3. 月曜日(後)
一回戦を勝ち抜けるかどうか怪しい泡沫候補の一つだった泉野高が今大会で大きく躍進を遂げた要因に挙げられるのは、やはり堅守だ。
下半身を重点的に鍛えた下地もあり、守備能力は格段に向上された。特に内野陣は県内の強豪校と比べても遜色ないレベルにまで成長した。ボコボコに荒れた土のグラウンドでイレギュラーな打球に順応出来るようになれば、丁寧に整備されているグラウンドの上だとお手の物だ。
徹底的に特訓された結果、今大会のエラー数は僅かに一つ、出場校の中で最少だ。失点数もダントツで抑えている。結果、少ない得点でも失点数で上回って勝ちに繋がっている。
それに加えて、新藤という扇の要の存在が大きい。
僅かなクセを見抜く洞察力、膨大なデータを漏らさず蓄積する記憶力、ほんの少しの変調から危険を察知する嗅覚、どんな場面でも冷静かつ瞬時に判断を下す決断力、そして小学生の頃から全国レベルの大会へ出場して培ってきた経験。
反射神経も抜群でボールを後ろに逸らしたり弾いたりしないし、肩も強く二塁までの送球タイムも全国平均を大きく下回る上に内野手のグラブへ精確に投げられる。
卓越した野球センスに慢心せず、飽くなき向上心を常に持って努力を重ねた結果、その実力はさらに磨きがかかっていた。
そして新藤は自分の才能に驕ることなく、フランクな態度で接してくれた。自分の考えを押し付けたり強要したりせず、常にチームメイトの意見や意思を尊重してくれた。そして、求められればアドバイスや技術論を懇切丁寧に教えてくれた。
試合中もミスや失敗に対して叱責したり咎めたりすることはしなかった。
『今のは打った相手が上手だった。ボール自体は大丈夫』
『誰だってエラーはするさ。ミスは続けないことが大切だから切り替えていこう』
……といった感じである。
その代わりに怠けたり手を抜いたりした場合は烈火の如く怒った。一度だけ練習中にサボった選手に注意したのを目撃したのみで、以降は怒っている姿を見ていない。
新藤はどちらかと言えば褒めたり言い回しを変えたりしてチームメイトを巧みにリードしているから、チーム全体が上手く回ると思う。勿論、自分も含めて。
『別にミットへピッタリ投げ込もうと思わなくて良いから。コースに大体来ていれば大丈夫』
『速くて荒れるくらいなら遅くても制球の方を重視して。でも、こっちが求めたらコントロール気にせず本気で投げて』
どちらかと言えばやる気が表に出ない岡野の性格もばっちり把握しており、ゆるい感じに求めてくる。口煩く言われるとやる気を損なうが、程々なら「やってみるか」と前向きに頑張ろうとするのだ。
そんな感じで、チームメイトは新藤の掌で思うまま踊っているからこそ成績に上手く結び付いているのかも知れない。
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