犯罪者はいないので平和で理想的なマイノリティのための世界です。

性とは、差別とは。疑問にありふれた答えで満足しない女の子と、心を獲得するI/Fの男の子。
二人の"セイ"を描いた物語。

――被差別者、少数派のための世界を設けたらどうなるか。
業務量の少ない働きアリを取り除けば、生産率はあがりますね?
犯罪者を皆殺しにすれば優しい世界になりますね?
無宗教者を排除すれば、神を信じる者だけになりますね?

SFらしい理想郷の描き方、歪んだ歯車と認知、差別者を差別する側に回ることで欺瞞の目隠しをして社会を回す矛盾……。
大好物のテーマが詰まった作品です。決してセクサロイド的描写とか姉ショタだとかそんなものに釣られたわけではございません。

王道の理想郷≒ディストピアを二転三転させて独特の切り口で描いた本作。時折混ざる直訳めいた言葉、自分の存在意義を明確に認識しているが故の葛藤……大好物です。しいて言えばヒロインが年齢のわりに大人「すぎた」かな、とも思ったこと。
現代においても通じる思考、疑問。それに目をつむり耳をふさいで生きている人間は多いはず。そんな欺瞞に臆せず向き直る彼女の強さがとても魅力的な作品でした。

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