去りし日を思ふ

通行人C「左目が疼く…!」

おもいでのひと


 思い出とは綺麗なものだ。

 本当のことなど大まかなあらすじだけで、細部は脳みそが勝手に脚色してしまうんだから。

 見たくないものはなかったことにして、さっぱり綺麗に消してしまう。

 昔見たドラマみたいなシーンになるんだ。

 それをあの日のことを思い出すたび、実感させられる。

 君のやわらかな白い頬をなぞる涙、その滴がまるで宝石みたいにキラキラ光っちゃって。

 そんなに見事じゃなかった夕日だってこのとおり。鮮やかな赤が去っていく君を飲み込むようだ。

 君の足元から長く伸びた影なんて目に入れてる暇なんてなかった。僕が見ていたのは君の背中だったから。

 でも、ちゃんと記憶してるんだぜ? 笑えるだろ。

 手を伸ばすことだって、名前を呼ぶことだって、僕はできなかった。ただ、伸ばしたいと呼びたいと強く願っただけだ。

 なのに思い出の中の俺はちゃんと手を伸ばしていて、大きな声で君の名前を叫ぶんだ。

 ごうっと風が吹いて君の長い髪をさらって流す。

 結構君は遠いのにその一本一本が鮮明に映るんだ。

 君が振り返る。

 ああ、だから厭なんだ。思い出したくもない。

 結局思い知ることになるだけなのに何度この光景を再生すれば気が済むんだろう。

 誰かが言った。「思い出は美しい」。

 それが偉い人なのか、どこぞの作家だったのか、はたまた誰でもない誰かなのか俺は知らない。

 でも、俺もそう思う。

 身勝手な妄想やイメージなんかを盛り合わせてつなげた絵にできてしまいそうな構図に塗り替えられて、嘘っぱちなものになる。

 そうしてできたものは美しい。現実をなかったことにして見えないままで夢に浸れるから。

 自分の望んだような光景だから。

 こうだったらよかったと後悔したままのストーリーだから。



 振り返った君が笑っていたなんてきっと俺の願望に過ぎない。

  

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去りし日を思ふ 通行人C「左目が疼く…!」 @kitunewarasi

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