【ゾンビ映画を観てみよう 】『カメラを止めるな!』
【はじめに】
屍之山「残暑厳しい折いかがお過ごしでしょうか。こう暑いと死体がすぐ腐ってしまいますからゾンビ映画としては都合が悪いですね」
腐胴「地球でそんな心配してんの屍之山さんだけですよ」
屍之山「まあ、生きているひとの心配はたくさんの方がしますので、ひとりくらいは死人の心配をしてもいいのではないでしょうか。さて、今回から始まりました特別講座【ゾンビ映画を観てみよう 】では、名作から今話題のものまで是非受講者の皆さまに見てほしいゾンビ映画を一本ずつ紹介していくというものです。助講師の腐胴さんもお呼びしています」
【『カメラを止めるな!』 ネタバレなし紹介】
屍「では、さっそく今回紹介するのはこのゾンビ映画『カメラを止めるな!』です。皆さまもタイトルは耳にしたことがあるのではないでしょうか」
腐「現在公開中のやつですか」
屍「はい。いわゆるキャストもスタッフもまだ無名の方が多い低予算映画で、公開当初は都内2館のみの上映でしたが、口コミやSNSで話題を集め、現在では予定も含め100館以上での上映となりました。動員数は120万人、興行収入は16億円越えとまさに破竹の勢いですね」
腐「映画館でも連日満席が続いているようですが、ほぼ自主制作映画でそんなんなりますか」
屍「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で観客賞を受賞するなど批評家の間でも評価が高いんですよ。海外ですとウディネ・ファーイースト映画祭でも受賞しています」
腐「ピンク七福神が特集上映やったところですね」
屍「わかる方が少ない上に昼間から話しにくい話題はやめましょう。なぜこの映画が注目を集めているのか、あらすじから紹介していきましょう。山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影中、本当にゾンビが現れてしまい、リアリティを追求する監督は逃げ惑う俳優陣たちの姿をカメラに収めていく37分間……というものですね」
腐「映画評論家の宇多丸氏がファミリー層にもおすすめと言っていましたが、予告だけだとそうは感じませんね。低予算の邦ホラーらしいチープさが目立って、好きな層にはハマるだろうけれど一般の層が喜ぶとは思えないというか。あと結構設定に穴がありませんか」
屍「そうでしょうか?」
腐「『REC』や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』で流行った一人称視点ホラーということですが予告だけでもあきらかに劇中のカメラからは撮れない視点がありますし、さっき37分間って言ってましたがそもそも全編96分って記載が……」
屍「そこまで!そこまでです!」
腐「な、何なんですか」
屍「実はこの映画ネタバレ厳禁なんですよ。口コミも『本当に面白かったけれど、どこが言うとネタバレになるからとにかく劇場に行ってくれ』というものが大半なんですよね」
腐「それで見せるのは詐欺では?」
屍「本当にこれは予備知識なしで見ないと感動が半減してしまいます」
腐「感動があるように見えませんが……」
屍「あるんです。Wikipediaなども見ず、公開時のキャッチコピー『最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。』だけを頭に入れてぜひ実際にご覧ください。ご家族やカップルでも見に行きやすい作品ですのでご安心を。ここから先はネタバレありの解説をしますので、まだ見ていない方は退席して、鑑賞後の方のみ残ってくださいね」
腐「なんて講義だ……」
【 ネタバレあり解説】
屍「それでは、ここからは皆さまが鑑賞済みだという前提で、この作品のゾンビ映画的観点での見どころなどをネタバレありでお話ししていきましょう。実は『カメラを止めるな!』はさらにもうひとつ入れ子構造のある物語なんですよね」
腐「劇中劇の劇という感じですね」
屍「はい。ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビが現れて……という導入で始まる37分間は、実は劇中でリアルタイム配信されている『ワンカット・オブ・ザ・デッド』というゾンビものドラマなんです。残りの時間は劇中の『ワンカット~』が撮られるまでの経緯と、撮影裏では何が起こっていたかという答え合わせになっていく形ですね」
腐「クエンティン・タランティーノや宮藤官九郎がこういうの手法をよくやりますね。あと三谷幸喜の『ザ・マジックアワー』とか」
屍「そういった種明かし的な楽しみ方ができる映画が好きな方は多いですよね。経緯としては、とにかく早く安く仕上げてそこそこの質が売りの映像監督が、全編ワンカットな上に本番生放送という無謀な企画ドラマ『ワンカット・オブ・ザ・デッド』の撮影を持ち掛けられ、一度は断るものの、最近気難しい映像監督を目指す娘にいいところを見せるためOKしてしまう。キャストも環境も問題を抱えつつ、妻子が見守る中本番が始まり、冒頭のシーンにつながるという感じですね」
腐「最初はどうなるかと思いましたよ。演技は微妙だわ、ゾンビのメイクは低レベルだわ、狙ってるにしても何にしても間や展開が悪すぎる部分も多かったですし……。これが流行ってるって集団ヒステリーかよって思いました」
屍「酷いこと言いますね。ですが、前半に持った疑問や違和感はすべて後半で理由がわかるのではないでしょうか」
腐「正直さんざん批評して悪かったなと思いました。壊れたクレーンの代用でスタッフ総出の組体操を思いつくのは、昔娘が父に肩車されたことを覚えていたからだとか、出だしのグダグダが伏線に活かされていましたし。『サマータイムマシン・ブルース 』とか思い出しました」
屍「ギャグの小ネタもそうですし、ヒロインの服装がタンクトップにホットパンツと『ドーン・オブ・ザ・デッド』の主人公のようだったり、若手俳優が訳知り顔でいうストーリーの裏に人種問題がというのはゾンビ映画の祖・ロメロ監督の根底にあるものだったり、ゾンビ映画好きにも嬉しいサービスが多かったですね」
腐「実際いますよね。聞きかじりの知識を訳知り顔で語るシネフィル気取りのクソ若手俳優……」
屍「言葉を慎んでくださいね。後半になってからはゾンビものというより、その裏で起こるドタバタコメディが主要ですね。それから親子の絆の復活というテーマもあります」
腐「田舎でのゾンビ映画撮影を通してひととのつながりを描いた『キツツキと雨』という映画もありますが、ゾンビはやっぱり復活とか再起と相性がいいんですかね」
屍「そうですね。映画監督や俳優のプライドの再起、親子の絆の再起。そして、ただのチープなゾンビ映画として終わるはずだった37分間に、スタッフの努力の結晶として意味を与えて生き返らせるという蘇生の物語ですね」
腐「ワンカットへのこだわりも、人生はいくら間違っても都合よくカットはかけられないから、何とか出せるもの出しきって修正していこうぜっていう意味があるのかもしれませんね」
屍「映画を見終わってから、今度はまた最初から見て答え合わせをしたくなる作品ですので、1回目の半券を持っていくと2回目が割引になる“生き返り割り”がありがたいですね」
【終わりに】
屍「さて、次回からはまた通常のゾンビ講座に戻りたいと思います。ゾンビに関する疑問や紹介してほしいゾンビ映画がありましたらお気軽にどうぞ。『気になっているゾンビ映画があるけれど、はずれだったときが怖いので観てどうだったか教えてほしい』などでも構いませんよ」
腐「そんな地雷犬みたいな……」
屍「では、講義を終わります。お疲れ様でした」
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