5限目……ゾンビはなぜひとを食べるのさ

【はじめに】

 講師の屍之山しのやまです。みなさんお久しぶりです。

 寒い日が続きホラー向きの季節とは言えなくなってまいりましたが、学生のみなさんは冬休み、社会人のみなさんは仕事納めと余裕が出てきた今、冬季講習としてゾンビ学を学んではいかがでしょうか。


 今回もゾンビものを見たり作ったりする際にぶつかる様々な疑問に解説していこうと思います。

 しかし、前回お話した通りゾンビの解釈は作品によって大きく異なります。あくまで大まかな流れや傾向の話だと思ってくださいね。



【ゾンビはなぜひとを食べるの?】

 今回扱うこのテーマも記録係に寄せられた質問のひとつです。


 ゾンビといえば、ひとに噛みつき襲うイメージがありますが、その理由とは何なのでしょうか。

 それが無尽蔵の食欲であれば、ひとりの人間を復活の余地がないほど隅々まで食べ尽くすでしょうから、ゾンビ・パンデミッグは起こりにくいような気がしますね。

 また、人間にこだわらず、可食部も多くカロリーの高い牛や馬を食べてもいいはずです。


 話が少々猟奇的になりしたが、実は、この基本的な問題、今までの作品でほとんど触れられていないんです。


 黎明期でまともに理由づけした作品といえるのは、意外ですが『ゾンビ』のパロディ映画でもある『バタリアン』。

 この作品のゾンビは珍しく言語を操るのですが、登場するゾンビの一体、オバンバによって、ゾンビは常に痛みを感じており生きた人間の脳みそを食べることにより、それが和らぐことが明言されます。


 しかし、その後の作品でゾンビがひとを食べることについて着目したものはほぼ出ませんでした。

 さらに、ウィルス性ゾンビが台頭すると、食べるというより、噛み付いて攻撃する、感染させる方が重視されます。

 前回ゾンビの意識についてお話ししましたが、ウィルス性ゾンビは人間が繁殖を望むように、感染者を増やすという意識の元動いているのかもしれませんね。



【ゾンビがひとを食べるようになったのはなぜ?】

 そもそも、講義の初回でお話ししたように元になったブードゥー教のゾンビはひとを食べる存在ではありません。

 食人鬼としてのゾンビのイメージは、受講者ならお馴染みのロメロ監督が吸血鬼などの要素と合わせて作り上げたものです。


 監督作の『ゾンビ』では、ゾンビの大量発生に地獄が満員になったので入りきらない亡者が地上に溢れたと理由づけされています。

 つまり、ゾンビがひとを食べられる→食べられたひとがゾンビになるというより、ゾンビに噛まれる→命を落とす→死者になったが地獄に行けずゾンビになるというプロセスなのですね。


 ロメロ監督はゾンビがひとを襲う様子を使い、ひとがひとを食い合う消費社会・競争社会を象徴したと言います。

 政治・経済学者であるダニエル・ドレズナー氏は自身の著作『ゾンビ襲来 国際政治理論で、その日に備える』で、ゾンビが人肉を渇望する様と資本主義社会の利益分配を結びつけるなどして詳しく関連性を考察しています。

 ゾンビの研究としても、政治経済学の入門書としても面白いので興味のある方は探してみてください。巻末にあるゾンビ風に加工された著者近影だけでも見る価値がありますよ。



【まとめ】

 最近ではゾンビがひとを食べる理由ではなく、食人というタブーに焦点を当てた作品もあります。


 2013年スペインのアテム・クライチェ監督に製作された『ゾンビ・リミット』では、ゾンビ化したひとを定期的な投与により人間に戻せる特効薬が生まれたものの、回復したひとびとは「リターンド」と呼ばれ、ゾンビだった頃の行いによって差別されたり、再発を恐れて敬遠される世界が描かれていました。

 現実での癌サバイバーなどの問題とも関連付けられますね。


 また、昨年2017年に『ゾンビ・パニック』と同じシッチェス国際ファンタスティック映画祭で紹介された『The Cured』でもそういったテーマが扱われているようです。

 こちらの日本公開は未定ですが、ぜひ観たいですね。



 さて、ゾンビはなぜひとを食べるかとい問題は未だ未開の部分です。そのため、自身で創作する際に幅を広げやすくもあります。


 原因を細かく考察したロジカルなSFにするもよし、ロメロ監督の消費社会批判のように食べるという行為に何かを仮託するもよし、食人というタブーに深く切り込んだホラーにするのもよし、オリジナリティの出しどころですね。


 ゾンビの研究は理論立てた考証が多くはありませんが、できるだけみなさんの疑問を解決できるよう、引き続きQ&Aを行っていきます。

 また、紹介してほしいゾンビ映画のリクエストも受けつけていますよ。


 では、講義を終わります。

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脳が腐っててもわかるゾンビ講座 木古おうみ @kipplemaker

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