トランクスの出生の秘密を隠したまま人造人間について話す場面から、作中で書き方が難しい情報の上手い出し方について考察する
ドラゴンボールの中でトランクスが登場した時の話。
トランクスがフリーザを倒し、悟空に人造人間の脅威について話すシーンがあるじゃないですか。
その後トランクスが去り、悟空が皆の元に戻って人造人間について話そうとするわけだけど、悟空はトランクスの秘密を隠したままどう話せばいいのか困ってあたふたしてしまう。
そこで盗み聞きしていたピッコロが出てきて彼が事情を上手く説明して事なきを得ると。
この時代はまだトランクスが生まれていないため、この場面ではトランクスは自分がベジータとブルマの息子であることを絶対に知られてはいけない。
知られてしまうと生まれなくなってしまう可能性があるから。
だからそれを上手く隠して話すよう悟空にお願いしたし、最終的にはピッコロがそれを上手く伝えた。
だけどですよ。
それって実際のところ可能なのか? と思いませんか?
だってトランクスは自分が超サイヤ人になれることを皆に見せたわけです。
つまりサイヤ人であることは全員の中で確定となってしまったわけだ。
正史において、この時代に生き残っている純血のサイヤ人は悟空とベジータのみ。パラレルを入れるとベジータの弟とかブロリーとか、別の銀河系のサイヤ人とか色々いるんだけど、現実的に正史で出てくるのは上記の2人だけなんです。
となると未来から来たというサイヤ人は悟空かベジータの子孫である可能性がほぼ100%なはず。
ほぼ2択なんです。
作中のこの場面で『生き残ったサイヤ人は悟空とベジータだけ』だということに言及したベジータや、それを聞いていた人間はそこに思い至らないわけがない。
なので後はトランクスが『悟空かベジータの子どもか、或いは何代先の子孫なのか』という問題だけになる。
しかしトランクスは『人造人間が現れるのは3年後』だと言った。
つまりトランクスが来た未来は3年後より後の時代になるのがほぼ確定するわけだが。トランクスが自分の年齢を17歳と言ったわけで、トランクスが実は悟空やベジータの隠し子で、この時点で既に生まれているケースを除けば、悟空に子供は悟飯だけでベジータにはこの時点で子供がないから『この時代にトランクスはまだ生まれていない』と確定するため、必然的にトランクスが来た時代は17年後より後の時代である確率が濃厚になる。
が、実際のところはそれでもタイムマシンというチートアイテムがある以上、やりようによっては悟空とベジータ以外のサイヤ人の子孫という可能性も起こり得るわけだが。
(過去に戻って惑星ベジータに行ったとか、ラディッツやナッパの子供をなんとかして作ったとか、タイムマシンがあれば可能な方法は一応それなりにある)
しかしここで重要なのは『起こり得る可能性』ではなく『作中のキャラがどう考えるか』である。
何故ならトランクスが出生の秘密を隠すのは『未来を知ってしまうとベジータとブルマが気まずくなってトランクスが生まれなくなるかもしれないから』であるからで、トランクスの親である可能性が一番濃厚なのがどう考えても『悟空かベジータ、もしくはその子孫』である以上、どう『上手く隠して話した』としてもベジータはトランクスが自分の子供かその子孫ではないかと考えてしまうはずだからだ。
で、人造人間が現れるのが3年後であることを考えてもトランクスが100年後とか1000年後の未来から来たと想像するよりかは数年とか10年20年先とかの直近の未来から来た存在と想像する方が順当だろう。
そして作中の会話から考えても『3年後にZ戦士が人造人間により全滅したこと』はピッコロの口から語られているっぽいし『孫悟空は3年待たず心臓病で死ぬこと』は確実に語られていると。
つまりトランクスの世界線では3年後には悟空とベジータが死んだわけで、もし彼が悟空かベジータの子供であるなら3年以内に出来てなきゃおかしいことになる。
悟空かベジータの子供でないなら後は悟飯の子供か子孫になるが、それはとりあえず置いといて。
後はトランクスが孫悟空にだけ人造人間のことを語ったことも『トランクスは孫悟空の子供ではない』という説を補強する要素となるか。
トランクスがまだ生まれていない孫悟空の子供なら悟空に未来の話をするのはリスキーすぎるからだ。
◆◆◆
とにかく様々な状況証拠を組み合わせると、この時点の悟空とピッコロ以外のZ戦士+ブルマからするとトランクスが超サイヤ人を見せてしまった以上『トランクスはベジータの子供かその子孫』説が濃く見えるはずであると。
で、問題はその状況で『トランクスが誰の子、または誰の子孫なのか』をZ戦士らに意識させないように3年後に人造人間が来ることを伝えることが果たして可能なのだろうか? という話なんです。
ピッコロがどういった言葉で上手くトランクスのことをはぐらかしたのか。
色々と考えてみたんですけど、どう考えても人を納得させられる答えが見付からないんですよね。
特にベジータはかなり疑っていたし、絶対に悟空ベジータ悟飯以外にサイヤ人は生き残ってないと断言していたわけで、ベジータならかなり突っ込んで聞こうとしたはず。
そのベジータを納得させられる答えというモノが思いつかない。
勿論、やろうと思えば誤魔化す方法はあるんだろうけど、その辺りの言い訳内容の設定とか会話とかを考えるのはめっちゃ大変なんだろうと思うわけ。
ではドラゴンボール本編ではその部分をどうやって解消したのか、というと。
『ピッコロはトランクスのことは上手く謎のままにし、全てを皆に話した』
というナレーションで一言入れるだけで解決した、ということ。
上手く誤魔化したんだけど、どうやって誤魔化したかを描写しなかったと。
恐らくだけど鳥山明先生もこの部分の会話とか誤魔化し方の内容を考えるのが大変すぎたんだろうと推測する。
ここを誤魔化す上手い言い訳ってやっぱり難しいし。
◆◆◆
なので結論としては、
『どうやってそれをやったか』を上手く描写出来ないなら、別に詳しく書かなくても『上手くやりました』というのを地の文で書いちゃうだけでいいんじゃないのか? ということなんですよ。
例えばですが、これは会話のシーンなんかでよくあるんですけど。
とある場面で主人公Aと脇役Bというキャラが会話していたとして、作者はBから主人公に対していくつかの情報を伝えさせたいとする。
今回、伝えさせたいのは以下、
①今日の晩ご飯はカレー
②町の近くに野生動物が出没するようになった
③怪しい人影を見た
仮にこの3つだとする。
こういう関連性の薄い複数の情報を1回の会話の中で喋らせる必要があるケースが実は創作物を作っているとちょくちょく発生したりするわけだ。
しかし単純にこれらの3つの話をまとめて出してしまうと、ゲームに出てくるNPCのように何の脈絡もないのに(主人公の選択によって)いきなり別の会話を始めるようなおかしな会話になってしまう。
ちょっとわざとそういう変な会話文を作ってみるが。
―――
A「今日は何を食べるんだ?」
B「カレーだよ」
A「最近、変わったことはないか?」
B「町の近くにイノシシが出るらしい」
A「他に変わったことはある?」
B「森に怪しい人がいたらしいぞ」
―――
こういう感じだと凄く変な会話文になってしまう。
となると違和感のない会話文にするためには話と話の間を接続するためのナニカを考えなきゃいけなくなってしまうわけ。
ちょっと例として会話文を作ってみるが。
―――
B「うち、今夜はカレーなんだよな」
A「へーそうなんだ。じゃあ暗くなる前に早く帰らないとな」
B「あぁ、最近は夜になると町の近くにイノシシが出るらしいし、そういう意味でも早く帰りたいぜ」
A「イノシシが出るのか?」
B「あぁ、森でも怪しいヤツがなんかしてるらしいし。物騒な時代になったよ」
―――
こんな感じに語らせたい内容と別の語らせたい内容の間をスムーズに繋げるために話を展開する筋道を考えなきゃいけない。
でもそれが状況によってはかなり難しかったりするわけなんですよね。
どうしても自然な流れで話を繋げられなくて困ることって少なくない。
だったら、もう単純に、
―――
B「うち、今夜はカレーなんだよな」
A「へーそうなんだ」
そんな他愛もない会話をしている中、Bは夜の町に現れるイノシシの話と、森に出没する怪しい人物の話を教えてくれた。
―――
こんな感じに地の文で語らせたい内容を語ってしまうのもアリなんだろう、という話。
ドラゴンボールの例と同じように、状況によっては作者も『主人公がどうやってそれを成したかよく考えてないから描写はしにくいけど、とにかくやったことにして話を進めたい』という場面があるわけです。
そういう場面も案外『よく分からんけどやりました』と地の文で書いちゃえばOKな場面って意外と多いのではないか、という話ですし。
で、まぁ、読んでる側の人に対しては、それが相当おかしいとかじゃない限り深く突っ込まないでいただけると嬉しいかな……という感じでしょうか。
とある作者の執筆日記 刻一(こくいち) @kokuiti
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