もう見たくない『老人向け俺TUEEE』とパワハラ・セクハラが当たり前だった時代

ここ数年いくつかの動画ストリーミング系サービスと契約してドラマとか映画とか見てるんだけど――

昔って映画とかドラマ見るとなるとレンタルビデオとかテレビとかだったから、その作品がちょっと面白くなさそうでも、とりあえず我慢して最後まで見ようとしてたわけ。レンタルだとお金がもったいないし、テレビだとそれを見なくても他に見れるモノがあるわけじゃないしね。でもストリーミングサービスになってから「あぁ、これちょっとつまらないかも」と思ったら『もういいか……』ってなっちゃって、即切りすることが増えたんですよね。

だって見なくても特に困らないからね。


◆◆◆


子供の頃、夕方にやっていた2時間ドラマの再放送が好きだったんですよね。

この2時間ドラマって基本的にミステリーかサスペンスをやるんで、僕のミステリー好きはここから来てるんだと思うわけだけども――

これを最初は面白くてよく見てたんだけど、そのうちちょっと嫌いな作品もちらほら出てきたわけ。


話は飛ぶけど。

実は2000年前後ぐらいに『キレる17歳』という言葉が流行ったことがあって。これは、この時代は若者による記憶に残る凶悪犯罪が多くあったことでそう呼ばれるようになったんだけど。その影響でこの世代は『理由なき犯罪世代』とマスコミなんかに呼ばれたりして凄く話題になった。

でも実際は統計学的にはこの時代に若者による犯罪が増えたというデータはないので完全に印象で付いただけの悪意のあるレッテルなんだけども。

とにかく、この時代はそういう目立つ犯罪もあって大人が若者のやることをまったく理解出来なくなった時代……だと言われたし『キレる17歳』という言葉の広がりのおかげでそれが凄く顕著に現れてしまい『理解出来ない行為を今の若者は平気でやる』という空気が日本中で形成されてしまったわけ。

でも、今から考えれば50年前でも100年前でも500年前でも「最近の若者は――」と言った老人の言葉は文章で残されているわけで、別にこの世代が特別意味がわからない世代だったわけではなく、いつの時代も老人には若者の言動は理解出来ないだけだし、単純に印象でそうなってしまっただけだと思っている。


話を戻すが。

上記のような流れがあったからか、この時代(もしくはこの時代以降)に作られた作品。特にミステリーやサスペンスって一部の作品にちょっと特徴があると感じるんですよね。

それは『犯人が未成年者、もしくは若者』で『犯行動機は意味不明で理解出来ないモノ』で『それを主人公らが捕まえて熱い説教をかます』というラストで締める展開なんですよ。

犯人の犯行動機は大体『小さな事でキレちゃった』とか『ノリで犯罪を犯した』とか『説教されて殴った』とかで。

それまでのミステリーの犯人って犯行動機は『金目当て』とか『恨みがあって』とか『弱みを握られて脅されたから』とか『どうしようもない事情があって』とかそういったモノだったわけ。

つまり犯罪を犯した犯人には視聴者が理解出来る理由があるモノだったのだけど、それが2000年前後から『若者だから理解不能な理由で犯罪を犯している』というモノに変わってきたと。


別にそこまではいいんだけど……ぶっちゃけ、この系統の作品って言い方悪いけどすんごい老人目線で描かれてるんですよね。

方向性が完全に『年長者が分別のつかない若者を教育してやるんだ!』っていうモノなわけ。

ちょっと思い出した例をあげると。

『熱血のベテラン警官が若い新任警官に口煩く厳しい指導を続けた結果、若い警官がノイローゼのようになってしまい、ふとしたタイミングで思い余ってベテラン警官を殺してしまう』

みたいなオチの話で、最終的に新任警官は主人公であるベテラン刑事に逮捕されるんだけど、ラストで主人公が犯人に説教をかまし、いかにベテラン警官が犯人のことを思って説教してあげていたのかを力説して終わるわけ。


もうね……これ系は見終わると言いようのない不快感に襲われるの。

なんか古い時代の体育会系のノリで、年長者の言う事に従わないヤツはクソだという考え方が透けて見える。

老人向け俺TUEEEというか老人向け感動ポルノというかね。

こういうの、薄ら寒くて見てらんなくなったんですよね。

勿論、殺人という行為を肯定するわけではないし、犯罪を犯した側が確実に悪いのは当然だけど、犯人側にもそうするに至った理由があったわけで、そこに触れずに『年長者のありがたい好意を無下にした若造が全て悪い』という『とにかく若者悪い』結論で終わる系の話はほんとキッツい。


◆◆◆


もう少し深堀りしたいのだけど。

確か日本で体罰が本格的に問題になったのって1990年~ぐらいなんですよね。

それまでも一応禁止されてたらしいけど、体罰による死亡事件とか問題になって学校での体罰をしっかり取り締まるようになっていったような流れだったと思うが。

とにかくそれ以前って学校でも会社でも社会でも『年長者の言う事は絶対』というようなところがあって、理不尽でも年長者の言葉に口答えは駄目だし、言う事を聞かないヤツには鉄拳制裁があってもおかしくないという感じだったと。


それが変わっていって、学校での体罰が明確に禁止だと明言され、社会でも学校現場でも『鉄拳制裁は駄目』という風潮が浸透してきたのが2000年頃。

ここに来てようやく『年長者の言葉でもおかしなモノには従う必要はない』という考え方が浸透してきたと。

鉄拳制裁当たり前の時代から10年でそこまで飛んだってこと。


2024年にリメイク予定の『らんま1/2』を見ると分かりやすいけど。これが連載&放送されたのは80年代から90年代で、作中にはあからさまな鉄拳制裁とかセクハラが描かれてる。

この時代はそういうのが『当たり前とまではいかない』が『年配者の中にはすぐに手が出たりセクハラしてくるヤツが一部にいるし、それはもうしゃーない』ぐらいの認識だったと思うし、でも具体的にそういう人をどうこうする方法もない(ちょっとした暴力とかセクハラでは逮捕も組織内処分もなかった)から作中と同じように最終的には諦めるしかない的な時代だったように思う。


僕が大学生の頃には『セクハラ・パワハラ禁止』というのは大学側がしっかり発信していて『被害にあったら学生課に相談してください』と掲示板に明記していたし、普通の教授はゼミの飲み会開くのにも慎重になってた記憶があるが。確かそれでも女生徒に対するセクハラでクビになってた教授がいたはずで。

つまりそこまで禁止にされても『まぁちょっとお触りするぐらいならええやろ』ぐらいの甘い認識の教授はその時代にはまだいたって話で。それ以前の90年代とかはお察し……という感じではある。


で、00年代に入ってそういう『年長者からの理不尽』は拒否していいという空気になってきて。おかしなことにははっきりとNOと言う時代になってきて。

そして実際にNOと言った若者が『キレる17歳』『理由なき犯罪世代』とかと言われていたのではないの?と思うわけ。

少年犯罪がどうこうってのはキッカケでしかなくて、根底にあったのはそういう流れだったんじゃないか。

『若者は年長者の言う事を聞いて当然』と思ってる年長者がいきなり若者から反論されるようになったわけで、そりゃ上からしたら意味不明だろうなと思うしね。


で、そういう老人らにウケるように、彼らにとって意味不明な口答えしてくる若造にキッチリお灸をすえてやる年配者の主人公。みたいな作られていったのではないか。


◆◆◆


そんなわけで、昔からミステリーとかサスペンスとか好きなんだけど、これ系だと分かった瞬間切るようになったんですよね。


最近ちょっとストリーミングで見てた某ミステリードラマ。最初から若干の違和感があって。

主人公が老人で、登場人物の中の若者が全員ピュアでやる気はあるけど仕事が出来なくて、有能な主人公を盲信していて。この時点で嫌な予感はしてたんだけども。

主人公の余計な言動のせいで大きな問題が起きたのに主人公は反省もしないし周囲も「主人公さんは悪くない!」と言い始めて――この周囲から手放しに賞賛されまくる感じがテンプレ俺TUEEEだと思ったし。その後に『分別のつかない若者を教育してやる!』展開になって萎えてしまった。

後はハーレムでも作ったらもうアレやな……と思ったんですよね。


ミステリーは好きだけど、コレ系だけは嫌いだから見ないようになってたなぁ……って、コレを書きながら改めて考えて気付いた感じです。

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