第5話 英霊の器
オークは重そうな巨体で俺たちに迫ってくる。しかし、その巨体だけあってかなり動きは鈍い。その隙を突いて、アルルは俊敏な動きでオークの脚を切る。しかし、傷は突いているものの動きは変わらない。その瞬間、棍棒を振り回した。その棍棒は俺に目掛け振り下ろされた。
距離もあったので俺はそれを交わし、オークの懐に入り、胴体を斬りつけた。緑色の血が地面につくが、オークの動きは以前変わらない。
「攻撃が効いてない?」
「このオークただ者じゃないぞ…。」
「倒す方法は?」
「分からない…。こっちの体力が先に底を尽く可能性が高い。」
「それじゃあ…。」
その時、棍棒が地面に大きく叩きつけられた。洞窟内には轟音が鳴り響き、地面に亀裂が入った。オークは目を血走らせながら棍棒を振り回している。その時、頭上から大きな岩が落ちてきた。今の反動で落ちてきたのだろう。しかし、足がすくんで動かない…。
「ヴィレム!」
その途端、アルルが俺に向かって飛び込んできた。そして、俺とアルルは地面に滑り込み、岩を回避したが、目の前にはオークが迫ってきた。そして、アルルは俺を突き飛ばし、棍棒を辛うじて交わしたが、棍棒によって砕け散った岩がアルルの腹部に直撃した。
「うぐっ!」
アルルは腹を抑えながら地面に倒れこんだ。オークはアルルを見てニヤリと笑いった。そして、アルルの服を掴んだ。俺はオークに向かって斬りかかった。しかし、決定的なダメージは与えられない。
「アルルを放せ!」
「おい、人間…。勝手に俺に戦いを挑んで放せだと…。笑わせるな!」
オークは急に言葉を話し始めた。オークから逃げ出そうとするがアルルは必死に抵抗した。そして、オークはアルル壁に投げ飛ばした。アルルは岩壁に激しくぶつかり、意識を失ったまま倒れた。
「アルル!!オーク…。」
俺はオークを睨みつけた。アルルはもう戦えない…。俺がこんな怪物に勝てるのか、無理だ。戦闘に慣れてない俺がこんな奴に勝てるはずがない。
「おい、人間…。俺たちは長く生きているから分かる。お前たちはじつに愚かだ。魔王軍の支配が始まって200年、お前らは打って変わって魔王軍に搾取されることを受け入れ尻尾を振り続ける。そして、魔王軍とは関係ない俺たちオークやゴブリンなどの下等生物に戦いを挑む。笑わせるな!お前たち人間の時代は既に終わったんだよ!」
その時、俺の中に何かが込み上げたように感じた。そして、俺の意識は完全に意識の深淵へと沈んでいった。すると俺の目は緋色に輝き、錆び付いていた剣がみるみるうちに光り輝いていた。
「おい、オーク。お前みたいなカスが調子乗ってんじゃねーよ。人間の時代は終わっただと笑わせるな。」
「雰囲気が変わっただと?お前の緋色の目どっかに見覚えが…。」
俺は剣を突きの形にして構えた。そして、物凄い速さで駆け抜け、オークの腹を貫いた。
「アザゼル流剣術 零の型 神の一閃!」
俺は剣についた血を振り払い、鞘にしまった。
「お前!思い出したぞ!!その緋色の瞳、その剣術!
魔王軍を追い詰めたユートリア騎士団の団長、ガイザル・フリードリヒ!なぜお前がまだ生きて…る…。」
「俺は死んだが、亡霊として生きていてその器をやっと見つけたんだ。しかし、こいつの感情が乱れない限り表には出られないがな…。」
「クソッタレが…。」
「俺もそろそろ交代か…。」
そして、俺の意識は徐々に戻っていった。しかし、目の前の光景を見て絶句した。オークが倒れている…。
俺が倒したのか…。いや違う。でも誰が一体どうやって…。
しかし、そんなことを気にしている場合では無かった。アルルの元にすぐに駆け寄った。アルルはまだ息があった。
「アルル!大丈夫か!返事をしてくれ…。」
「ああ。何とか大丈夫さ…。致命傷を避けたからね。
君が倒したのか…い。」
「喋らないでいい…。ごめん、俺が不甲斐ないばかりで。」
そして、俺は鎖で繋がれている女騎士を解放した。しかし、とても衰弱しきっていた。俺が運べる人数じゃない。どうすれば良いのか、俺は途方に暮れた。
その時、遠くから場所の音が聞こえた。そして、馬車の中からは先に助けた女の騎士が乗っていた。
「遅くなってすまない…。応急処置をしてすぐに馬車の準備をした。流石に軍は動かなかったが…。」
「みんな無事のようです…。後は、頼みま…す。」
そう言って俺は意識を失い倒れた。その後の記憶はあまり覚えていない。
目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。木の木目が目の前には映っていた。しかし、体を動かそうとするとあまり体が動かない。
「起きましたか?本当にありがとうごさまいす!」
その声は女騎士の声であった。その声は少し震えていた。もしも命を失うことがあったらと気にしていたのだろう。
「大丈夫です!アルルは?」
「かなりの深傷でしたが、大丈夫です!」
「良かったー。」
俺は安堵の息を吐き、生きていることを喜んだ。そして、あのオークは一体誰が倒したのか…。俺が倒したのか…。未だに分からないことは多かった。」
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