あとがき ~補足~
解説・用語集(上)
本編に書ききれなかった用語の解説です。『プロローグ 逃避行』から『第8話 資材調査』までを載せます。
『全般』
○建材
「建築材料」の略称です。
○モルタル
簡単に言うと、コンクリートから砕石を除いた建材です。
○砕石(さいせき)
コンクリートの骨材などに使われる、栗石や岩石などを砕いて、2~5センチ程度にしたものです。基礎下の地固めにも使われます。
『プロローグ 逃避行』
○一級建築士
一般的に一級建築士の受験は大学の指定課程を卒業後2年の実務経験を経て受験できるのが最短です。よって、大卒3年目に受験、その年度末に登録が最年少一級建築士となります。
その他、2年の専門課程(専門学校)を卒業後4年の実務経験を経て受験など、ルートは複数あります。
○談合
公共工事の発注に対して公的機関より指名された業者が結託して受注する業者を決めることです。
業者としては持ち回りで受注が得られるため仕事が安定し、入札価格の口裏を合わせているので大きな赤字になるような工事が少ないというメリットがあります。業者の言い分は談合によって品質の安定した工事ができるというもの(必要悪)ですが、あくまで違法です。
本作では設計部長のため厳密に言うと「公共工事」ではなく、「公共工事の設計委託」の位置づけです。
○組積造(そせきぞう)
石を積み上げた建築様式です。コンクリートブロック塀もこれに該当します。石と石をモルタルや固まる粘土質の土などで接着させ、積み上げていきます。
継ぎ目に鉄筋が入っている組積造もあれば鉄筋が入っていない無筋コンクリートブロック造などもあります。無筋の場合は地震で崩れたりするので、国内の大型地震では度々問題になっています。
本作では建物のため、石を積み上げた建築様式の方を指しています。
『第3話 請負と入寮』
○ササラ桁
階段の踏み板(段板)を支える登り桁のことで、下階の床から上階の床梁に斜めに架かっています。稀に片面だけの場合もありますが、左右両面にある方が多数派で安価です。刻み目の上に段板を乗せて下から支えるのが一般的ですが、本作の寮はササラ桁に溝を掘って踏み板を差し込む手法としております。
○木造建築の階段について
階段は、例えば方眼紙のマス目に合わせて間取りを計画した場合、直階段なら1マス(一般的に3尺or1メーターの正方形)につき4分割して1枚の踏み板を計画します。すると、最上段と廊下の境がその方眼の線上にきます。しかしそこには梁が架かり、その梁には厚みがあります。それなのでそのまま施工してしまうと最後の踏み板の奥行き寸法が小さくなってしまいます。そのため梁を床が高い方の2階の廊下にずらし、スムーズな仕上がりとなります。
『第4話 現場検証』
○木造建築物について
構造計算をすれば3階建て以上の建物も現代日本では建築確認が下ります。名古屋城の木造復元は1つの事例になるかもしれません。
ただ一般的に構造計算をしても3階建てまでが主流です。本作の転移先では2階建てを限界値としてストーリー設定をしております。
○束基礎(つかきそ)
現代日本の木造建築では、基礎と基礎を地中のコンクリート梁で繋いだ布基礎か、地盤全体にコンクリートが接したベタ基礎が一般的かと思われます。束基礎は1階の床を支えるためにコンクリートの束石を設置して、そこに床下の柱となる束を立てる手法ですが、本作では束石をただの石としております。日本でもかなり古い木造建築の手法です。
○地震、台風、積雪について
建築基準法の構造規定では自然力として、地震力、風圧力、積雪荷重に耐えうる建物にするよう規定されています。その自然三力とも地域によって係数が異なります。今回本作でトモは地震力と風圧力を標準値、積雪荷重は対象地域外と判断しました。
『第5話 敷地測量』
○平板測量放射法
まっ平らな平板(木製やプラスチック製が主流)を水平に据え付け、中心から敷地の角に向かって水平放射状に角度と距離を測定します。それをそのまま縮小して平板の上の紙面に書き込みます。更地に有効で、建物などの障害物がある場合は不可です。その場合は交会法という手法を用いますが、放射法は真ん中1点の基準に対して交会法は障害物を避けるために基準を移動していきますので、最終的に誤差が生じます。
測定できた敷地形状は三斜求積(対角線を引いて複数の三角に割る手法)にて面積の計算ができますが、精度は高くありません。現代の日本では機械測量が主流で、座標値による面積と距離の測定ができるため高精度です。
○プラン
プランニングとも言います。設計士によってやり方は様々ですが、方眼紙を使って間取りを割っていく方法が一般的かと思われます。加えて建物の高さなどを検討していきます。この時点では方眼のマス目に沿ってフリーハンドで書くことが多いです。
小説に例えるならプランニングがプロットで、設計製図が執筆と言ったところでしょうか。と言うことは、工事が作品の商業化……?
○片廊下
日本の場合は太陽の南中がありますので、日当たりのいい南面に主要な部屋を配置し、北面の東西方向に廊下を走らせるのが片廊下型プラン、又は片廊下式プランと言います。
これに対して中廊下型プランがありますが、例えば住宅建築などで北面に水回りなどの日当たりを必要としない部屋を配置し、廊下を間取りの中央に走らせるプランです。その他、日当たりの必要な個室が多い場合は東西に部屋を配置して、廊下を南北方向に走らせる中廊下型もあります。
○構造規定
本作で出てきた雛形設計とは、建築士試験の標準解答例をもとにしております。
建築士試験は学科試験と設計製図試験の2段階になっており、一級建築士の場合、設計製図試験の例年の課題文では「地盤は強固なものとし、補強や改良の必要性はないものとする」という条件が多いです。国内そんな場所の方が少数派ではありますが、6時間半ぶっ通しで、プラン、論文(説明文程度)、製図を行うので、現実的に地盤補強の検討時間まではないんですね。
単体規定と集団規定は本編記載のとおりです。
『第6話 製図道具』
○製図道具
建築士試験では通信機器の持込みができないため、設計製図試験は未だに手描きの試験です。つまりパソコンを持ち込んでのCADソフトを使用できる試験ではありません。そうかと言って高性能のドラフターは使えません。使えるのはT型定規の製図板か平行定規の製図板です。
『第7話 設計図書』
○製図道具
本作ではT型定規としましたが、これはかなり古い方法です。現代日本の建築士試験では平行定規を使う受験者が圧倒的多数です。基本はどちらも平行線が引けるだけの製図板です。平行線を引ける定規に直角定規をあてて垂直線を引きます。
長さについては予め薄い補助線を引いておいてから縮尺定規をあて、印をつけて実線を引きます。設計製図試験の解答用紙は予め方眼紙になっているため、方眼の線を利用することも効率的です。
○トラス構造
大空間を構築するために採用される工法です。体育館などの天井に見える三角形の鉄骨部材などがトラスです。本作の転移先で鉄は出てきますが、鉄骨の製造技術と運搬技術がないため体育館はありません。
また、本作では既存校舎の2階の床梁にトラスを採用しておりますが、現実でこういった手法は稀です。大抵は屋根を支えるために使われるもので、トラスの上に床を組むのは構造計算が大変です。
トラスは三角形にすることで鉛直に下りてくる荷重を分散させるのが狙いです。部材の端部はピン接合と言って金物などで構築します。接合を剛にしてしまうと荷重分散の応用が利かないんですね。
『第8話 資材調査』
○プレカット
言葉のとおり木製建材が事前に工場で機械加工(カット)されることを指します。
柱、梁、土台などの構造部材は金物で固定したり継ぐ他、継ぎ手と言って鍵と鍵穴のように突起物と差し込み穴を設けて接合します。昔は大工さんがのみを使って加工していたものですが、現代は工場で機械加工されるこのプレカットが主流です。
今や機械加工が主流とは言え、昔は複雑な形の継手を現場で手加工していたのだから、職人さんは凄いなと思います。宮大工さんなんかは今でも手作業すると聞きますしね。
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