ゾンビのQ&Aをしていこうか

4限目……ゾンビの意識ってどうなってるのさ

【はじめに】

 講師の屍之山しのやまです。映画紹介も終わり、講義に戻ってまいりました。

 また私が受講者のみなさんに向けてお話ししていく形になりますが、腐胴さんがいなくて寂しいという意見もいただいていますので、また近いうちに講義で紹介したゾンビものについて紹介するコーナーを設けたいと思います。そのときまでお待ちください。


 今回からはゾンビものを見たり作ったりする際にぶつかる様々な疑問に解説していきます。

 といっても、ゾンビの解釈は作品によって大きく異なります。あくまで大まかな流れや傾向の話だと思ってくださいね。


【ゾンビに意識はあるの?】

 まずは記録係作者に質問が来たこちらですね。意識というと哲学的な問題がたくさん生じてしまうので、簡単に「ひとを襲うという本能以外に感情や理性は働くか」に注目したいと思います。


 まず、基本的なゾンビといえば、視覚や聴覚など何らかの形で人間を見つけ襲いかかります。何かを知覚するという意味での意識は働いているでしょう。生前の行動を無意識に繰り返すなどの設定もありますね。

 しかし、ゾンビは梯子を登れなかったりドアを開けられなかったりと知能は極めて低く、ひとを襲うのも思考してというより反射に近いものです。

 また、ゾンビ化したかつての家族や恋人に襲われるお約束の展開から、人間らしい情も働かないと考えられます。これだけで「ゾンビとして意識はあるがそれは本能のみで、人間の頃の情や理性は働かない。ゾンビとなった故人又は感染者の人格や意識は失われている」と結論づけてもいいのですが、近年そうは言い切れなくなりました。

 ゾンビでも理性や感情を持つ存在が生まれてきたのです。


 個人的に転換期となったのは、映画『アイアムアレジェンド』の原作でもあるリチャード・マシスンのSF小説『地球最後の男』だと思うのですが、ネタバレになってしまうので詳しくは言いません。


 きっかけとして大きかったのは、2限目でも触れたゾンビ映画の祖・ロメロ監督の2005年製作『ランド・オブ・ザ・デッド』 だと思います。

 この作品はパンデミック後、富裕層がゾンビを隔離して貧困層がその処理をするというゾンビを半ば制圧した世界が舞台ですが、後半ゾンビが知能面で成長し、再び人間を脅かします。

 知能が発達したゾンビたちは、今まで渡る術を知らなかった障壁代わりの川など突破しますし、それを指揮するリーダー格のゾンビは仲間が倒されて悲しむなど、知性と共に情動も身につけたような場面があります。


 さらにゾンビの情動面を強調したものですと、2013年のアメリカ映画『ウォーム・ボディーズ』があります。これはゾンビになった青年がある男を捕食したことで、その恋人への恋愛感情を覚え、次第に変わっていくという物語です。

 この映画のゾンビは最初はまだ人間らしい感情や理性が残っており、生者の脳を食べることで記憶を追体験できるなど独自のルールがあります。腐敗が進むほどその作用は失われていくという設定なので、人間らしさを取り戻す過程が描かれる主人公はまだ腐敗が少なく、演じているのが人気俳優ニコラス・ホルトというのもあって見た目は綺麗です。異種間恋愛の話でも見た目がものを言うのは世知辛いですね。


 また、映画だけでなく小説でも注目したいのが2011年のS・G・ブラウン著『ぼくのゾンビ・ライフ』です。この小説は完全にゾンビ視点の一人称小説なんです。知性あるゾンビを扱う際、故人の人格が復活するのか新たな人格が生まれるのかという疑問が生じますね。『ウォーム・ボディーズ』はそれに関してグレーでしたが、こちらは完全にゾンビになる前の人格が連続しています。チャック・パラニュークなどお好きな方はハマる文体だと思いますのでぜひ読んでみてくださいね。


【なぜ知性あるゾンビが生まれたの?】

 近年、ゾンビが知性を持つ作品が増えてきましたがそれはなぜなのでしょうか。藤田直哉氏の『新世紀ゾンビ論』では、昔吸血鬼ものが速記とタイプライターの対比で論じられたことをあげ、ゲームや映画などのメディア媒体がよりクリアに発達したことで綺麗で賢いゾンビが生まれたと考察されていました。


 これは完全に私個人の考えなのですが、知性あるゾンビが生まれたのは脳科学や心理学の発達があるのではないかなと思います。例えば、脳死などの概念が生まれ以前なら完全に死人とされていたひとも生死の境が曖昧になったり、ひとによって脳のある部分の働きが弱かったりなかったりなどがわかるようになりました。哲学的ゾンビ ではありませんが「生者は意識がある、死者は意識がない」という単純な二項対立が難しくなったのかなと思います。


 また、ロメロ監督が現れたゾンビ映画黎明期の70年代辺りにSF界隈で「ニューウェーブ」というジャンルが生まれました。それは一般的にイメージする宇宙や冒険と言ったSFではなく、人間の意識などに目を向けた哲学的なものでした。機械に感情があるか、人間は機械とどこまで違うかを扱った『ブレードランナー』やその原作などがわかりやすいでしょうか。

 そういったSFと共にあったことも、後々人間らしいゾンビが生まれるきっかけになったかと思います。

 意識や感情を扱ったSFですと、伊藤計劃と円城塔の共著『屍者の帝国』などがあります。ゾンビと言っていいかわかりませんが、フランケンシュタインの技術が一般化された世界が舞台です。詳しく話すとこれもネタバレになるので気になる方は確かめてくださいね。


 ゾンビの意識の話をしてきましたが、最初に言ったように作品ごとに解釈は大きく分かれるので正解はありません。逆にセオリーが少ないので自由に発展させて創作しやすいかもしれませんね。

 次回もゾンビに関するQ&Aを行なっていこうと思います。受講者のみなさんからの質問も受け付けていますよ。

 では、講義を終わります。お疲れ様でした。

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