第6話 情報屋レイ・アスタロト

俺はアルルが生きていることにとても安堵感を覚えた。アルルが居なかったら間違いなく俺は村人に捕まっていて殺されたであろう。しかし、もうあの村のことを気になっていないと言えば嘘である。それは俺の罪悪感から生じている。一生気がかりになるであろう。だが、自分のした行いはまだ正しいと信じたい。


「すいませんお名前を聞いてもよろしいですか?」


「おう、そうだった。名乗っていなかったな。私の名前はイリナ・ユリアスだ。イリナと呼んでくれ。」


「分かりました。俺の名前はヴィレム・アルクシュタインです。ヴィレムと呼んで下さい。一つ伺っても良いですか?」


「何でも良いぞ。」


「まず、聞きたいのがこの王都のことです。ここは魔王軍に支配されているんでしょうか。」


イリナは少し暗い顔を浮かべたが、すぐにいつものような顔になった。


「支配されているな…。間接統治という方法だ。魔王軍が選んだ人間が支配している。なぜ、そんなことをするのかは影で操っていた方が批判が減らせるからだ。魔王軍が直接統治するより合理的なのだ。」


「じゃあ、この国の暮らしは豊かなのですか?」


「格差社会だ。魔力の高い人は魔王軍に多大な魔力を供給できる。だから、その分暮らし向きも良くなる。

しかし、魔力が全然ない人間は奴隷として過酷な労働を強いられる。」


「魔力のない人間はただの道具なんですね。」


「ああ、そうだ。これが現実だ。」


魔王軍が絶対的権威を持ち、この国を統治している。人間はただの道具で、兎人は魔王軍の食料となる。

食物連鎖の頂点が魔王軍であるわけだ。


「君の職業は一体何なんだ?」


「勇者です…。」


「勇者!それは本当か…?その職業は100年前に魔王軍が廃止した職業だと聞いていたが…。お前は何者だ?証拠はあるのか?」


イリナはひどく慌てていた。勇者が200年前に廃止された職業だと考えるとあの手帳も200年前のものなのか?俺は一体何者なんだ…。

そして、俺はポケットから手帳を取り出し、イリナに見せた。


「この字は確かに、勇者だ…。」


「勇者の職業ってどのようなものでしたか?」


「歴史書を読んで得た知識なのだが、魔王軍との戦争の際に用いられた役職で、戦士がある一定以上の戦功をあげると、その職業が授けられる。」


「じゃあこの手帳は200年前のものであるってことですよね。」


「確かにそうだ…。魔王軍にそれを見つけられたら厄介だ。このことは内密にしよう。」


あからさまに勇者ということを吹聴しなくて良かったと安心した。これが知られてしまってはこの国の魔王軍に狙われることになる。そうなってしまっては袋の鼠だ。


「ヴィレム、お前はこの国に滞在するつもりか?」


「アルルの体調が良くなるまでは滞在するつもりです。でも、お金が無く困っています。」


「そうか、私が良いところを紹介しよう。この国では冒険者がクエストを受注したりするのは原則禁止とされている。公にはな…。この国のスラムで違法にクエストを発行しているものがいる。そこに行けばお前も働けるだろう。ついてこい。」


魔王軍は人間が地下を持つことを恐れているそのように感じた。クエストを公に発行することで人間に蓄財をさせてしまう。つまり、お金や力を人間が持つことは厄介だと考えている。

イリナは部屋を出て階段を降り外へ出た。今日初めて王都の街並みを見た。王都は比較的綺麗で各所には噴水があり、建物はレンガでできていた。人々は笑顔で暮らし、よもやあの魔王軍が統治しているとは思えない。しかし、イリナは大通りの賑わっている通りから外れた小道へ入っていった。

そこでの光景に俺は絶句した。大通りの綺麗な街並みとは打って変わって汚いスラム街であった。

そこには人の子供たちが走り回っていた。

そこの看板にはこう記されていた。


「第3階級地区」


「イリナさん、この看板は?」


「それか…。魔力で人間を階級別に分けている。第5階級地区まであって、第5階級の人間はいわば奴隷で人権は無い。」


「なぜ、人間を階級別に分ける必要があるんですか?」


「人間は下のものがいると無意識に自分の地位に安心するんだ。だから、このように分けることで不満を削いで行く。」


これが第3階級地区か…。第4、第5はどのような環境であるのか考えるとゾッとした。

第3階級地区の通りをずっと行くとそこには少し灯りが付いている店があった。そして、そこにイリナは入っていった。

店の中に入ると黒髪の短髪の男が足を机に放り出し座っていた。


「こんにちは、イリナちゃん。後ろの子は誰かな?」


「相変わらず元気そうだな。レイ・アスタロト。後ろの子はクエストを受注しに来た手練れだ。」


「ふーん。冒険者は魔王軍の政策でかなり減ったが、君みたいな子もいるんだね。僕はクエスト受注屋だ。情報屋と呼ばれているけどね。闇ルートで入ってきたクエストを発行し、この掲示板に貼り付け報酬を支払う。要人の暗殺から、モンスター殺しまで幅は広い。ランク別に分けていないからねぇ、運が悪いと死ぬこともあるから気をつけて。」


そして、俺は掲示板に近づき内容を確認した。

「逃げ出した奴隷の捕縛」

俺はそれが目に入った。なぜかは分からないが本能的にそれを取り、レイに出した。


「君はこのクエストで良いんだね。内容を確認しておくと、ここの国の奴隷迷宮区から2人の女子供が逃げ出した。それを捕まえ、看守に差し出す。

依頼者は国の官僚だ。報酬も12000ランドでかなり高い。君は素直で善人のような顔をしているが、実際は金にがめつい強欲な男なのか?まあ良い、このクエストを始めてもらおう。」


そう言ってレイはニヤリと笑った。

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異世界転生の終焉 すだちレモン @bsk389249

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