第3話 魔女の館

「こちらがジオさんとユリさんです、そしてこちらが、わたしの師匠の゙リーンズベルの魔女゙です」

ジオとユリはキョトンとしています。クラリスが示した先には小さなお人形がありました。

 魔女の館は館というより古城といった趣で、煉瓦でできた城壁が四方に向けて正方形にそびえ立ちその内側に館があり4つの連絡橋で繋がっていて、連絡橋は建物を突き抜けて館の中庭にある塔につながり階段で中庭にに下りて館に入れるようになっています。城壁は魔族との戦いでボロボロになり、リーンズベルの人々を守ったこの城はその後打ち捨てられ今は魔女が住んでいるのです。南棟にある正門から入ると大きな階段のあるホールとなっていて南棟のほとんどを占めるほどです。大階段を上がり2階の通路を通って西棟に行くとそこには食堂があり、ジオとユリはそこでクラリスが紹介しだリーンズベルの魔女゙という人形を見つめていました。

  その人形は人間の頭ほどの大きさで、黒と青のゴシックなドレス姿に大きな白い薔薇の飾りのついた帽子をしていて、食堂の長いテーブルの上に用意された小さなお部屋で上質な丸い木のテーブルと綺麗なレースのついた椅子に座り、優雅に紅茶を嗜んでいました。

 目の前の光景を理解できず困惑しているジオとユリを面白がって気にもとめない様子で紅茶とケーキを食べている゙リーンズベルの魔女゙という人形にクラリスは怒ってお部屋の土台を揺らしたので人形は椅子ごとひっくり返ってしまい、仰向けに倒れたままクラリスを見上げました。

「師匠!お客様だよ、聞いてる?」

「聞いてるわ....」

そう言って人形はクラリスの指に掴まり起き上がると椅子をなおして座り、口元についたケーキのクリームを指でとり口にいれると舐めながらジオとユリを冬の夜空のような紺碧の瞳で見上げました。

「聞いてるなら返事してよ、お客様に失礼でしょう」

クラリスは魔女の小部屋に顔を近づけてそう言いました。

「失礼なのは魔女のティータイムを邪魔する方よ」

「連れてきなって言っての師匠じゃん」

「いつも言葉に気をつけなさいと言っているでしょう。それじゃあ、私が自分で呼んだ客を困らせて喜んでいるいじわるな魔女みたいじゃあない?」

「だって、そうじゃん....」

「あなたをいじめてたのよ」

思いもしないことを言われてキョトンとしているクラリスから魔女は今度はクラリスの連れてきたお客様を観察するように眺めました。

「いらっしゃい、魔女の館へ。ここはボロボロで埃だらけで住みよくないと思うけど客室は使えるし、気に入ればしばらく過ごしていってもかまいませんよ」」

ジオがユリの様子を伺いながら答えようとするとクラリスが遮ってしまいました。

「ふたりはここに泊まるってよ」

「あの......」

「あら、そう...」

リーンズベルの魔女はすべてを悟って面白がるような目付きをジオに向けました。

「そうなのね?」 

ジオは二人の魔女に弄ばれる(片方はそんなつもりはないみたい)のが癪でユリの言葉を借りて答えました。

「大きなベッドがあれば」

「ありますよ、20人で寝れるベッドがね」

「えっ!?えっと20人分のベッドがあるんですか?」

「ふふふ、旅人なら知りませんよね。リーンズベルではみんなで1つのベッドに寝るんですよ」

そう言って魔女はジオとユリの驚く顔を見て微笑んでいます。

「20人...かぁ....、さすがに私でももたないわね、すごい所に来てしまったわ」

ユリは相変わらず勘違いしているのか、その振りをして遊んでいるのかわからない口調です。

「今は使わない大寝室には100人用のベッドがありますよ。この城の全部でリーンズベルの人々全員分ありますよ」

人形はほころぶ口元を見事な造形の手で隠しユリの反応を待っているようです。

するとユリはジオに泣きつくように抱きつくとジオの大きな胸に顔を埋めました。

「ジオ、ここから逃げましょう!100人なんて無理よ、耐えられない!私、ベッドで負けるなんていやよ!!」

そう言って震えているユリの背中を叩きながらジオは確信していました。

(この二人もう気が合ってるんだ)

ユリがどさくさに紛れてジオの胸に顔をグリグリ押し付けているのでジオがユリの頭をギューっと抱きしめるとユリは苦しそうに喜んでいます。それを魔女人形は微笑んでいて、すっかり置いてきぼりのクラリスはお鍋をおたまで叩きながら呟きました。

「ねぇ、シチューは?魔女のシチューは食べないの?」

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リーンベル 夕浦ミラ @Uramira

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