私メリーさん……今、身動き取れないの……

ちびまるフォイ

電話ひとつですんじゃう危険性

「うぅぅ……私メリーさん……、今部屋に監禁されてるの……」


「カカカ。男の部屋に丸腰で足を踏み入れるなど

 ライオンの折の中に生肉を放り込むのと同じだ」


「ひどい! 私はライオンじゃないわ!」

「そっちじゃなくて」


メリーさんの両腕は後ろに回されて幽霊結束バンドで固定されている。

男の手慣れた動きから、計画通りの犯行だろう。


「私をどうするつもり!?

 言っておくけど、身代金なんて要求しても意味ないから!

 私幽霊だもの!! 幽霊だもの!!」


「みつをみたいに言っても無駄だ。

 最初から金目当てじゃないさ」


「それじゃあ、私の体を売って、お金を儲けるつもりね!!」


「だから金じゃねぇって」


「それじゃ、私との同棲生活で日常に潤いを与えて

 毎日仕事をバリバリしまくって、お金を稼ぐのね!!」


「お前、自分の考え曲げないタイプだな」


メリーさんは子供ながらに必死に頭を回した。

ここからどうにか出る方法はないものか。


「あ、あのっ、お花を摘みに行っても?」


「なんだ? トイレか? 幽霊なのに」


「幽霊でもトイレくらいいくわよ!!」


「しょうがねぇな」


幽霊結束バンドがとかれ、メリーさんはトイレに入る。

鍵を閉めたことを確認すると、こっそり拾ったスマホを開く。


「ふふふ、さっき部屋に置いてあったのを拾ってよかった。

 これでどこかに電話すれば、瞬間移動できる」


メリーさんはトイレの中から電話をかけた。


「もしもし、私メリーさん。

 今からあなたの家にいくの……」


『 留守番電話サービスにつなげます 』


「も、もしもし? 私メリーさん……」


『 ブッ。ツーツーツー 』


「もしもし!? お願い! メリーさんなんだけど!?」


『 電源が切られているか、電波の届かない―― 』


方々に電話をかけても何一つつながらない。

そうこうしていると、トイレのドアが開けられてしまった。

鍵なんて見せかけだったらしい。


「カカカ。つながらないようだな」


「どうしてそれを!? まさか、わざと渡したの!?」


「いまどき、非通知の電話に出る人間がいると思うか?」


「そんな……」


「いまや、スマホのアプリで会話もできれば

 クレジット払いもできる近未来なんだ。

 黒電話時代に怖がらせた怪談も今じゃ形無しなのさ」


「ひどい! それ以上貞子の悪口を言わないで!!」


「ことさらに自分へのダメ出しをかわすのな」


絶望するメリーさんと、にやける誘拐犯。

そのとき、非通知の電話がかかってきた。


「なんだ? さっきの電話のリダイヤルか? ったく、もしもし?」


『……』


「おい、電話かけておいて無言ってなんだよ」


『私メリーさん……の姉。今、駅にいるの』


「お姉さま!?」


メリーさんは思わず声を出してしまった。


『メリー妹、そこにいるのね……今から行くわ……』


「ダメよお姉さま! こっちへ来ちゃダメ!

 お姉さまもつかまってしまうわ!!」


『私メリー姉。今、あなたの家の前にいるの……』


徐々に近づいてくるメリー姉に誘拐犯は再び準備をはじめる。


「カカカ、上等だ。姉妹まとめて捕まえてやる」


犯人は身構えていると、ふたたび電話がかかってきた。



『わし、メリー叔父。今、近くのスタバにおるの』



「叔父!?」



『僕はメリー兄、今近くのコンビニにいるの』

『私はメリー母よ、今、あなたのマンションの前にいるの』

『あたちメリー姪。いま、あなたのおうちのまえにきたよ』

『俺はメリーはとこ。今、上空のヘリにいるの』

『あたしはメリー祖母。今、高速道路にいるの』

『أنا ماري، أنت الآن على جهاز الكمبيوتر الخاص بك』


その後も電話はひっきりなしになり続ける。


「くそ! お前の家族どれだけいるんだよ!?」


「私の噂を世界規模で広げられるくらいには……」


「多すぎだろ!!」


ついにメリー家族と関係者が全部マンションの一室へとやってきた。



「「「 私たち、メリーさん。今、あなたの部屋にいるの 」」」



部屋は東京の満員電車を思わせるぎゅうぎゅう詰めになった。

それでも誘拐犯はあきらめない。


「お前ら、部屋いっぱいになれば、耐えきれなくなって

 俺が逃げ出すとでも思っているんだろう? だがムダだ。

 この程度で諦める俺じゃない!」



「私、メリーさん……」



「ムダだ!! どれだけ人数を増やしたところで、俺は逃がさない!!」






「私、メリーさん。今、あなたのスマホで人数分の出前を取ったの……」



誘拐犯は慌てて部屋を飛び出し戻ってくることはなかった。

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