトナが言うと少女は頷く。
その様子にトトナは何かを察する。
「そう、改めて紹介するわね、クロキ。この子はセイジュ。改めて御父様に挨拶しなさい、セイジュ」
トトナはそう言うと、少女を砂の上に降ろす。
(えっ? 御父様? えっ、えっ、ええええええええええ!!!!!????)
クロキは混乱する。
そして、以前にジプシールに来た時の事を思い出す。
身に覚えがあった。
「セイジュです。父様……」
少女はそう言ってクロキを見上げる。
その瞳はとても澄んでいた。
クロキは驚きのあまり口を大きく開くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
昨日は更新できず申し訳ないです。
日曜の朝から頭が痛く、執筆が出来ませんでした。
薬を飲んで一晩寝たら回復して執筆を再開。ようやく更新です。
次回は再びアルナック。いつ西大陸に行くんだよ。
さて、今回ですがようやくトトナの娘セイジュを出す事ができました。
漢字で星樹。
立ち絵もAIイラストで製作中です、近日中に公開できたら良いなと思っています。
そのうち、紹介です。
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