第16章 紅蓮の炎竜王

第1話 五色の竜王

 ドラゴンはこの世界で最強クラスの生物である。

 その強さは各地に伝説となっており、語り継がれる。

 特に竜族の頂点に位置する五色の竜王は神族と同等の存在とされている。


 黄金の神竜王ラードゥン。

 白銀の聖竜王フフル。

 漆黒の魔竜王ヴァルトラー。

 紺碧の海竜王ヤーム。

 そして、紅蓮の炎竜王イツァムトリポカ。


 以上が五色の竜王だ。

 それぞれの竜王は世界の各地に散らばって住んでいる。

 竜王はそれぞれ性格が違い、互いに争う事もある。

 特に紅蓮の炎竜王は気性が荒く、他の竜王や多くの神々と敵対関係にある。

 過去に激しく争い、結果紅蓮の炎竜王は深く傷つき、西大陸中央部にあるアソテカ山の火口の中に逃れ、眠りについたとされている。

 その紅蓮の炎竜王が目覚めた事で騒ぎになっているのであった。



「まさか、あ奴が目覚めるとはな……」


 モデスが溜息を吐く。

 緊急事態が起きて、ディアドナは自身の本拠地であるニルカナイへと急ぎ戻った。

 そのため盟約を結ぶのは一時中断となった。

 思ってもみなかった事が起きたのでクロキも驚きである。


「そんなに紅蓮の炎竜王が目覚めた事は事件なのですか?」 


 何も知らないクロキが疑問を口にする。

 謁見の間から部屋を移動しており、相談するために今ここにはクロキとモデスとルーガスしかいない。

 クロキは兜を脇に抱え両者を見る。


「うむ、あやつは他の竜王に比べて気性が荒くてな。過去にはディアドナ達と戦争をしておる。その時に敗れ傷ついて自身の住処で眠りについておったのだ。それが目覚めたという事は再び戦争が始めるかもしれん」


 モデスは首を振って言う。

 過去に紅蓮の炎竜王はディアドナ等の神々と戦った事があり、互いに大きな傷を負って休戦状態になった。

 紅蓮の炎竜王はその時の傷が元で長い間眠っていて、今日まで静かであったのである。

 再び目覚めたという事は争いが再び始まる可能性がある。


「今西大陸近辺ではかなり騒ぎになっているようですな。色々な所から情報が入って来ております」


 ルーガスが言う。

 紅蓮の炎竜王は多くの者を敵に回している。

 蛇の女王ディアドナ。

 ジャガーの女神プルケア

 そして、同じ竜王である紺碧の海竜王。

 また、モデスとも過去には争っていたらしかった。


「そんなに敵が多いのですね……。それら全員が協力して対応したら、いくら紅蓮の炎竜王でも敵わないでしょう」


 クロキは首を傾げて言う。

 

「同時に相手をすればそうだろうな。だが、紺碧の海竜王は眠りについておる。また、ディアドナとプルケアは特に仲が良いわけではない。単独で打ち破れるほど竜王は甘くないだろう」


 モデスは説明する。

 紅蓮の炎竜王はかなり強い。

 あのディアドナでも一騎打ちなら負ける。

 そんな相手だ。

 暴れまわれば西大陸は炎に包まれるだろう。


「それほどの相手なのですか……。これは大変ですね」

「そうだぞ、クロキ。そして、ディアドナはこのモデスに救援を申し込んできおった。盟約を結んだわけではないが……。一応様子見も兼ねて誰かを派遣をしようと思っている」


 モデスは悩む様子を見せる。

 新たな冥王ザシュススに対抗したようにこの世界の荒廃をモデスは望まない。

 紅蓮の炎竜王が世界の全てを焼くのなら対抗するべきと考えている。

 だから、誰かを派遣して様子を見るつもりのようだ。


「ああ、そういえばジプシールからも連絡が来ておりますな。出来れば手を貸して欲しいと……」


 ルーガスがモデスに報告する。


「ほう、ジプシールからか? そういえばセクメトラとプルケアは義姉妹の間柄だったな。助けを出すつもりなのかもしれんな。そして、このモデスにも救援とはな……、ふむ」


 モデスは思い出したように言う。

 ジャガーの女神プルケアは紅蓮の炎竜王と同じ西大陸を拠点としている。

 紅蓮の炎竜王が目覚めたら一番最初に戦う事になるのはプルケアだろう。

 セクメトラは彼女を助けるために援軍を送るつもりなのかもしれない。

 そして、義姉妹のためにモデスにも救援を要請したようだ。


「はい、それとこれはクロキ殿にですが、トトナが来て欲しいそうです。今トトナはジプシールにいます。今回の件でプルケアに味方するようですな。どうしましょうか?」


 ルーガスが言う。

 トトナは最近エリオスにおらず、ジプシールに入り浸っているらしい。

 そして、セクメトラの要請で彼女からプルケアに味方して欲しいとお願いをしてきたのだ。


「そうですか……。トトナの頼みなら聞いてあげたいです。わかりました、誰かが行かなければならないのなら、自分が西大陸に行きましょう」


 クロキは髪を掻きながら言う。

 トトナとは浅からぬ縁がある。

 それを無下にはできない。 

 だから、ナルゴルを代表して行く事にする。


(行くのは良いけど、クーナは連れていけないな……。何とか理由を付けて残ってもらおう)


 クーナとトトナの仲は悪い。

 喧嘩をされると困るので置いて行くしかない。

 トトナの頼みで行くとは言い難いので別の理由を探す事にする。


「行ってくれるか? すまないな? だが、無理はするな。紅蓮の炎竜王は手強い。場合によっては戻って来るのだぞ」


 モデスとしては紅蓮の炎竜王が目覚め世界を焼くのを阻止したい。

 最初からクロキに行ってもらいたかったようだ。

 

「はい、無理はしません。やれる範囲でやるだけです」


 クロキは当然のように言う。

 今回は魔王を守る戦いではない。

 完全に援軍だ。

 主力として戦うつもりはない。


「ふふ、やれる範囲でやるですか? それは頼もしいですな、陛下」

「全くだ」


 ルーガスが言うとモデスは笑う。

 どうやら、かなりクロキを高く見ているようだ。

 クロキは苦笑いを浮かべる。

 あまり、期待されても困る。


「はは、それでは行きますね」


 クロキは背を向けると部屋を後にするのだった。

 


 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


新章の始まりです。

ほぼプロローグなので短いです。

そして、ようやく竜王の名前を出せました。

名前の元ネタはわかるかな?

実は紅蓮の炎竜王はあまり良いネーミングではなかったと思っています。

竜やリザードマンの設定は結構考えているんですよね。

今回はそれを出せたら良いなと思っています。


エッセイ等も更新したいですが、今はちょっと難しかったりします。

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