解説・用語集(下)

 本編に書ききれなかった用語の解説です。『第9話 着工と位置出し』から『エピローグ 先人の論文』までを載せます。


『第9話 着工と位置出し』


○位置出し

 現場に建物の位置を出す作業のことですが、建物の外周線から作業スペースを加えた余掘り分を地面に表します。スプレー缶で地面に掘削範囲を描き掘っていきますが、転移先の世界では化学塗料のスプレー缶がないため、先に木杭を打って掘削範囲を示しました。


○三四五法

 辺の比が3:4:5の三角形は3と4の間の角度が90度になります。それを利用した測量方法ですが、これは大昔の日本でも建物の直角を出す際などに使われていた手法です。


『第11話 配筋工事と型枠工事』


○道板

 足場板のことです。土工事の他、屋内の工事で足場を組むほどではないが高所の作業が発生するような、例えば壁紙を貼る工事などで、2つの脚立に架けて使われたりもします。

 転移先の世界で使っているものは木製なので、幅は20センチほどで厚みが3・5センチほどです。それに土砂やコンクリートを積んだ一輪車の車輪を走らせています。


○鉄筋補足

 鉄筋はその役割によって太さなど多種になります。一番太いのは主筋と言って、柱や梁の四隅に設置される鉄筋です。柱や梁の断面積が広い場合は主筋の四隅を外周として増えていきます。

 柱の場合は、主筋の周りを主筋より細い鉄筋が回ります。これをフープ筋と言って一定間隔で組み上がっていきます。

 一方、梁の主筋の周りにはあばら筋と言う鉄筋が巻かれていきます。これは四足動物のあばら骨の形に見えることからそう呼ばれます。


○鉄筋コンクリート補足

 コンクリートは圧縮力に強く、引張り力に弱いです。例えば、コンクリートの梁の上に荷重をかけたとすると、下に弧を描く様にたわみます。上面は圧縮されるので強度を発揮しますが、下面は引っ張られるのでひび割れが生じやすくなります。

 一方、鉄筋は引張り力に強いです。よってコンクリートの中に鉄筋を埋めることでひび割れを起こそうとするコンクリートを助けます。これで粘り強く圧縮強度のある鉄筋コンクリートが形成されます。


○重ね継手(かさねつぎて)

 鉄筋は現場でまず間違いなく仕入れた長さより更に長いものが必要になります。そのために継ぐわけですが、日本でその基準は工事標準仕様書に記されています。重ね継手の重ねる長さの他、溶接継手や圧接継手の技術的基準などです。


○スペーサー

 かぶり厚さを確保するための円形プラスチックの捨て建材です。円の中心を鉄筋にはめ込み、型枠表面との距離を確保します。

 その他、サイコロと言ってコンクリート製のキューブ体もあります。これは基礎の一番の下の鉄筋を持ち上げて、基礎下面の鉄筋のかぶり厚さを確保するものです。


『第12話 配管工事』


○バイブレーター

 コンクリートを型枠内で満遍なく充填させるための道具です。硬化前のコンクリートの中で振るわすことで、コンクリートが沈みうまく充填されます。但し、なるべく鉄筋には当てないように施工します。鉄筋がバイブレーターの振動で振るえるとコンクリートとの付着が弱まります。


○丸太足場

 丸太材で組まれた足場です。鉄線を巻き付けて緊結します。道板を設置しない場合もありますし、揺れます。尤も躯体に固定するので揺れても崩れないように施工された仮設物となります。

 丸太足場の他、現代日本には単管足場がありますが、これは鋼材の単管で道板も鋼製です。住宅建築などで普及しています。安定感を求めるなら枠組み足場で、こちらも鋼管を用いたものになりますが、工場でユニット制作されたものになります。ただ幅をとるため、敷地に余裕がない場合は使用できません。


○施工図

 設計士が描く設計図に対して、現場監督が描くのが施工図です。社会人1年目の現場監督見習い時期などは、経験のある現場監督に付いて、この施工図から覚える技術者も多いです。

 設計図は見下げ図と言いますが、平面図で言うと、とある高さで切って見下げる図面になるため、上部に現れる線が優先となります。例えば床下に隠れる造作物は点線で表記したりなど。

 一方、施工図は見上げ図となりますが、下部に現れる線が優先となります。例えば基礎伏図では底盤が実線でその上にある地中梁が点線などです。

 また、設計図の平面図なら壁の躯体があって、胴縁などの下地材があって、その表面にプラスターボードと壁紙が出てきますので、この仕上げ面を壁の厚さとして描きます。

 それに対して施工図はコンクリートの表面を描くため、立面図の窓なら窓枠ではなく、コンクリート躯体が開口する線を描きます。これは現場監督や職人が墨出しをするためなどですね。


○スラブ

 水平のコンクリート面のことです。各階の床や持ち出したベランダなども該当します。因みに、鉄骨造でも床に鋼材のデッキを敷き、そこにコンクリートを打設するのでスラブと呼ばれます。


『第16話 外装工事と建具工事』


○外装について

 磁気質や陶器質のタイルが長持ちしますので、メンテナンス性に優れています。伸縮目地であるシリコンは劣化でひび割れを起こすので、これについては早目の対処が必要です。これに対して吹き付け塗装の外装もありますが、塗り替えの頻度が高いのでメンテナンス性はタイルと比べると落ちます。ただ安価です。


○目地

 タイルとタイルの間の溝のことです。


○湿式工法

 建材や建造物問わず、コンクリートやモルタルで固定して施工する方法です。接合が剛になるため可変性がありません。また、取り外しに難ありです。しかし密に、そして強固に固定できます。窓で言うとモルタル固定、壁で言うとコンクリート壁です。


○乾式工法

 建材や建造物問わず、コンクリートやモルタルを使用せずに組み立てていく工法です。可変性があり、取り外しや取り壊しが用意です。窓で言うと、鉄骨超高層建築物のガラス張りが一例です。上部は風や地震で大きく揺れるので剛接合にせず、水密性の建材で支えます。壁で言うところの木製下地や軽量鉄骨下地のプラスターボード貼りです。


○アンカー

 部材を躯体に固定する鋼製の建材です。


『第18話 断熱工事と衛生設備』


○胴縁(どうぶち)

 壁となるプラスターボードやベニヤ板は直接コンクリートの壁にビス留めないし釘打ちができないので、その下地となる胴縁を施工します。胴縁は縦横の種類がありますが、その隙間に断熱材を施工できるためその効果もあります。


○高置水槽(こうちすいそう)

 屋上などにある水のタンクのことです。今回本作では屋上に酒樽を造り、それを高置水槽としました。日本では電力のポンプで汲み上げることが多いです。

 また、日本のマンションなどでは地上の屋外に貯水槽を置いてあることもあります。但し、こちらは溜めた水を最上階に電力ポンプで上げてから各部屋に給水するので、停電時はもれなく断水もついてきます。高置水槽の場合は、タンク内の水が空になるまでは断水にはなりません。


『第20話 内装工事と照明器具』


○石膏ボードとベニヤ板について

 石膏ボードはプラスターボードとも言います。壁材や天井材にする場合、石膏ボードはビス留めをします。一方、ベニヤ板は釘打ちが多いです。


○3路スイッチ

 A地点とB地点どちらからもオン・オフができるスイッチです。追っかけスイッチとも言います。


『第23話 工作物着工』


○建築物

 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの、これに付属する門若しくは塀(建築基準法2条一号抜粋)


○工作物の指定(確認済証の交付が必要な工作物)

 高さが2mを超える擁壁(建築基準法施行令138条三号抜粋)

 高さが8mを超える高架水槽、サイロ、物見塔(同条同令四号抜粋)


 つまり擁壁は一定規模で確認済証が必要な工作物です。塀は建物に付属していれば建築物ですが、そうでなければ独立して確認済証の交付が必要な建造物というわけではないんですね。

 擁壁はその役目が建物を建てる前提の土留めにあり、その建物の地耐力を確保するための高低差処理だから審査されるわけです。


注)本作での物見塔はあくまでトモの見解のため、確認申請を提出する先の建築主事によっては見解が異なる場合があります。


『第25話 工作物竣工』


○片持ち梁

 柱や壁など片側から支えられ突き出した梁です。木造建築で持ち出したベランダなども床下にこの梁があります。


 以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

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